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循環器専門医からみる「経口強心薬」の有効性【在宅でできる小技シリーズ】
循環器専門医からみる「経口強心薬」の有効性【在宅でできる小技シリーズ】
Point 血管拡張薬や利尿薬を合わせて使っても「良い状態」が保てない時に使う 強心薬は「心臓を強く動かす」「循環を補助する」ための薬。使用によって不整脈が増えるので注意する 大規模スタディでのエビデンスはない 使用することでQOLが上がったり、余命が延びたというエビデンスはない。ただ、個人的な経験では、使用によって動けるようになった患者もいた 結論 エビデンスは確立していないものの、QOLを改善させる、かも。 ハトミル心不全、ハトミル心電図は2025年9月17日をもちまして、サービス提供を終了いたしました。 長らくのご利用ありがとうございました。なお、臨床に関する疑問や悩みを相談する場、ヒポクラ「全科横断カンファ」でも、心不全、心電図に関する、ご相談は可能でございますので、ぜひ、そちらにご相談をお寄せください。「ヒポクラ 全科横断カンファ」はこちら
フロセミドの静脈注射ができない場合【在宅でできる小技シリーズ】
フロセミドの静脈注射ができない場合【在宅でできる小技シリーズ】
Point 用法用量は1日1回20mgを「静脈注射」または「筋肉内注射」 海外ではフロセミドの皮下注射も行われている 海外では持続皮下注射するポンプが使われることもある その場合に使われる薬剤はpHが調整されている 結論 ラシックス注は添付文書を読むと筋肉注射も可能で、静注が難しい場合に選択肢として考えておこう 参考 フロセミド注20mg(先発)の添付文書 https://www.info.pmda.go.jp/go/pack/2139005F1052_1_03/ Subcutaneous Furosemide in Heart Failure: Pharmacokinetic Characteristics of a Newly Buffered Solution https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2452302X17302632?via%3Dihub ハトミル心不全、ハトミル心電図は2025年9月17日をもちまして、サービス提供を終了いたしました。 長らくのご利用ありがとうございました。なお、臨床に関する疑問や悩みを相談する場、ヒポクラ「全科横断カンファ」でも、心不全、心電図に関する、ご相談は可能でございますので、ぜひ、そちらにご相談をお寄せください。「ヒポクラ 全科横断カンファ」はこちら
原発性自然気胸の外来治療:非盲検無作為化対照試験
原発性自然気胸の外来治療:非盲検無作為化対照試験
Ambulatory management of primary spontaneous pneumothorax: an open-label, randomised controlled trial Lancet. 2020 Jul 4;396(10243):39-49. doi: 10.1016/S0140-6736(20)31043-6. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約【背景】原発性自然気胸は健康な若年患者にも起こる。最適な管理法は定義されておらず、入院期間が長引くことが多い。外来治療の有効性に関するデータは少ない。著者らは、外来治療による入院期間および安全性を標準治療と比較することを目的とした。【方法】この非盲検無作為化試験では、英国の病院24施設で3年間にわたり、症候性の原発性自然気胸成人患者(16~55歳)を登録した。患者を外来用デバイスと標準ガイドラインに従った管理(吸引および標準的な胸腔チューブ挿入、またはそのいずれか)に無作為化により(1対1の割合で)割り付けた。主要評価項目は、無作為化後最長30日間の再入院を含めた入院期間とした。主解析はデータが入手できた患者を対象とし、安全性解析は割り付けた全患者を対象とした。この試験はInternational Standard Randomised Clinical Trialsの番号ISRCTN79151659で前向きに登録されている。【結果】2015年7月から2019年5月までの間にスクリーニングした776例のうち236例(30%)を外来治療(117例)、標準治療(119例)に無作為化により割り付けた。30日時点で、入院期間中央値は、外来治療を受けデータが入手できた114例(0日[IQR 0~3])の方が標準治療を受けデータを入手できた113例(4日[IQR 0~8])よりも短かった(P<0.0001;差の中央値2日[95%CI 1~3])。236例中110例(47%)に有害事象が発現し、内訳は外来治療群117例中64例(55%)、標準治療群119例中46例(39%)であった。外来治療を受けた患者に重篤な有害事象が計14件発現し、このうち8件(54%)が気胸の増大、無症候性の肺浮腫およびデバイスの不具合、漏出、ずれなどの介入によるものであった。【解釈】原発性自然気胸の外来治療によって最初の30日間の再入院を含め入院期間が有意に減少したが、有害事象が増えた。このデータからは、原発性自然気胸は、介入が必要な患者に外来用デバイスを用いることにより、外来での治療が可能であることを示唆している。 第一人者の医師による解説 患者自身の自己管理のため 合併症や事故のリスクが大きいことに留意 栗原 正利 公益財団法人日産厚生会玉川病院 気胸研究センター 気胸研究センター長 MMJ. December 2021;17(6):175 原発性自然気胸患者の外来通院ドレナージ治療は次第に普及しつつあるがその評価はまだ明確でない。本論文は、原発性自然気胸に対する外来通院治療の安全性と入院期間短縮効果を入院標準治療と比較した、英国の多施設共同ランダム化非盲検対照試験(RandomisedAmbulatoryManagementofPrimaryPneumothorax;RAMPP)の報告である。入院標準治療は英国胸部疾患学会(BTS)ガイドラインに準じた初期治療を意味し、胸部X線写真において肺門のレベルで胸壁から肺の輪郭までの距離が2cm以上の患者および/または呼吸器症状のある患者に対して、1回吸引治療または胸腔ドレナージ治療を行うものである。それに対して外来通院治療では携帯型ドレナージキットとしてハイムリッヒバルブとボトルがついたRocketPleuralVent(RocketMedical社、英国)が用いられた。RAMPP試験には英国の病院24施設が参加し、携帯型ドレナージキットによる外来通院治療群(117人)と入院標準治療群(119人)の間で有用性が比較検討された。主要評価項目として30日までの入院期間、副次評価項目として追加治療の必要性、有害事象、痛み・息切れの評価、再発率、欠勤期日などが検討された。その結果、外来通院治療群では、入院標準治療群に比べ、入院期間は有意に短縮し、再発率(7日目:7%対19%)は低く、手術紹介の頻度は同程度であった(28%対22%)。著者らは、ドレーンにまつわる有害事象はやや認められるものの、携帯型の胸腔ドレナージキットによる外来通院治療は推奨できると結論づけている。多施設共同ランダム化試験で、外来通院ドレナージ治療の有用性を科学的に検討した試みは評価したい。一方で、外来通院ドレナージ治療は、患者自身の自己管理になる。したがって合併症や事故のリスクは入院治療の場合よりはるかに大きい。ドレナージ装置取り扱いの十分な説明と問題が生じた時には24時間病院に連絡できる体制を取らなければならない。外来通院治療はリスクを伴うことを肝に銘じておくことが重要である。今回の外来通院治療は英国BTSのガイドラインに基づいて行われているが、米国には米国胸部疾患学会(ACCP)によるガイドライン(1)があり、日本には独自のガイドラインがある。各国の医療制度の違いにより診断および治療方針が異なるので、今後は各国で共有できる情報の整理を行っていく方向性が重要と考えられる。外来通院ドレナージ治療は、その携帯装置が日本でいち早く開発され世界に先駆けて導入されている(2)。日本において携帯型ドレナージキット治療が一番進んでいるのが実情である。 1. Baumann MH, et al. Chest. 2001;119(2):590-602. 2. 江花弘基 , et al. 日救急医会誌(JJAAM). 2011; 22: 803-809.
基礎インスリン療法を実施している2型糖尿病患者の血糖制御に用いる持続血糖モニタリングの効果:無作為化比較試験
基礎インスリン療法を実施している2型糖尿病患者の血糖制御に用いる持続血糖モニタリングの効果:無作為化比較試験
Effect of Continuous Glucose Monitoring on Glycemic Control in Patients With Type 2 Diabetes Treated With Basal Insulin: A Randomized Clinical Trial JAMA. 2021 Jun 8;325(22):2262-2272. doi: 10.1001/jama.2021.7444. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約【重要性】持続血糖モニタリング(CGM)は、強化インスリン療法中の2型糖尿病成人患者にとって便益があることが示されているが、食前インスリン療法を実施していない基礎インスリン療法中の2型糖尿病患者でのCGM使用は検討されていない。【目的】プライマリケア診療で、食前インスリン療法を実施していない基礎インスリン療法中の2型糖尿病成人患者でCGMの有効性を検討すること。【デザイン、設定および参加者】この無作為化臨床試験は、米15施設(登録期間2018年7月30日から2019年10月30日;最終追跡調査日2020年7月7日)で実施し、プライマリケア医から糖尿病治療を受けており、食前インスリン療法を実施せず持効型または中間型の基礎インスリン製剤を1日1~2回投与している2型糖尿病成人患者を登録した。インスリン以外の血糖降下薬による薬物療法の有無は問わなかった。【介入】CGM群(116例)と従来の血糖測定器によるモニタリング(BGM)群(59例)に2対1の割合で無作為化により割り付けた。【主要評価項目】主要評価項目は、8カ月時点のヘモグロビンA1c(HbA1c)とした。CGMで測定した血糖目標値が70~180mg/dLの範囲内にある時間(の割合)(TIR)、血糖値が250mg/dLを超える時間、8カ月時の平均血糖値を主な副次評価項目とした。【結果】無作為化により割り付けた175例(平均年齢[SD]57歳[9];女性88例[50%];人種・民族的マイノリティ92例[53%]、治療前のHbA1c平均値[SD]9.1%[0.9%])のうち、165例(94%)が試験を完了した。CGM群のHbA1c平均値が治療前の9.1%から8カ月後の8.0%に、BGM群では9.0%から8.4%に低下した(調整後群間差、-0.4%[95%CI、-0.8~-0.1];P=0.02)。CGM群をBGM群と比較すると、CGMで測定した平均TIRは59%に対して43%(調整後群間差、15%[95%CI、8~23];P<0.001)、血糖値が250mg/dLを超える時間の割合は11%に対して27%(調整後群間差、-16%[95%CI、-21~-11];P<0.001)、平均血糖値の平均は179mg/dLに対して206mg/dL(調整後群間差、-26mg/dL[95%CI、-41~-12];P<0.001)であった。CGM群1例(1%)、BGM群1例(2%)に重度の低血糖が発現した。【結論および意義】食事前インスリン投与を実施しておらず、基礎インスリン療法のみでは血糖制御不良の2型糖尿病成人患者で、従来の血糖モニタリングよりも持続血糖モニタリングの方が8カ月後のHbA1c値が有意に低下した。 第一人者の医師による解説 日本ではこの数年にFGMが普及 新たなデバイスで糖尿病診療が進化 石原 寿光 日本大学医学部糖尿病代謝内科教授 MMJ. December 2021;17(6):179 持続的血糖モニタリング(CGM)は、1型糖尿病患者はもちろん、強化インスリン治療中の2型糖尿病患者に用いた場合、血糖コントロールに有効であることが示されているが、ボーラスインスリン注射を行わない、基礎インスリン補充のみで治療されている2型糖尿病患者における有効性は検証されていない。そこで、本論文の著者らは、持効型あるいは中間型インスリンの1日1回または2回注射で治療中の2型糖尿病患者(インスリン以外の血糖降下薬併用の有無は問わない)におけるCGMの有効性を、従来の指先などで採血して行う自己血糖測定(SMBG)を対照として、ランダム化対照試験(MOBILE試験)により検討した。米国の15施設で、2018年7月30日~19年10月30日に175人の患者の組み入れが行われ、主要評価項目として8カ月後のHbA1cが評価された。CGM群の患者にはDexcomG6CGMシステムが装着され、適宜SMBGも併用された。その結果、8カ月後のHbA1cは、CGM群ではベースラインの9.1%から8.0%、SMBG群で9.0%から8.4%に低下し、低下の度合いは有意にCGM群で大きかった(群間差のP=0.02)。また、グルコース値が70~180mg/dLに入っている1日のうちの時間の割合は、CGM群では59%、SMBG群では43%とCGM群の方が有意に高く(P<0.001)、250mg/dL超の時間の割合はそれぞれ11%と27%とCGM群の方が有意に低かった(P<0.001)。重症な低血糖の発生率はそれぞれ1%と2%のみであった。したがって、持効型あるいは中間型インスリンの1日1回または2回注射で治療中の2型糖尿病患者においても、CGMは有効であると考えられた。今後、数年単位でこの効果が持続するかなどを検証していく必要があると思われる。日本では、この数年にFreestyleリブレTMによるFlashGlucoseMonitoring(FGM)が普及してきている。現在の保険適用は、強化インスリン療法施行中の患者が主体であるが、基礎インスリンのみの患者への適用拡大も検討されている。また、インスリンを使っていない経口糖尿病薬のみの患者でのFGMの有効性も報告されており(1)、新たなデバイスが糖尿病診療を進化させつつある。 1. Wada E, et al. BMJ Open Diabetes Res Care. 2020;8(1):e001115.
虚血性脳卒中患者の心房細動検出に用いる植込み型ループレコーダーと体外式ループレコーダーの比較:PER DIEM無作為化臨床試験
虚血性脳卒中患者の心房細動検出に用いる植込み型ループレコーダーと体外式ループレコーダーの比較:PER DIEM無作為化臨床試験
Effect of Implantable vs Prolonged External Electrocardiographic Monitoring on Atrial Fibrillation Detection in Patients With Ischemic Stroke: The PER DIEM Randomized Clinical Trial JAMA. 2021 Jun 1;325(21):2160-2168. doi: 10.1001/jama.2021.6128. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約【重要性】体外式ループレコーダーまたは植込み型ループレコーダーを用いた心電図モニタリングによる虚血性脳卒中後の心房細動(AF)または心房粗動の相対検出率は明らかになっていない。【目的】虚血性脳卒中を発症して間もない患者で、植込み型ループレコーダーを用いた12カ月間のモニタリングが従来の体外式ループレコーダーを用いた30日間のモニタリングよりもAF発生を多く検出できるかを明らかにすること。【デザイン、設定および参加者】カナダ・アルバータ州の大学病院2施設および市中病院1施設で、2015年5月から2017年11月にかけて虚血性脳卒中発症6カ月以内でAFの既往歴がない患者300例を登録し、医師主導型非盲検無作為化臨床試験を実施した。最終追跡が2018年10月であった。【介入】参加者を植込み型ループレコーダー(150例)と体外式ループレコーダー(150例)による持続的心電図モニタリングに1対1の割合で無作為化により割り付けた。参加者は、経過観察のため30日後、6カ月後および12カ月後に受診した。【主要評価項目】主要評価項目は、AF確定(definite AF)またはほぼ確実なAF(highly probable AF)(無作為化後12カ月以内に2分以上持続する新たなAFの判定)とした。新規AFのtime to event解析、虚血性脳卒中の再発、頭蓋内出血、死亡および12カ月以内に発生した機器関連の重篤な有害事象などの8項目を事前に定めた副次評価項目とした。【結果】無作為化により割り付けた300例(年齢中央値64.1歳[四分位範囲、56.1~73.7];女性121例[40.3%];CHA2DS2-VASc[うっ血性心不全、高血圧、75歳以上、糖尿病、脳卒中または一過性虚血発作、血管疾患、65~74歳、性別]スコア中央値4点[四分位範囲、3~5]の原因不明の脳卒中66.3%)のうち273例(91.0%)が24時間以上の心臓モニタリングを完了し、259例(86.3%)が割り付けたモニタリングおよび12カ月間の経過観察を完遂した。主要評価項目は、植込み型ループレコーダー群の15.3%(150例中23例)、体外式ループレコーダー群の4.7%(150例中7例)に発現した(群間差、10.7%[95%CI、4.0~17.3%];リスク比、3.29[95%CI、1.45~7.42];P=0.003)。8項目の副次評価項目のうち、6項目に有意差が認められなかった。植込み型ループレコーダー群の5例(3.3%)に虚血性脳卒中が再発したのに対して、体外式ループレコーダー群では8例(5.3%)に再発を認めた(群間差、-2.0%[95%CI、-6.6~2.6%])。各群1例(0.7%)に頭蓋内出血が発生し(群間差、0%[95%CI、-1.8~1.8%])、各群3例(2.0%)が死亡し(群間差、0%[95%CI、-3.2~3.2%])、それぞれ1例(0.7%)と0例(0%)に機器関連の重篤な有害事象が発現した。【結論および意義】AFの既往歴がない虚血性脳卒中患者で、植込み型ループレコーダーによる12カ月間の心電図モニタリングのAF検出率が、30日間の体外式ループレコーダーによるモニタリングよりも有意に高かった。このモニタリング法による臨床成績および相対的な費用効果を比較する詳細な研究が必要である。 第一人者の医師による解説 社会的経済的状態と疾病の発症について 生活習慣との相互作用を含めた研究が必要 門脇 孝 虎の門病院院長 MMJ. December 2021;17(6):188 心原性脳塞栓症は最重症のノックアウト型脳梗塞をきたす。原因の大部分は高齢化で増加が予想される心房細動(AF)だが、幸い抗凝固療法によりリスクを約3分の1に低減することができる。したがって、AF診断の強化が要介護削減、健康寿命延伸のカギを握る。虚血性脳卒中(IS)は心原性に限らずAF有病率が高い。再発予防の観点からAF診断が重要だが、ホルター心電図などでは検出困難な発作性AFが多数潜在している。このような潜在性AFの検出には植込み型ループレコーダー(ILR)が極めて有用だが、その保険適用は発症原因が特定できない潜因性脳梗塞(CS)に限られる。本研究は、既知のAFがない発症半年以内のISを対象とし、4週間可能な限り体外式ループレコーダー(ELR)を装着する群と、ILRで1年間監視する群とに無作為に割り付け、2分間以上持続するAFの検出率を比較検討したものである(各群150人)。その結果、AF検出率はELR群の4.7%に対し、ILR群では15.3%と10.7%高く、リスク比は3.29であった(P=0.003)。ILRはELRより有意にAF検出率を高められるという結果が示されたことから、ILRの適応をすべてのISに拡大すべきかどうかが議論となるが、本研究の対象患者は66%がCSである上に、病型別の検出率も示されていないため、CS以外のISでの有用性は明らかでない。長時間の心電図モニタで病型別のAF検出率を検討した報告はほとんどない。参考までに、当院では入院時心電図でAFが認められないすべてのISに対し、原則1週間デュランタR(ZAIKEN)による非侵襲的心電図モニタを行っており、Stroke2021で筆者が当院の臨床データを発表した時点で7日目まで監視しえた患者は1,066人に達する(1)。病型別のAF検出率は、TIA0%、ラクナ梗塞3.9%、アテローム血栓性脳梗塞5.4%、CS10.5%であり、CS以外の病型におけるAF検出率はCSのおよそ半分以下となっている。したがって、CS以外のISではILRによるAF検出率の上乗せ効果はさほど大きくなく、侵襲的で高額なILRの適応をすべてのISに拡大するほどのメリットは得られないと予想される。潜在性AFの検出は「Thelonger,thebetter」であり、検出力の観点からはILRが最も優れるものの検査数は限られる。重要なのは検出数を増やすことであり、まずは広く実施可能で、検出力も比較的高い非侵襲的長時間心電図モニタによるAF監視の強化を優先すべきであろう。 1. 第 46 回日本脳卒中学会学術集会:虚血性脳卒中急性期の非侵襲的長時間心電図モニタによる悉皆的心房細動スクリーニングの有用性(抄録番号:卒中 O-061-2)
院外心停止後の低体温と正常体温の比較
院外心停止後の低体温と正常体温の比較
Hypothermia versus Normothermia after Out-of-Hospital Cardiac Arrest N Engl J Med. 2021 Jun 17;384(24):2283-2294. doi: 10.1056/NEJMoa2100591. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約【背景】心停止後の患者に体温管理療法が推奨されているが、それを裏付ける根拠は確実性が低い。【方法】盲検下で転帰を評価する試験で、心原性または原因不明の院外心停止を起こし蘇生後に昏睡状態に陥った成人患者1,900例を33℃の低体温目標(その後制御下で復温)と正常体温目標(37.8℃以上の発熱を早期に治療)に無作為化により割り付けた。主要評価項目は、6カ月時の全死因死亡とした。6カ月時の機能的転帰を副次評価項目とし、修正Rankin尺度で評価した。性別、年齢、初期心調律、自己心拍再開までの時間、入院時のショックの有無に従って部分集団を事前に定義した。肺炎、敗血症、出血、血行動態を損なう不整脈、体温管理装置による皮膚合併症を有害事象とした。【結果】計1,850例で主要評価項目を評価した。6カ月時点で、低体温群925例中465例(50%)が死亡していたのに対して、正常体温群では925例中446例(48%)が死亡していた(低体温群の相対リスク、1.04;95%CI、0.94~1.14;P=0.37)。機能的転帰を評価した1,747例のうち、中等度以上(修正Rankin尺度スコア4点以上)の障害が認められたのは、低体温群では881例中488例(55%)であったのに対し、正常体温群では866例中479例(55%)であった(低体温群の相対リスク、1.00;95%CI、0.92~1.09)。事前に定めた部分集団でも転帰が一定であった。低体温群の方が正常体温群よりも血行動態を損なう不整脈の発現率が高かった(24% vs. 17%、P<0.001)。その他の有害事象の発現率に両群間で有意差は認められなかった。【結論】院外心停止後の昏睡患者で、低体温療法により6カ月後までの死亡率が常温療法より改善することはなかった。 第一人者の医師による解説 心停止蘇生後の体温管理 上昇させないことが大切 櫻井 淳 日本大学医学部救急医学系救急集中治療医学分野診療教授 MMJ. December 2021;17(6):187 心停止蘇生後の脳障害に対する治療として、2002年に蘇生後の低体温管理群は体温管理をしない群より神経学的転帰が有意に良かったと報告され(1)、2013年には体温管理目標で常温(36℃)と低体温(33℃)で転帰に差がないと報告された(2)。心停止蘇生後は体温管理療法(targetedtemperaturemanagement;TTM)が必要であるが、最適な目標温度に関してはいまだ議論中である。本論文はこの最適な体温決定のための国際共同多施設ランダム化比較試験の報告である。対象は18歳以上の成人で、心原性か心停止の原因が不明の院外心停止蘇生後で、従命反応がない患者であった。低体温群と常温群で死亡率や機能的な回復に関して比較が行われた。低体温群では割り付け後直ちに33℃まで体温を低下させ、28時間維持した後に3時間に1℃で37℃まで復温した。常温群では37.5℃以下を維持するように薬剤を用いて40時間体温を管理し、37.8℃以上となった際には冷却器具で体温を低下させた。両群とも、TTM終了後に割り付け時点から72時間までは36.5~37.7℃の常温を維持した。1,850人の生命予後が比較され、低体温群の死亡率は50%(465/925人)であり、正常体温群の48%(446/925人)と比較し有意差はなかった(相対リスク[RR],1.04;95%信頼区間[CI],0.94?1.14;P=0.37)。1,747人の機能的予後が評価され、低体温群では55%(488/881人)に中等度の機能障害以上の障害があり、常温群では55%(479/866人)と差はみられなかった(RR,1.00;95%CI,0.92?1.09)。性別、年齢、心停止時間、初期心電図波形といったサブグループ解析でも両群間に差はなかった。一方、低体温群では常温群に比べ合併症として循環に影響のある不整脈が多かった(24%対17%;P<0.001)。本論文の出版前に出された日本蘇生協議会(JRC)蘇生ガイドライン2020では、TTM実施時は32~36℃の間で目標体温を設定し一定期間維持することが推奨されている。本ガイドラインではTTMの精度として、目標体温への到達時間や維持期の厳格な体温管理の重要性が述べられており(3)、本検討に関しこの部分で批判的な意見もある。また、脳障害の程度によっては低体温療法の方が有効である群が存在する可能性も否定できない。ただ、本試験は十分な患者数の検討であり、GRADEシステムによる今後のガイドライン作成には大きな影響があると考えられる。今回の結果を踏まえると、心停止蘇生後の集中治療でのTTMでは正常体温より上昇させないことが重要であるといえる。 1.Hypothermia after Cardiac Arrest Study Group. N Engl J Med.2002;346(8):549-556. 2.Nielsen N, et al. N Engl J Med. 2013;369(23):2197-2206. 3. 一般社団法人日本蘇生協議会.JRC 蘇生ガイドライン 2020. 医学書院 .2021.
中等症ないし重症の喘息に用いる2剤併用または3剤併用の吸入療法と喘息の転帰:系統的レビューおよびメタ解析
中等症ないし重症の喘息に用いる2剤併用または3剤併用の吸入療法と喘息の転帰:系統的レビューおよびメタ解析
Triple vs Dual Inhaler Therapy and Asthma Outcomes in Moderate to Severe Asthma: A Systematic Review and Meta-analysis JAMA. 2021 Jun 22;325(24):2466-2479. doi: 10.1001/jama.2021.7872. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約【重要性】中等症ないし重症の喘息に対して、吸入コルチコステロイド(ICS)および長時間作用型β2刺激薬(LABA)への長時間作用型抗コリン薬(LAMA)追加による便益と害は明らかになっていない。【目的】制御不良の喘息が持続する小児および成人を対象に、3剤併用療法(ICS、LABA、LAMA)と2剤併用療法(ICS、LABA)の転帰と有害事象を系統的に統合し比較すること。【データ入手元】2017年11月から2020年12月8日までのMEDLINE、Embase、CENTRAL、ICTRP、FDA、EMAのデータベース。言語による制約を設けなかった。【試験の選択】独立した2名の研究者が、中等症ないし重症の喘息に用いる3剤併用療法と2剤併用療法を比較した無作為化臨床試験(RCT)を選択した。【データの抽出および統合】レビュアー2名が独立してデータの抽出とバイアスのリスクを評価した。個々の患者の増悪データを含めランダム効果メタ解析を用いた。GRADE(Grading of Recommendations, Assessment, Development and Evaluation)アプローチを用いて科学的根拠の確実性(質)を評価した。【主要評価項目】重度の増悪、喘息制御(7項目の喘息制御に関する質問票[ACQ-7]で測定、各項目のスコア0~6[完全に制御~重度の制御不良]、最小重要差0.5)、生活の質(喘息関連の生活の質[AQLQ]ツールで測定、1~7点[重度障害~障害なし]、最小重要差0.5)、死亡率および有害事象。【結果】3種類のLAMAを用いて小児と成人計11,894例(平均年齢52歳[範囲、9~71];女性57.7%)を登録したRCT 20件を対象とした。確実性の高い根拠で、3剤併用療法を2剤併用療法と比較すると、重度増悪リスクの低下(試験9件[9,932例];22.7% vs 27.4%;リスク比、0.83[95%CI、0.77~0.90])および喘息制御の改善(14試験[1万1,230例];標準化平均差[SMD]、-0.06[95% CI、-0.10~-0.02])、ACQ-7尺度の平均差-0.04[95% CI -0.07~-0.01])に有意な関連を認めた。2剤併用療法と3剤併用療法の間に、喘息関連QOL(7試験[5,247例)];SMD、0.05[95%CI -0.03~0.13];AQLQスコアの平均差、0.05[95%CI、-0.03~0.13];確実性中等度の根拠)または死亡率(試験17件[11,595例];0.12% vs 0.12%;リスク比、0.96[95%CI 0.33~2.75];確実性の高い根拠)の有意差は認められなかった。3剤併用療法に口腔乾燥および発声障害との関連を認めた(10試験[7,395例];3.0% vs 1.8%;リスク比、1.65[95% CI 1.14~2.38]、確実性の高い根拠]。しかし、治療関連の有害事象と重篤な有害事象に群間差は認められなかった(確実性中等度の根拠)。【結論および意義】中等症ないし重症の喘息の小児(6~18歳)および成人で、3剤併用療法は2剤併用療法と比較して、重度増悪の減少および喘息制御改善の中等度改善との有意な関連を認め、QOLや死亡に有意差はなかった。 第一人者の医師による解説 LAMAの効果が高い集団や副作用の少ない集団が判明すれば 有用なエビデンス 入江 美聡(助教)/福永 興壱(教授) 慶應義塾大学医学部呼吸器内科 MMJ. December 2021;17(6):174 喘息はどの年齢においても有病率の高い慢性呼吸器疾患である。国際的なガイドラインでは6歳以上の中等症・重症喘息患者に適した長期管理薬として吸入ステロイド薬(ICS)と長時間作用型β2刺激薬(LABA)の配合剤による治療(2剤併用療法)が推奨されている。長時間作用型抗コリン薬(LAMA)はLABAと異なる機序での気管支拡張作用を有するが、2剤併用療法でもコントロールが不良な場合におけるLAMA追加投与の効果や有害事象については不明確である。そのため、ICS/LABA/LAMAの3剤併用療法は弱い推奨とされている。これまで、3剤併用療法と2剤併用療法を比較した系統的レビューは2017年までの検索に限られていた。対象研究はチオトロピウムを用いた少数の研究のみに限られており、有害事象についての言及がなされず、喘息増悪における3剤併用療法の有効性は明らかではなかった。2017年以降、米食品医薬品局(FDA)による小児におけるチオトロピウムの使用が認可され、3剤併用療法について多くの試験がなされてきた。今回の論文はコントロール不良な小児および成人の中等症・重症喘息における3剤併用療法と2剤併用療法の効果と有害事象についての系統的レビューおよびメタ解析である。3種類のLAMAを対象とした20件の無作為化試験(小児・成人患者計11,894人)について解析が行われた。主要評価項目は重症増悪、喘息コントロール、生活の質(QOL)、死亡率、有害事象である。結果は重症増悪のリスクが3剤併用療法で有意に低下し(リスク比[RR],0.83)、AsthmaControlQuestionnaire(ACQ)やAsthmaControlTest(ACT)で評価した喘息コントロールが改善した(標準化平均差,-0.06)。一方、喘息関連のQOLや死亡率に差はなかった。また有害事象に関しては3剤併用療法で口渇と発声障害が有意に増加したが、重篤な有害事象について有意差はなかった。GlobalInitiativeforAsthma(GINA)のガイドラインや日本の「喘息予防・管理ガイドライン2018」でもICS/LABAの2剤併用療法における追加療法としてロイコトリエン拮抗薬(LTRA)、LAMA、各種抗体製剤、経口ステロイド薬が挙げられているが、優先順位は示されていない。現実的には各種抗体製剤は薬剤費用の観点から、経口ステロイド薬は長期使用に伴う副作用の観点からそれぞれ第1選択とはなりにくく、LTRAとLAMAのどちらかを(あるいは両薬同時を)追加治療として優先的に選択することが多い。今後、LTRAと比較しLAMAの効果が高い集団や、LAMAの副作用が出現しにくい集団が判明すれば、喘息増悪予防や症状コントロールにおいて有用なエビデンスとなると考える。
成人の反復性片頭痛に用いる急性期治療:系統的レビューとメタ解析
成人の反復性片頭痛に用いる急性期治療:系統的レビューとメタ解析
Acute Treatments for Episodic Migraine in Adults: A Systematic Review and Meta-analysis JAMA. 2021 Jun 15;325(23):2357-2369. doi: 10.1001/jama.2021.7939. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約【重要性】片頭痛は頻度が高く著しい病的状態を引き起こすことがあり、急性期治療に幾つか選択肢がある。【目的】成人の反復性片頭痛に用いる急性期治療の便益と害を評価すること。【データ入手元】開始時から2021年2月24日までの多数のデータベース。【試験の選択】片頭痛発作に用いる急性期治療の効果または害を評価した無作為化臨床試験と系統的レビュー。【データ抽出および統合】独立したレビュアーが試験を選択し、データを抽出した。Hartung-Knapp-Sidik-Jonkman法による分散補正およびDerSimonian-Lairdのランダム効果モデルを用いてメタ解析を実施し、試験数が少ない場合はMantel-Haenszel法に基づく固定効果モデルを用いた。【主要評価項目】主要評価項目は、疼痛消失、疼痛緩和、疼痛消失の持続、疼痛緩和の持続、有害事象とした。科学的根拠の強さ(SOE)をAgency for Healthcare Research and Quality Methods Guide for Effectiveness and Comparative Effectiveness Reviewsを用いて各等級に分類した。【結果】系統的レビュー15報からトリプタンと非ステロイド抗炎症薬に関する科学的根拠を要約した。他の介入について、患者2万8,803例を対象とした無作為化臨床試験115件を対象とした。プラセボと比較すると、トリプタンと非ステロイド抗炎症薬を別々に使用した場合に、2時間後および翌日の疼痛軽減(中程度ないし高度のSOE)および軽度で一過性の有害事象のリスク上昇との有意な関連を認めた。プラセボと比較すると、カルシトニン遺伝子関連ペプチド受容体拮抗薬(低度ないし高度のSOE)、lasmiditan(5-HT1F受容体作動薬;高度のSOE)、dihydroergotamine(中等度ないし高度のSOE)、ergotamine+カフェイン(中等度のSOE)、アセトアミノフェン(中等度のSOE)、制吐薬(低度のSOE)、butorphanol(低度のSOE)、トラマドールとアセトアミノフェンの併用(低度のSOE)に疼痛軽減および軽度の有害事象増加との有意な関連があった。オピオイドに関する結果は、低度または不十分なSOEに基づくものであった。遠隔電気神経調節(中等度のSOE)、経頭蓋磁気刺激(低度のSOE)、外部三叉神経刺激(低度のSOE)、非侵襲的迷走神経刺激(低度のSOE)などの非薬物療法に疼痛改善との有意な関連があった。非薬物療法群とシャム群との間に有害事象の有意差は認められなかった。【結論および意義】片頭痛の急性期治療が幾つかあるが、それぞれの治療を裏付ける科学的根拠の強さにばらつきがある。トリプタン、非ステロイド抗炎症薬、アセトアミノフェン、dihydroergotamine、カルシトニン遺伝子関連ペプチド拮抗薬、lasmiditanおよび一部の非薬物療法に疼痛および機能の改善との有意な関連を認めた。オピオイドを始めとするその他多くの介入に関する科学的根拠は少なかった。 第一人者の医師による解説 ゲパント系薬剤やディタン系薬剤の国内承認で 片頭痛の急性期治療は大きな変革 北村 英二 北里大学医学部脳神経内科学講師 MMJ. December 2021;17(6):173 2016年の世界の疾病負荷研究(GlobalBurdenofDiseaseStudy)によると、世界人口のおよそ14.4%が片頭痛に罹患しており、片頭痛は障害生存年数の第2位に位置する疾患である。片頭痛診療では生活習慣や環境要因に対する生活指導に加え、急性期治療と予防療法が行われる。日本では2021年に抗カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)抗体、抗CGRP受容体抗体による予防療法が承認され、片頭痛診療の大きな変革期が到来している。本論文の目的は成人の反復性片頭痛(国際頭痛分類第3版[ICHD-3]片頭痛診断基準に準じ、片頭痛日数が月に15日未満で慢性片頭痛に該当しないもの)に対する急性期治療の有益性と有害性を評価することである。トリプタンと非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)に関するエビデンスについて15の系統的レビューを、その他の介入研究については115の無作為化臨床試験(患者数28,803人)を評価した。プラセボと比較して、トリプタンとNSAIDsを個別に使用した場合、それぞれ2時間後と1日後の痛みが有意に減少し(エビデンスの強さ[SOE]:中~高)、軽度・一過性有害事象のリスクが上昇した。またプラセボと比較して、CGRP受容体拮抗薬(SOE:低~高)、ラスミディタン(5-HT1F受容体作動薬)(SOE:高)、ジヒドロエルゴタミン(SOE:中~高)、エルゴタミン+カフェイン(SOE:中)、アセトアミノフェン(SOE:中)、制吐薬(SOE:低)、ブトルファノール(SOE:低)、およびトラマドールとアセトアミノフェンの併用(SOE:低)は有意に痛みを軽減し、軽度有害事象の増加を認めた。オピオイドに関してはSOEが低いか不十分であった。一方、片頭痛の非薬物療法については、ニューロモデュレーション(REN)(SOE:中)、経頭蓋磁気刺激装置(TMS)(SOE:低)、経皮的三叉神経刺激装置(e-TNS)(SOE:低)、非侵襲的迷走神経刺激装置(nVNS)(SOE:中)が有意に痛みを改善した。有害事象については、非薬物療法と偽(sham)治療で有意差はなかった。片頭痛に対していくつかの急性期治療があるが、今回の結果から、そのエビデンスの強さはさまざまであることが示された。日本でもゲパント系薬剤(CGRP受容体拮抗薬)(1),(2)、ディタン系薬剤(選択的5-HT1F受容体作動薬)(3)が承認されれば、片頭痛の予防療法のみならず急性期治療も大きな変革期を迎えることが予想される。 1. Croop R, et al. Lancet. 2021;397(10268):51-60.2. Lipton RB, et al. N Engl J Med. 2019;381(2):142-149.3. Goadsby PJ, et al. Brain. 2019;142(7):1894-1904.
筋層浸潤尿路上皮がんに用いるニボルマブ補助療法とプラセボの比較
筋層浸潤尿路上皮がんに用いるニボルマブ補助療法とプラセボの比較
Adjuvant Nivolumab versus Placebo in Muscle-Invasive Urothelial Carcinoma N Engl J Med. 2021 Jun 3;384(22):2102-2114. doi: 10.1056/NEJMoa2034442. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約【目的】高リスク筋層浸潤尿路上皮がんの根治的手術後に用いる術後補助療法の役割は明らかになっていない。【方法】第III相多施設共同二重盲検無作為化比較試験で、根治的手術を受けた筋層浸潤尿路上皮がん患者をニボルマブ(240mg静脈内投与)群とプラセボ群に1対1の割合で割り付け、2週間ごとに最長1年間投与した。試験登録前にシスプラチンを用いた術前化学療法を実施していてもよいこととした。主要評価項目は、全患者(intention-to-treat集団)および腫瘍のPD-L1発現レベル1%以上の患者の無病生存とした。尿路外無再発生存を副次的評価項目とした。【結果】計353例をニボルマブ群、356例をプラセボ群に割り付けた。intention-to-treat集団の無病生存期間中央値は、ニボルマブ群が20.8カ月(95%CI、16.5~27.6)、プラセボ群が10.8カ月(95%CI、8.3~13.9)であった。6カ月時の無病生存率はニボルマブ群が74.9%、プラセボ群が60.3%であった(再発または死亡のハザード比、0.70;98.22%CI、0.55~0.90;P<0.001)。PD-L1発現レベルが1%以上の患者では、割合はそれぞれ74.5%と55.7%であった(ハザード比、0.55、98.72%CI、0.35~0.85、P<0.001)。intention-to-treat集団の尿路外無再発生存期間の中央値は、ニボルマブ群が22.9カ月(95%CI、19.2~33.4)、プラセボ群が13.7カ月(95%CI、8.4~20.3)であった。6カ月時の尿路外無再発生存率は、ニボルマブ群が77.0%、プラセボ群が62.7%(尿路外の再発または死亡のハザード比、0.72;95%CI、0.59~0.89)。PD-L1発現レベル1%以上の患者では、それぞれ75.3%および56.7%であった(ハザード比、0.55;95%CI 0.39~0.79)。ニボルマブ群の17.9%とプラセボ群の7.2%にグレード3以上の治療関連有害事象が発現した。ニボルマブ群では、間質性肺炎による治療関連死が2件報告された。【結論】根治的手術を受けた高リスク筋層浸潤尿路上皮がん患者を対象とした本試験では、術後ニボルマブによりintention-to-treat集団およびPD-L1発現レベル1%以上の患者の無病生存期間がプラセボよりも長くなった。 第一人者の医師による解説 日本でも21年3月に適応拡大申請 手術療法+ニボルマブがいずれ標準治療に 水野 隆一 慶應義塾大学医学部泌尿器科学教室准教授 MMJ. December 2021;17(6):183 筋層浸潤性尿路上皮がんに対する標準治療は、膀胱がんであれば膀胱全摘除術、腎盂尿管がんであれば腎尿管全摘除術とされている。これらは根治を目的とした術式であるが、病理学的に固有筋層浸潤や所属リンパ節転移を認める患者における術後再発率は50%以上と報告されており、再発抑制を目的とした術後補助療法の確立は緊急の課題である。今回報告されたCheckMate274試験は、根治切除後の再発リスクが高い筋層浸潤性尿路上皮がん患者を、ニボルマブ(240mg)群とプラセボ群に1:1に割り付けて比較評価した第3相試験である。根治切除後120日以内で画像再発がない、病理学的に尿路上皮がんが確認された患者を対象とした。ニボルマブ、プラセボともに2週間ごとに最長1年間投与された。主要評価項目は、全無作為化患者(ITT)およびPD-L1発現レベル1%以上の患者における無病生存期間(DFS)、副次評価項目は尿路外無再発生存期間(NUTRFS)、疾患特異的生存期間(DSS)、全生存期間(OS)であった。探索的評価項目は、無遠隔転移生存期間(MFS)、安全性、健康関連の生活の質(QOL)などであった。その結果、ITT解析による主要評価項目DFSは、ニボルマブ群において20.8カ月と、プラセボ群10.8カ月に比べ有意に延長していた(ハザード比[HR],0.70;P<0.001)。PD-L1発現レベル1%以上の集団における6カ月時点の無病生存率もニボルマブ群74.5%、プラセボ群55.7%とニボルマブ群で有意に改善していた(HR,0.55;P<0.001)。NUTRFS、DSS、OS、MFSについても、ITT、PD-L1発現レベル1%以上の集団のどちらでもニボルマブ群で延長が認められた。グレード3以上の治療関連有害事象はニボルマブ群で17.9%、プラセボ群で7.2%に認められた。治療関連有害事象による投薬中止はニボルマブ群12.8%、プラセボ群2.0%であった。ITT、PD-L1発現レベル1%以上の集団ともに、ニボルマブ群ではプラセボ群に比べ健康関連QOLの悪化は認められなかった。本試験の結果から高リスク筋層浸潤性尿路上皮がんの術後補助療法として、ニボルマブがプラセボよりも有意にDFSを延長できることが明らかとなった。局所進行腎盂尿管がん患者に対するプラチナ製剤の術後補助療法によるDFS延長は示されているが、コンセンサスはない。ニボルマブは、高リスク筋層浸潤性尿路上皮がんの術後補助療法として2021年8月に米食品医薬品局(FDA)が承認し、日本でも21年3月に適応拡大が申請された。手術療法+ニボルマブ術後補助療法が高リスク筋層浸潤性尿路上皮がんの標準治療になる日は近い。
健康的な生活習慣および社会経済的地位と死亡率および心血管疾患との関連:2件の前向きコホート研究
健康的な生活習慣および社会経済的地位と死亡率および心血管疾患との関連:2件の前向きコホート研究
Associations of healthy lifestyle and socioeconomic status with mortality and incident cardiovascular disease: two prospective cohort studies BMJ. 2021 Apr 14;373:n604. doi: 10.1136/bmj.n604. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約【目的】生活習慣全般が社会経済的状況(SES)と死亡率および心血管疾患(CVD)発症との関連に介在するかを検討し、生活習慣およびSESと健康転帰との交互作用または複合的な関連の程度を評価すること。【デザイン】住民を対象としたコホート研究。【設定】米国民健康栄養調査(US NHANES、1988~1994年および1999~2014年)とUKバイオバンク。【参加者】米国の20歳以上の成人4万4,462例および英国の37~73歳の成人39万9,537例。【曝露】世帯所得、職業または雇用状況、学歴および健康保険(US NHANESのみ)を用いた潜在クラス分析でSESを評価し、項目回答確率に従って3段階(低、中、高)に分類した。喫煙未経験、非大量飲酒(女性1日1杯以下;男性1日2杯以下;1杯のエタノール含有量は米国14g、英国8g)、身体活動量上位3分の1および質の高い食事に関する情報に基づいて、健康的な生活習慣スコアを構築した。【主要評価項目】全死因死亡率を両研究の主要評価項目とした。複数のレジストリを紐付けることにより、UKバイオバンクのCVD死亡率とCVD発症率を入手した。【結果】US NHANESでは平均追跡期間11.2年で死亡が8906件、UKバイオバンクでは平均追跡期間8.8~11.0年で死亡が2万2309件、CVD発症が6903例記録された。SESが低い成人の年齢で、調整した1,000人年当たりの死亡リスクがUS NHANESで22.5(95%CI 21.7~23.3)、UK Biobankで7.4(7.3~7.6)、年齢で調整した1,000人年当たりのCVDリスクがUKバイオバンクで2.5(2.4-2.6)であった。これに対応するSESが高い成人のリスクは、それぞれ1000人年当たり11.4(10.6~12.1)、3.3(3.1~3.5)、1.4(1.3~1.5)であった。SESが高い成人と比較すると、SESが低い成人の方が全死因死亡率(US NHANESのハザード比2.13、95%CI 1.90~2.38;UKバイオバンク1.96、1.87~2.06)、CVD死亡率(2.25、2.00-2.53)、UKバイオバンクのCVD発症率(1.65、1.52-1.79)のリスクが高かった。生活習慣が介在する割合はそれぞれ12.3%(10.7~13.9%)、4.0%(3.5~4.4%)、3.0%(2.5~3.6%)、3.7%(3.1~4.5%)であった。US NHANESで生活習慣とSESの間に有意な交互作用が認められなかった一方で、UKバイオバンクではSESが低い成人で生活習慣と転帰の間に関連を認められた。SESが高く健康的な生活習慣因子数が3または4の成人と比較すると、SESが低く健康的な生活習慣因子数が0または1の成人は、全死因死亡率(US NHANES 3.53、3.01~4.14;UKバイオバンク2.65、2.39~2.94)、CVD死亡率(2.65、2.09~3.38)およびUKバイオバンクのCVD発症(2.09、1.78-2.46)のリスクが高かった。【結論】米国および英国いずれの成人でも、不健康な生活習慣が健康の社会経済的格差に介在する割合が小さかった。そのため、健康的な生活習慣の推進のみで健康の社会経済的格差が実質的に縮小することはない。健康の社会的決定因子を改善する他の手段が必要である。それでもなお、さまざまなSES部分集団で健康的な生活習慣に低死亡率および低CVDリスクとの関連を認め、健康的な生活習慣が疾病負荷の減少に果たす重要な役割を裏付けている。 第一人者の医師による解説 社会的経済的状態と疾病の発症について 生活習慣との相互作用を含めた研究が必要 門脇 孝 虎の門病院院長 MMJ. December 2021;17(6):188 近年、疾病の発症と社会経済的格差の関係が注目されている。恵まれない社会経済的状態(socioeconomicstatus;SES)と不健康な生活習慣はともに全死亡率と心血管疾患発症率の上昇に関連することが知られている。経済協力開発機構(OECD)諸国の中でも米国と英国では近年、貧富の差が拡大し、健康格差の拡大につながっていることが指摘されている(1),(2)。さらに、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の大流行は、SESが低い人々により深刻な影響を及ぼしている(3)。これまでの研究では、低いSESは主に不健康な生活習慣を介して全死亡率や心血管疾患発症率の上昇に関与すると考えられていた。しかし、これまでSESと生活習慣のそれぞれの寄与や交絡についての詳しいデータはなかった。今回米国の国民健康栄養調査(NHANES)および英国Biobankのデータを用いた2つのコホート研究が行われ、SESと全死亡、心血管疾患発症との関連に対する生活習慣の影響などについて検討された。SESは、世帯収入や職業・雇用形態、教育水準、健康保険(米国のみ)に基づいて3段階に分類し、健康的な生活習慣も、非喫煙、大量飲酒なし、身体活動量が上位の3分の1、食事の質の高さに基づき3段階に分類した。その結果、SESと生活習慣はいずれも全死亡と心血管疾患発症に関係し、低いSESと不健康な生活習慣は、相加的に全死亡や心血管疾患発症を増加させた。例えば、高いSESかつ最も健康的な生活習慣の場合に比べ、低いSESかつ最も不健康な生活習慣の場合、全死亡・心血管死や心血管疾患発症のリスクは2.09~3.53倍に上昇した。同レベルのSESで見れば、健康的な生活習慣は全死亡や心血管疾患発症を減少させた。また、同レベルの生活習慣であっても、SESが高から低になるに従い全死亡や心血管疾患発症が増加した。今後、全死亡や心血管疾患発症を抑制するためには、SESに関わらず健康的な生活習慣の励行は重要だが、特に、SESが低い場合にはそれのみでは不十分であることがわかった。それには、低いSESに伴うさまざまな社会的資源へのアクセスの悪さや検診・治療の機会の低下など多様な要因が考えられ、それらを分析して全死亡や心血管疾患発症を低減させる社会的施策の立案・実施が重要である。日本の「健康日本21(第2次)」でも健康的な生活習慣に加え健康格差に注目しており、今後、社会経済的状態が疾病の発症に及ぼす影響について、生活習慣との相互作用を含めた同様の研究がなされる必要がある。 1. Marmot M et al. Health equity in England: e Marmot Review 10 years on.London: Institute of Health Equity (https://www.health.org.uk/publications/reports/the-marmot-review-10-years-on ) 2. Bor J, et al. Lancet. 2017;389(10077):1475-1490. 3. Niedzwiedz CL, et al. BMC Med. 2020 ;18(1):160.
1型糖尿病成人患者の持続血糖モニタリングに用いるリアルタイムスキャンと間歇スキャンの比較(ALERTT1):6カ月間の前向き多施設共同無作為化対照試験
1型糖尿病成人患者の持続血糖モニタリングに用いるリアルタイムスキャンと間歇スキャンの比較(ALERTT1):6カ月間の前向き多施設共同無作為化対照試験
Comparing real-time and intermittently scanned continuous glucose monitoring in adults with type 1 diabetes (ALERTT1): a 6-month, prospective, multicentre, randomised controlled trial Lancet. 2021 Jun 12;397(10291):2275-2283. doi: 10.1016/S0140-6736(21)00789-3. Epub 2021 Jun 2. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約【背景】1型糖尿病患者は、間歇スキャン持続血糖モニタリング(isCGM)またはリアルタイム持続血糖モニタリング(rtCGM)により血糖値を持続的に測定することができる。しかし、isCGMからアラート機能付きrtCGMに変更することによる便益があるかどうかは不明である。そこで今回、1型糖尿病成人患者を対象に、rtCGMとisCGMを比較する試験を実施した(ALERTT1)。【方法】ベルギー国内6施設で、前向き2群並行群間多施設無作為化比較試験を実施した。これまでisCGMを使用していた1型糖尿病成人患者をrtCGM(介入)とisCGM(対照)に1対1の割合で無作為化により割り付けた。中央機関で無作為化を実施し、試験施設、年齢、性別、糖化ヘモグロビン(HbA1c)、time in range(3.9~10.0mmol/L)、インスリン投与方法、低血糖の認識に基づく最小化法を用いた。参加者、治験責任医師、試験チームに治療の割り付けを伏せなかった。主要評価項目は、6カ月後のtime in rangeの平均群間差とし、intention-to-treatで評価した。本試験は、ClinicalTrials.govにNCT0377260で登録されている。【結果】2019年1月29日から7月30日までの間に参加者269例を登録し、そのうち254例を無作為化によりrtCGM群(127例)およびisCGM群(127例)に割り付けた。それぞれ124例および122例が試験を完了した。6カ月後、rtCGMの方がisCGMよりもtime in rangeが高かった(59.6% vs. 51.9%;平均差6.85ポイント[95%CI 4.36~9.34];P<0.0001)。(rtCGMの方が)6カ月後のHbA1c(7.1% vs. 7.4%;P<0.0001)、3.0mmol/L未満の時間の割合(0.47% vs. 0.84%;P=0.0070)およびHypoglycaemia Fear Survey(低血糖恐怖感調査:HFS)IIの心配下位尺度スコア(15.4 vs. 18.0;P=0.0071)が低かった。rtCGM群の方が重度の低血糖を来した参加者が少なかった(3例 vs. 13例;P=0.0082)。isCGMの方が皮膚反応が多く、rtCGM使用者の方がセンサー挿入後の出血が多かった。【解釈】任意に抽出した1型糖尿病成人患者で、isCGMからrtCGMへの切り替えにより、治療開始6カ月後のtime in rangeが有意に改善した。1型糖尿病患者の健康と生活の質を改善するため、isCGMに代わってrtCGMを検討すべきであることが示唆される。 第一人者の医師による解説 目標のTIRは患者ごとに異なり いずれのCGMが適切かは主治医の判断による 浦上 達彦 日本大学小児科学系小児科学分野診療教授 MMJ. December 2021;17(6):177 1型糖尿病の患者は、間歇スキャン持続的血糖モニタリング(isCGM)あるいはリアルタイムCGM(rtCGM)を用いることにより持続的に皮下のグルコース値をモニターすることが可能になったが、isCGMからアラート機能を有するrtCGMに切り替えた際の有用性については明らかでない。本論文は、成人1型糖尿病患者を対象にisCGMとrtCGMを比較する目的でベルギーの6病院で実施された、前向き、二重盲検、並行群間比較、多施設共同無作為化対照試験(ALERTT1)の報告である。以前にisCGMを使用していた成人1型糖尿病患者254人を、rtCGM(介入)群127人とisCGM(対照)群127人に無作為に1:1の比で割り付け、そのうちそれぞれ124人と122人が試験を終了した。試験開始後6カ月の時点で、主要評価項目であるtimeinrange(TIR;グルコース値が70~180mg/dLの範囲内にある時間の割合)はisCGM群に比べrtCGM群の方が有意に高く(51.9%対59.6%;平均差6.85%;95%信頼区間[CI],4.36?9.34;P<0.0001)、HbA1c値もisCGM群に比べrtCGM群の方が有意に低かった(7.4%対7.1%;P本試験では、成人1型糖尿病患者において、血糖コントロールの改善と低血糖頻度の低下に関して、isCGMに対するrtCGMの優越性が示された。rtCGMでは連続したグルコーストレンドが表示されることにより、高血糖時の補正インスリンの投与あるいは低血糖時の補食摂取などが的確に行えることと、特に無自覚性低血糖や重症低血糖の既往のある患者に対する低血糖アラート機能が低血糖、重症低血糖の発生を抑制するのに有効であることが、今回の結果につながったものと思われる。一方、TIRは推奨される70%以上の達成を単に目指すのではなく、低血糖の発生を最小限に抑え、患者の生活の質(QOL)が改善することを最大の目標としており(1)、目標とすべきTIRは患者ごとに個別化されるべきである(2),(3)。したがって、厳格な血糖目標を達成しやすいrtCGMに無理やり切り替えるのではなく、患者の要求度と治療・管理の内容によって、操作が簡便で利便性に優れるisCGMを使用するのか、低血糖の減少と血糖コントロールの改善に優れるrtCGMを使用するかを患者ごとに主治医が判断する必要がある。 1. Battelino T, et al. Diabetes Care. 2019;42(8):1593-1603.2. Urakami T, et al. Endocr J. 2020;67(10):1055-1062.3. Urakami T, et al. Horm Res Paediatr. 2020;93(4):251-257
検診規模拡大前後にみられる2型糖尿病の心血管リスク予測:導出および検証研究
検診規模拡大前後にみられる2型糖尿病の心血管リスク予測:導出および検証研究
Cardiovascular risk prediction in type 2 diabetes before and after widespread screening: a derivation and validation study Lancet. 2021 Jun 12;397(10291):2264-2274. doi: 10.1016/S0140-6736(21)00572-9. Epub 2021 Jun 2. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約【背景】近年まで、世界のほとんどの糖尿病患者は症状が発現してから診断を受け、心血管リスクが高い。これは、ほとんどの患者が心血管予防薬を処方されていることを意味する。しかしニュージーランドでは、世界初の国家プログラムにより、2016年までに、対象となる成人の90%が糖尿病検診を受け(2012年の50%から上昇)、糖尿病を発症して間もない無症候性の患者が多く発見されている。著者らは、検診が広く実施される前に導出した心血管リスク予測式が現在検診で発見される患者のリスクをいくぶん過剰に見積もっているという仮説を立てた。【方法】検診規模拡大前後の期間を含む2004年10月27日から2016年12月30日までを検討した40万人規模のPREDICTプライマリケアコホート研究から、2型糖尿病があり、既知の心血管疾患、心不全および重大な腎機能障害がない30~74歳のニュージーランド人を特定した。糖尿病関連および腎機能の指標など事前に定めた18の予測因子とともにCox回帰モデルを用いて心血管疾患の5年リスクを推定する性別の式を導出した。検診が広く実施される前の2000~2006年に募集したNew Zealand Diabetes Cohort Study(NZDCS)で導出した同等の式と性能を比較した。【結果】4万6,652例をPREDICT-1 Diabetesサブコホートとし、このうち4,114例に追跡期間中(中央値5.2年、IQR 3.3~7.4)初発の心血管事象が発現した。ベースラインで1万4,829例(31.8%)が経口血糖降下薬およびインスリンを使用していなかった。新計算式で推定した心血管5年リスクの中央値は、女性が4.0%(IQR 2.3~6.8)、男性が7.1%(4.5~11.2)であった。古いNZDCSの式では、女性で3倍(中央値14.2%[9.7~20.0])、男性で2倍(中央値17.1%[4.5~20.0])、心血管リスクの中央値が過剰に推定された。PREDICT-1 Diabetesの式は、モデルおよび判別性能の指標もNZDCSの式よりも有意に優れていた(例、女性:R2=32%[95%CI 29~34]、HarrellのC=0.73[0.72~0.74]、RoystonのD=1.410[1.330~1.490]vs. R2=24%[21~26]、C=0.69[0.67~0.70]、D=1.147[1.107~1.187])。【解釈】国際的な治療ガイドラインではいまだに、ほとんどの糖尿病患者の血管リスクが高いと考えている。しかし、今回、ニュージーランドでは近年の糖尿病検診規模拡大によって糖尿病患者の心血管リスクが根本的に変化していることが示された。患者の多くは腎機能が正常であり、血糖降下薬を投与されておらず、心血管リスクが低い。肥満の増加、検診に用いる検査の簡易化および心血管事象を予防する新世代血糖降下薬の導入によって糖尿病検診の増加が必然となるに伴い、この結果の国際的な意味が明らかになる。現代の糖尿病集団を対象に、糖尿病関連および腎機能の予測因子を多数用いて導出した心血管リスク予測式により、不均一性を増しつつある集団から低リスク患者と高リスク患者を判別し、しかるべき非薬物療法管理や費用効果を踏まえた高価な新薬の対象者に関する情報を提供することが求められている。 第一人者の医師による解説 日本でもリスク変化の可能性 他国・以前のリスク予測式の適用には留意が必要 杉山 雄大 国立国際医療研究センター研究所糖尿病情報センター・医療政策研究室長 MMJ. December 2021;17(6):178 従来の糖尿病患者を対象とした心血管リスクスコアは、有症状で心血管リスクがすでに高い段階で糖尿病が発見される社会における糖尿病患者から導出されてきた。一方で、健診機会が広がり無症状でも糖尿病の診断がされるようになると、全体として糖尿病患者における心血管リスクが下がり、従来のリスクスコアではリスクの過大評価となっている可能性がある。本研究では、政策により糖尿病健診受診割合が急拡大(2012年50%→16年90%)したニュージーランドにおいて、PREDICT研究の部分コホートにおける新規心血管疾患の発症率を算出、新たな予測式を導出(derivation)・検証(validation)し、さらに2002~06年のコホートデータ(NewZealandDiabetesCohortStudy;NZDCS)から導出された2型糖尿病患者に対するリスク予測式をPREDICT研究のコホートを用いて検証することにより、上記の仮説を検討した。PREDICT研究では、ニュージーランドのプライマリケア医が心血管リスク評価を行うための標準化されたソフトウエア(PREDICT意思決定支援ソフトウエア)に情報を入れた際に患者がコホートに登録される。本研究は、PREDICT研究のコホートのうち、2004?16年に登録された心血管疾患既往のない46,652人の2型糖尿病患者を対象とした。結果として、244,840人・年において4,114件の心血管疾患が発症した(中央値5.2年;4分位範囲3.3~7.4年)。PREDICT研究、NZDCSそれぞれのリスク予測式から計算された心血管疾患の予測5年累積発症率と実際の発症率を10分位の較正プロットで比較すると、PREDICT研究からのリスク予測は観測値とほぼ一致するのに対し、NZDCSの予測式はリスクを大幅に過大評価する結果となった(女性:約3倍、男性:約2倍)。本研究は、糖尿病に対する健診が発達していない社会・時代から導出されたリスクスコア(例:フラミンガムリスクスコア)を健診の発達した社会・時代に適用すると、糖尿病患者に対するリスクを過大評価してしまうことを示唆している。また、投薬などの推奨(例:40歳以上の糖尿病患者全体に対するスタチン推奨)もリスク評価に基づくものであり、リスクの異質性を認識し、正確なリスク評価に基づいて費用対効果の高い診療をする方が望ましい、と著者らは論じている。日本でも特定健診の導入などにより未治療糖尿病患者の割合は低下しており(1)、糖尿病患者のリスクに変化が生じている可能性がある。他国・以前のリスク予測式を適用する際には、リスク予測式導出時との違い・変化に留意する必要がある。 1. 厚生労働省 . 平成 28 年国民健康・栄養調査結果の概要 . https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-10904750-KenkoukyokuGantaisakukenkouzoushinka/kekkagaiyou_7.pdf(2021 年 10 月 18 日アクセス可能)
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