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PIK3CAの体細胞変異が孤発性海綿状血管腫を引き起こす
PIK3CAの体細胞変異が孤発性海綿状血管腫を引き起こす
Somatic PIK3CA Mutations in Sporadic Cerebral Cavernous Malformations N Engl J Med. 2021 Sep 9;385(11):996. doi: 10.1056/NEJMoa2100440. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】脳海綿状奇形(CCM)は、散発性および遺伝性の中枢神経系血管奇形としてよく知られている。家族性CCMはKRIT1(CCM1)、CCM2、PDCD10(CCM3)の機能喪失型変異と関連しているが、80%を占める散発性CCMの遺伝子原因はまだ不完全に理解されていない。 【方法】プロスタグランジンD2合成酵素(PGDS)プロモーターを用いて、ヒト髄膜腫で同定された変異を保有する2つのモデルマウスを開発した。患者から外科的に切除されたCCMの標的DNA配列決定を行い、液滴デジタルポリメラーゼ連鎖反応分析で確認した。 【結果】髄膜腫の2つの共通の遺伝的ドライバーであるPik3caH1047RまたはAKT1E17KをPGDS陽性細胞で発現するマウスでは、髄膜腫ではなく典型的なCCMのスペクトラムが発生(それぞれ22%と11%)することがわかり、88例の散発性のCCMから組織標本を解析することになった。患者の病変組織の39%と1%にそれぞれ活性化型のPIK3CAとAKT1の体細胞変異が検出された。病変の10%のみがCCM遺伝子に変異を有していた。活性化変異Pik3caH1074RとAKT1E17Kによって引き起こされる病変をマウスで解析し,PGDS発現周皮細胞を起源細胞として推定した。 【結論】散発性のCCMからの組織試料において,他のどの遺伝子における変異よりPIK3caにおける変異が大きく表れていることがわかった。家族性CCMの原因となる遺伝子の体細胞変異の寄与は比較的小さかった。(ARC対がん研究財団他より資金提供). 第一人者の医師による解説 予想外の発見を見逃さず 病態解明につなげたserendipityの重要さが伝わる論文 武内 俊樹 慶應義塾大学医学部小児科専任講師 MMJ. April 2022;18(2):51 海綿状血管腫は、比較的よく遭遇する中枢神経系の血管奇形であり、家族性あるいは孤発性に発症する。このうち、家族性海綿状血管腫は、KRIT1(CCM1)、CCM2、PDCD10(CCM3)遺伝子のいずれかの機能喪失型変異によって発症することが知られている。一方で、海綿状血管腫の80%を占める孤発性症例の原因は解明されていなかった。 本研究では、ヒト患者の髄膜腫で同定された遺伝子変異およびプロスタグランジン D2合成酵素(PGDS)プロモーターをもつ2種類の疾患モデルマウスを開発した。髄膜腫の2つの一般的なドライバー変異であるPik3caH1047RまたはAKT1E17Kのいずれかを発現するマウスにおいて、予想外に、髄膜腫ではなく海綿状血管腫が発生した(それぞれマウスの22%と11%に発生した)。これに着想を得て、孤発性海綿状血管腫患者88人の病変組織の遺伝子解析を行った。その結果、PIK3CAおよびAKT1に、機能亢進型の体細胞変異をそれぞれ39%と1%に同定した。既知の家族性海綿状血管腫の原因遺伝子に変異を認めたのは10%に過ぎなかった。さらに、Pik3caH1047RとAKT1E17K変異を有するマウスの病変部位の解析から、PGDSを発現する周皮細胞が海綿状血管腫の発生母地となっていることを突き止めた。以上の結果をまとめると、孤発性海綿状血管腫の病変組織では、PIK3CAの体細胞変異が多く認められ、他のどの遺伝子よりも大きな割合を占めていた。既知の家族性海綿状血管腫の原因遺伝子の体細胞変異によるものはむしろ少なかった。 本研究の最も重要な知見は、同じ海綿状血管腫であっても、家族性と孤発性で原因遺伝子が異なることを示した点である。一般に、家族性疾患の原因遺伝子変異が体細胞変異となった場合には、家族性疾患でみられる病変と似た病変を起こすことが多い。しかしながら、今回の研究では、孤発性海綿状血管腫は、家族性海綿状血管腫の原因遺伝子の体細胞変異によって発症しているのではなく、髄膜腫の原因として知られていたPIK3CAの体細胞変異が発症原因の多くを占めていたという驚くべき結果であった。さらに本研究で特筆すべき点は、もともと髄膜種の研究を目的に作製されたマウスにおいて、想定外の海綿状血管腫が発生したことが今回の研究成果の端緒となったことである。これらのマウスは髄膜に発現するPGDSをもつため、PGDSが海綿状血管腫の発症に関与することも突き止めることができた。予想外の発見を見逃さず当初目的としていなかった孤発性海綿状血管腫の病態解明につなげたserendipityの重要さが伝わる論文である。
切除不能進行・再発胃がんの1次治療へのニボルマブ上乗せ OSとPFSを有意に延長
切除不能進行・再発胃がんの1次治療へのニボルマブ上乗せ OSとPFSを有意に延長
First-line nivolumab plus chemotherapy versus chemotherapy alone for advanced gastric, gastro-oesophageal junction, and oesophageal adenocarcinoma (CheckMate 649): a randomised, open-label, phase 3 trial Lancet. 2021 Jul 3;398(10294):27-40. doi: 10.1016/S0140-6736(21)00797-2. Epub 2021 Jun 5. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】進行性または転移性のヒト上皮成長因子受容体2(HER2)陰性の胃または胃食道接合部腺癌に対する第一選択の化学療法は、全生存期間(OS)の中央値が1年未満である。我々は、胃、胃食道接合部、および食道腺がんにおいて、プログラム細胞死(PD)-1阻害剤を用いたファーストライン治療を評価することを目的としました。この多施設共同無作為化非盲検第3相試験(CheckMate 649)では、29カ国の175の病院およびがんセンターから、PD-リガンド1(PD-L1)の発現状況にかかわらず、前治療歴のある切除不能な非HER2陽性の胃・胃食道接合部・食道腺がんの成人患者(18歳以上)を登録しました。患者は、インタラクティブなウェブ応答技術を用いて、ニボルマブ(360mgを3週に1回または240mgを2週に1回)と化学療法(カペシタビンとオキサリプラチンを3週に1回またはロイコボリンとフルオロウラシルとオキサリプラチンを2週に1回)、ニボルマブとイピリムマブ、または化学療法単独に無作為に割り付けられました(ブロックサイズは6)。ニボルマブと化学療法の併用療法と化学療法単独療法の主要評価項目は、PD-L1複合陽性スコア(CPS)が5以上の腫瘍を有する患者を対象に、盲検化された独立中央審査によるOSまたは無増悪生存期間(PFS)とした。安全性は、割り当てられた治療を少なくとも1回受けたすべての患者で評価しました。本試験はClinicalTrials. gov, NCT02872116に登録されています。 【結果】2017年3月27日から2019年4月24日までに、適格性を評価した2687名の患者のうち、1581名の患者を治療(ニボルマブ+化学療法[n=789、50%]または化学療法単独[n=792、50%])に同時無作為に割り付けました。OSの追跡期間中央値は、ニボルマブと化学療法の併用で13-1カ月(IQR 6-7-19-1)、化学療法単独で11-1カ月(5-8-16-1)であった。PD-L1 CPSが5以上の患者(最低追跡期間12-1カ月)において、ニボルマブと化学療法の併用により、OS(ハザード比[HR]0-71[98-4%CI 0-59-0-86]、p<0-0001)およびPFS(HR 0-68[98%CI 0-56-0-81]、p<0-0001)が化学療法単独に比べて有意に改善しました。さらに、PD-L1 CPSが1以上の患者および無作為に割り付けられたすべての患者において、PFSの有益性とともに、OSの有意な改善が認められました。治療を受けた全患者のうち、ニボルマブと化学療法の併用群では782人中462人(59%)、化学療法単独群では767人中341人(44%)にグレード3~4の治療関連有害事象が認められました。両群で最も多かった(25%以上)グレードの異なる治療関連有害事象は、吐き気、下痢、末梢神経障害でした。ニボルマブと化学療法併用群で16名(2%)、化学療法単独群で4名(1%)の死亡が治療関連死とされた。 【解釈】ニボルマブは、前治療歴のない進行性胃癌、胃食道接合部癌、食道腺癌患者において、化学療法との併用により、化学療法単独と比較して、優れたOS、PFSのベネフィット、許容できる安全性プロファイルを示した初めてのPD-1阻害剤です。ニボルマブと化学療法の併用は、これらの患者さんに対する新しい標準的な第一選択治療となります 【資金提供】ブリストル・マイヤーズ スクイブ社、小野薬品工業株式会社との共同研究。 第一人者の医師による解説 新たな標準1次治療としてニボルマブ+化学療法を支持する結果 堀江 沙良、浜本 康夫(准教授) 慶應義塾大学医学部腫瘍センター MMJ. April 2022;18(2):45 ヒト上皮増殖因子受容体(HER2)陰性の切除不能・再発進行胃がんに対する化学療法による1次治療後の全生存期間(OS)は1年以下であり、予後不良である。CheckMate(CM)649試験は日本を含む29カ国で行われた切除不能な進行・再発胃がんを対象にニボルマブ(抗 PD-1抗体)+化学療法群の化学療法群に対する優越性を検討した第3相非盲検無作為化対照試験である。主要評価項目はPD-L1発現状況の指標 CPS(combined positive score)5以上の集団におけるOSと無増悪生存期間(PFS)であった。 CPS 5以上の集団のOS中央値はニボルマブ+化学療法群14.4カ月、化学療法群11.1カ月(ハザード比[HR], 0.71;P<0.0001)であり、ニボルマブ+化学療法群はOSで統計学的に有意な延長を示した。PFS中央値はニボルマブ+化学療法群7.7カ月、化学療法群6.0カ月(HR, 0.68;P<0.0001)であり、ニボルマブ+化学療法群で有意に長かった。CPS 1以上の集団および全体集団でもニボルマブ+化学療法群と化学療法群のOS中央値はそれぞれ14.0カ月と11.3カ月(HR, 0.77;P<0.0001)、13.8カ月と11.6カ月(HR, 0.80;P=0.0002)であり、いずれの集団でもニボルマブ+化学療法群の優越性が示された。PFSに関しても、両集団ともニボルマブ+化学療法群でPFS延長効果が示された。全体集団におけるグレード 3/4治療関連有害事象はニボルマブ+化学療法群では59%、化学療法群では44%に認められた。 CM 649試験の結果ではHER2陰性の進行・再発胃がん患者において、ニボルマブと化学療法の併用によってCPSに関わらずOSとPFSの延長が示された。本試験と同様、進行・再発胃がんの1次治療においてニボルマブ+化学療法を化学療法単独と比較したアジアのATTRACTION-4(AT-4)試験では、ニボルマブ併用によりPFSは有意に延長したが、OSの有意な延長は示されなかった。CM649試験との結果の違いは主に後治療の差によると考えられている。後治療の実施率はCM649試験の39%に対し、AT-4試験では66%と高く、特に日本人サブセットでは3次治療以降でニボルマブが広く使用されていた。CM649試験の結果は新たな標準1次治療としてニボルマブを支持するものであるが、高齢者や全身状態不良例における併用療法の適性、長期使用に伴う毒性についてはさらに検証が必要である。なお、PD-L1発現によりニボルマブの上乗せ効果が異なる傾向が示唆されていることから、日本胃癌学会の速報では可能な限りPD-L1検査を行うことが望ましいとし、CPS5未満では3次治療以降での使用機会の可能性を考慮し、治療戦略を慎重に検討する必要があるとしている。
小児集中治療室での呼吸器離脱プロトコル 人工呼吸器装着日数の短縮はわずか
小児集中治療室での呼吸器離脱プロトコル 人工呼吸器装着日数の短縮はわずか
Effect of a Sedation and Ventilator Liberation Protocol vs Usual Care on Duration of Invasive Mechanical Ventilation in Pediatric Intensive Care Units: A Randomized Clinical Trial JAMA. 2021 Aug 3;326(5):401-410. doi: 10.1001/jama.2021.10296. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【重要性】小児集中治療室で乳幼児や小児を侵襲的な機械的人工呼吸から解放するための最適な戦略に関するエビデンスは限られている。 【目的】鎮静と人工呼吸器解放のプロトコルによる介入が、長期の機械的人工呼吸が必要と予想される乳幼児や小児の侵襲的機械的人工呼吸の期間を短縮するかどうかを明らかにする。 【デザイン、設定および参加者】英国の17の病院施設(18の小児集中治療室)を対象に、通常のケアからプロトコル介入まで順次無作為化した、実用的な多施設、ステップウェッジ、クラスター無作為化臨床試験を実施した。2018年2月から2019年10月にかけて、長期の機械的換気が必要と予想される重症の乳幼児と小児8843人を募集した。最終追跡日は2019年11月11日であった。 【介入】小児集中治療室では、通常のケア(n=4155人の乳幼児と小児)または鎮静と人工呼吸器解放のプロトコル介入(n=4688人の乳幼児と小児)が行われ、鎮静レベルの評価、人工呼吸器解放の可能性をテストするための自発呼吸試験を実施する準備ができているかどうかのスクリーニングを毎日行い、鎮静と準備のスクリーニングを見直し、患者に関連する目標を設定するための毎日のラウンドを行った。 【主要評および測定法】主要アウトカムは、人工呼吸を開始してから最初に抜管に成功するまでの侵襲的機械換気の期間であった。治療効果の主要な推定値は、長期の機械的人工呼吸が必要と予想される乳幼児と小児について、暦時間とクラスター(病院部位)を調整したハザード比(95%CI)であった。 【結果】本試験を完了した乳幼児と小児は8843人(年齢中央値、8カ月[四分位範囲、1~46カ月]、42%が女性)であった。抜管成功までの時間(中央値)は、通常のケアと比較してプロトコルによる介入のほうが有意に短かった(それぞれ64.8時間対66.2時間、調整後中央値の差:-6.1時間[四分位範囲:-8.2~-5.3時間]、調整後ハザード比1.11[95%CI、1.02~1.20]、P = 0.02)。重篤な有害事象である低酸素症は、通常のケアでは11人(0.3%)であったのに対し、プロトコルによる介入では9人(0.2%)で発生し、血管以外のデバイスの脱落はそれぞれ2人(0.04%)と7人(0.1%)で発生した。 【結論と関連性】長期の機械的換気が必要と予想される乳幼児と小児において、鎮静と人工呼吸器の解放のプロトコルによる介入は、通常のケアと比較して、最初の抜管成功までの時間を統計的に有意に短縮する結果となった。しかし、この効果の大きさの臨床的重要性は不明である。 【臨床試験登録】isrctn.org Identifier:ISRCTN16998143。 第一人者の医師による解説 小児では抜管前評価で呼吸器離脱が見送られる特殊な事情も理解を 秋山 類(大学院研究生)/清水 直樹(主任教授) 聖マリアンナ医科大学小児科学講座 MMJ. April 2022;18(2):48 小児集中治療室(PICU)に入室する患者は侵襲的人工呼吸(MV)が必要となる。MV管理は、これに関連した肺炎や肺障害などを併発する可能性があり、早期離脱が必要となる。成人ではABCDEバンドル(※)を導入し、院内死亡率が低下した(1)。小児ではMVからの離脱プロトコル化を検証した研究はエビデンス不足であった。 英国の18PICUが鎮痛鎮静とMV離脱のプロトコル化を目指してSedation AND Weaning In hildren(SANDWICH)に参加している。全施設が集中治療医により管理され、うち8割は年間入室患者数が500を超える。本研究では、まず各施設は従来群として診療を行った。各施設に決められた日程でプロトコル訓練を実施し、以後は介入群として診療した。プロトコル内容は鎮痛鎮静の評価と目標設定、自発呼吸トライアル(SBT)適否の選別、SBT実施、多職種の回診である。期間は2018年2月〜19年10月、24時間以上のMVが必要と想定される8,843人を対象とした。 結果、MV装着時間の中央値は介入群64.8、従来群66.2と1.4時間の短縮だった(各施設の症例数などの調節後では6.1時間)。またPICU入室日数の中央値は両群5日で差がなく、入院期間は有意に延長した(介入群9.6、従来群9.1日)。抜管成功、計画外抜管、再挿管のいずれも有意差はなかった。介入群では抜管後の非侵襲的陽圧換気の装着が有意に多かった。 研究計画時は、MV装着期間が1日短縮すると想定していたが、実際にはわずかだった。原因として、幅広い患者層(心疾患と呼吸器疾患が各3割、神経疾患は1割、内因性疾患による予定外入室が6割前後)、SBT実施が少ない、が挙げられる。プロトコルのうちSBT実施以外の遵守率は40〜90%だが、SBT実施の遵守率は15〜60%であった。SBT非実施の理由は、分泌物や気道浮腫により気道確保が必要、意識の覚醒が不十分、再手術を想定、血管作動薬の投与が多量、筋力低下などであった。 本研究では、抜管の前提を満たさない患者が含まれ、MV装着時間の短縮がわずかだったと考える。今後はSANDWICHプロトコルにSBT非実施となる患者の選別段階を組み込む必要があるかもしれない。本研究は集中治療医の管理する比較的大規模なPICUで実施されており、有害事象が抑制された可能性がある。日本では、集中治療医が24時間管理するのは半数、年間入院患者数が500を超えるのは18%である(2)。本研究結果を日本国内で適用する際には、これらの背景の差異も考慮する必要がある。 ※ ABCDE バンドル;A:毎日の覚醒トライアル、B:毎日の呼吸器離脱トライアル、C:鎮静・鎮痛薬の選択、D:せん妄のモニタリングと管理、E:早期離床をまとめて行う介入。バンドルとは bundle で束の意味。 1. Balas MC, et al. Crit Care Med. 2014;42(5):1024-1036. 2. 日本集中治療医学会小児集中治療委員会 . わが国における小児集中治療室の現状調査 . 日集中医誌 2019;26:217-225.
アトゲパントが片頭痛予防第3相試験の12週間投与期間で高い有効性を示す
アトゲパントが片頭痛予防第3相試験の12週間投与期間で高い有効性を示す
Atogepant for the Preventive Treatment of Migraine N Engl J Med. 2021 Aug 19;385(8):695-706. doi: 10.1056/NEJMoa2035908. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】 アトゲパントは、片頭痛の予防治療薬として検討されている経口低分子カルシトニン遺伝子関連ペプチド受容体拮抗薬です。 【方法】 第3相二重盲検試験において、1ヶ月に4~14日の片頭痛のある成人を1:1:1:1の割合で、アトゲパン経口投与(10mg、30mg、60mg)またはプラセボ12週間無作為に割り付けたところ、1日1回の投与で、片頭痛の予防効果が認められました。主要評価項目は、12週間にわたる1ヶ月あたりの片頭痛平均日数のベースラインからの変化としました。副次的評価項目は、1ヵ月あたりの頭痛日数、1ヵ月あたりの片頭痛日数の3ヵ月平均のベースラインからの50%以上の減少、QOL、Activity Impairment in Migraine-Diary(AIM-D)スコアなどであった。 【結果】合計2270名がスクリーニングされ、910名が登録され、873名が有効性解析に含まれた。214名がアトジェパント10mg群に、223名がアトジェパント30mg群に、222名がアトジェパント60mg群に、214名がプラセボ群に割り付けられた。ベースライン時の1ヶ月の片頭痛日数の平均は4群とも7.5日から7.9日であった。12週間のベースラインからの変化は、アトジェパント10mg群で-3.7日、アトジェパント30mg群で-3.9日、アトジェパント60mg群で-4.2日、そしてプラセボ群で-2.5日でした。ベースラインからの変化量のプラセボとの平均差は、10mgアトガパントで-1.2日(95%信頼区間[CI]、-1.8~-0.6)、30mgアトガパントで-1.4日(95%CI、-1.9~-0.8)、60mgアトガパントで-1.7日(95%CI、-2.3~-1.2)でした(すべての比較でプラセボとP<0.001)。副次的評価項目の結果は,10 mg 用量の AIM-D 日常生活動作スコアと AIM-D 身体障害スコアを除き,アトジェパントがプラセボを上回った.主な有害事象は便秘(アトジェパント投与期間中6.9~7.7%)および悪心(アトジェパント投与期間中4.4~6.1%)でした。重篤な有害事象は、アトジェパント10mg投与群で喘息と視神経炎が各1例ずつありました。有害事象は、便秘と吐き気であった。片頭痛予防のためのアトゲパントの効果と安全性を明らかにするために、より長期で大規模な試験が必要である。(アラガン社からの資金提供;ADVANCE ClinicalTrials. gov 番号、NCT03777059.). 第一人者の医師による解説 片頭痛発作予防の臨床試験で経口投与 CGRP拮抗薬アトゲパントが好結果 鈴木 則宏 湘南慶育病院院長・慶應義塾大学名誉教授 MMJ. April 2022;18(2):34 アトゲパントは低分子の経口投与カルシトニン遺伝子関連ペプチド受容体(CGRP)拮抗薬(1),(2)であり、本論文は、片頭痛の予防的治療薬として本剤の有効性を検討したADVANCE試験の報告である。この無作為化第3相二重盲検試験では、1カ月当たりの片頭痛日数が4 ~ 14日の成人を12週にわたりアトゲパント 10、30、または60mg、もしくはプラセボを1日1回経口投与する4群に割り付けた。主要エンドポイントは12週間における1カ月当たりの片頭痛日数の平均値のベースラインからの変化量とした。副次エンドポイントは、1カ月当たりの頭痛日数、1カ月当たりの片頭痛日数の3カ月間の平均値のベースラインから50%以上の減少、生活の質(QOL)、片頭痛活動障害・ダイアリー指標(AIM-D)スコアなどとした。スクリーニング後、参加者2,270人のうち910人が組み入れられた。 ベースライン時の1カ月当たりの片頭痛日数の平均値は4群で7.5 ~ 7.9日であった。12週間におけるベースラインからの変化量は、アトゲパント 10mg群-3.7日、30mg群-3.9日、60mg群-4.2日、プラセボ群-2.5日であった。ベースラインからの変化量におけるプラセボ群との平均差は、アトゲパント 10mg群-1.2日、30mg群-1.4日、60mg群-1.7日であった(プラセボ群とのすべての比較でP<0.001)。副次エンドポイントの結果は、アトゲパント 10mg群のAIM-Dの日常活動機能スコアと身体障害スコアを除いて、アトゲパント群の方がプラセボ群よりも良好であった。特に頻度の高かった有害事象は、便秘(6.9 ~ 7.7%[アトゲパント群] 対 0.5%[プラセボ群])と悪心(4.4 ~ 6.1%[アトゲパント群] 対1.8%[プラセボ群])であった。アトゲパント群での重篤な有害事象は10mg群における気管支喘息1人、視神経炎1人であった。以上のように、アトゲパントの1日1回経口投与は、12週間における片頭痛日数と頭痛日数の減少に有効であり、有害事象は便秘、悪心などであった。 近年、片頭痛の予防的治療として抗 CGRPモノクローナル抗体あるいは抗CGRP受容体モノクローナル抗体が開発され、日本でも2021年から3種類の製剤が臨床の場に登場し、高い有効性を示している。しかし、いずれも皮下投与製剤であり、自己注射はまだ認可されていないのが現状である。このような状況と予防効果の高さから、アトゲパントの実臨床への早期の導入が期待されるが、本剤の有効性と安全性をより明らかにするためには、より長期かつ大規模な臨床試験が必要であろう。 1. Min KC, et al. Clin Transl Sci. 2021;14(2):599-605. 2. Goadsby PJ, et al. Lancet Neurol. 2020;19(9):727-737.
無症候性頸動脈高度狭窄症へのCEAとCAS 有用性に差はない
無症候性頸動脈高度狭窄症へのCEAとCAS 有用性に差はない
Second asymptomatic carotid surgery trial (ACST-2): a randomised comparison of carotid artery stenting versus carotid endarterectomy Lancet. 2021 Sep 18;398(10305):1065-1073. doi: 10.1016/S0140-6736(21)01910-3. Epub 2021 Aug 29. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】重度の頸動脈狭窄を有し、最近脳卒中や一過性脳虚血を発症していない無症状の患者においては、頸動脈ステント留置術(CAS)や頸動脈内膜剥離術(CEA)は、開存性を回復し長期脳卒中リスクを軽減することができる。しかし、最近の全国的な登録データでは、いずれの治療法も約1%の脳卒中や死亡のリスクをもたらすとされている。ACST-2はインターベンションが必要と考えられる重度の狭窄を有する無症候性患者を対象に,CASとCEAを比較する国際多施設共同無作為化試験であり,他のすべての関連試験と比較して解釈されたものである。対象は、片側または両側の重度の頸動脈狭窄があり、医師と患者の両方が頸動脈の処置を行うべきであることに同意しているが、どちらを選択するかはかなり不確かな患者であった。患者はCASとCEAに無作為に割り付けられ、1ヵ月後とその後毎年、平均5年間フォローアップされた。手続き上のイベントは、手術後30日以内のものを対象とした。Intention-to-treatの解析が行われた。手技の危険性を含む解析は表形式を使用。非手術的な脳卒中の解析およびメタ解析にはKaplan-Meier法およびlog-rank法を用いた。本試験はISRCTNレジストリ、ISRCTN21144362に登録されている。 【所見】2008年1月15日から2020年12月31日までに、130施設で3625例がランダムに割り付けられ、CASに1811例、CEAに1814例、コンプライアンスも良好、内科治療も良好で平均5年の追跡調査である。全体として、手術中に障害を伴う脳卒中または死亡が1%(CAS群15例、CEA群18例)、手術中に障害を伴わない脳卒中が2%(CAS群48例、CEA群29例)であった。5年間の非手術的脳卒中のKaplan-Meier推定値は、致死的脳卒中と障害性脳卒中が各群2~5%、あらゆる脳卒中がCASで5~3%、CEAで4~5%(率比[RR]1~16、95%CI 0-86~1-57、p=0~33)であった。CASとCEAのすべての試験で、あらゆる非手術的脳卒中のRRを合わせると、症状のある患者と症状のない患者でRRは同等であった(全体RR 1-11, 95% CI 0-91-1-32; p=0-21)。 【解釈】能力のあるCASとCEAでは重大な合併症は同様に少なく、これら二つの頸動脈手術が致命的または障害のある脳卒中に及ぼす長期効果は同等である【FUNDING】英国医学研究評議会と健康技術評価計画.頸動脈の手術は、頸動脈の手術と同様に、頸動脈の手術と同様に致命的または障害のある脳卒中を引き起こす。 第一人者の医師による解説 患者ごとのリスク評価の重要性は揺るがない 髙橋 淳 近畿大学医学部脳神経外科主任教授 MMJ. April 2022;18(2):38 頚部頚動脈狭窄症は脳梗塞の原因の1つである。これに対する頚動脈内膜剥離術(CEA)は複数のランダム化試験(1991 ~ 95年)を経て、症候性、無症候性のいずれも単独内科的治療に対する優位性が確立された。一方、1990年代以降普及した頚動脈ステント留置術(CAS)については、CEAを対照とする非劣性試験が実施されてきた。SAPPHIRE(北米、2004年、症候性 + 無症候性)はCEA高リスク群でCASの非劣性を証明したが、CEA低リスク群では欧州の2試験でこれを証明できず、CREST(北米、2010年、症候性 + 無症候性)でようやく非劣性が示された。無症候性限定の試験としては、ACT-1(米国、2016年)がCEA低リスク群におけるCASの非劣性を示した(1)。 本論文は、「無症候性高度狭窄に対するCEAとCASの効果を十分な症例数で比較すること」を目的とした、英国を拠点とする多施設共同ランダム化試験(ASCT-2)の報告である。「頚動脈高度狭窄に対して介入の適応がありCEAとCASの選択に迷う例」を対象とした。33カ国130施設から患者3,625人を登録、CASまたはCEAにランダムに割り付け、平均5年間観察した。主要評価項目は①30日以内の手術関連死 +脳卒中、②その後の手術非関連脳卒中である。 その結果、術後30日以内の手術関連死 +重度脳卒中(6カ月後 modified Rankin Scale[mRS]スコア 3〜5)はCAS群0.9%、CEA群1.0%(P=0.77)、手術関連死 +全脳卒中 はCAS群3.7 %、CEA群2.7%(P=0.12)で、いずれも有意差なし。観察期間中(手術非関連)においては、致死的 / 重度脳卒中が両群ともに2.5%、全脳卒中がCAS群5.3%、CEA群4.5%(P=0.33)で有意差なし。手術非関連脳卒中について過去の比較研究と合算しても、CASのリスク比は1.11でCEAと差がなかった。 重篤な術後合併症は両群ともに僅少で、長期の脳卒中発生率にも差がなく、有用性は同等とされた。しかし本試験は最新・最良の内科的治療との比較試験ではない。医療経済学的検討もなされていない(CASは材料費が高額)。また何よりも、「患者状態や病変特性から見て、明らかにどちらかに適する例は対象に含まない」ことに注意が必要であり、個々の患者におけるリスク評価の重要性が軽視されてはならない。今回の結果は、「どちらを選択するかが同等の局面において、自由な選択に一定のお墨付きを与える」と言うべきものである。 1. Rosenfield K, et al. N Engl J Med. 2016;374(11):1011-1020.
S1P受容体調節作用を持つ経口薬オザニモド 潰瘍性大腸炎の寛解導入と寛解維持に有用
S1P受容体調節作用を持つ経口薬オザニモド 潰瘍性大腸炎の寛解導入と寛解維持に有用
Ozanimod as Induction and Maintenance Therapy for Ulcerative Colitis N Engl J Med. 2021 Sep 30;385(14):1280-1291. doi: 10.1056/NEJMoa2033617. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】選択的スフィンゴシン-1-リン酸受容体モジュレーターであるオザニモドは、炎症性腸疾患の治療薬として研究されている。 【方法】我々は、中等度から重度の活動性を有する潰瘍性大腸炎患者を対象に、オザニモドの導入療法および維持療法に関する第3相多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照試験を実施した。10週間の導入期において、コホート1の患者には、1日1回、塩酸オザニモドを1mg(オザニモド0.92mg相当)またはプラセボとして経口投与することを二重盲検法で行い、コホート2の患者には、1日1回、同じ用量のオザニモドを非盲検法で投与しました。10週目に、いずれかのコホートでオザニモドに臨床的に反応した患者は、維持期間(52週目まで)に二重盲検法でオザニモドまたはプラセボを投与するよう、再び無作為化されました。両期間の主要評価項目は、臨床的寛解を示した患者の割合であり、Mayoスコアの3要素で評価された。主要な副次評価項目である臨床的、内視鏡的、組織学的評価項目は、順位付けされた階層的な検定を用いて評価した。また、安全性についても評価した。 【結果】導入期間では、第1コホートに645名、第2コホートに367名の患者が参加し、維持期間では457名の患者が参加した。臨床的寛解の発生率は、導入期(18.4%対6.0%、P<0.001)および維持期(37.0%対18.5%(10週目に奏効した患者)、P<0.001)のいずれにおいても、オザニモドを投与された患者の方がプラセボを投与された患者よりも有意に高かった。臨床反応の発生率も、導入期(47.8%対25.9%、P<0.001)および維持期(60.0%対41.0%、P<0.001)において、プラセボよりもオザニモドの方が有意に高かった。その他の主要な副次的評価項目は、いずれの期間においてもプラセボと比較してオザニモドにより有意に改善された。オザニモドによる感染症(重症度を問わず)の発生率は,導入期ではプラセボと同程度,維持期ではプラセボよりも高かった.重篤な感染症は、52週間の試験期間中、各群の患者の2%未満に発生しました。肝アミノトランスフェラーゼ値の上昇は、オザニモドでより多く見られました。 【結論】オザニモドは、中等度から重度の活動性を有する潰瘍性大腸炎患者の導入療法および維持療法として、プラセボよりも有効でした。(Bristol Myers Squibb社から資金提供を受けています。True North ClinicalTrials.gov番号、NCT02435992)。 第一人者の医師による解説 既存薬と機序が全く異なるオザニモドの位置づけ 市販後の十分な検討が重要 日比 紀文 北里大学北里研究所病院 炎症性腸疾患先進治療センター長・特任教授 MMJ. April 2022;18(2):44 潰瘍性大腸炎(UC)は、クローン病(CD)を含めて炎症性腸疾患(IBD)と総称される。日本でもUCの患者数は20万人を超え一般的となったが、原因が不明なため根本治療がなく、治療は炎症抑制に加え免疫異常の是正が中心であり、寛解導入療法に加えて長期の寛解維持療法が求められる(1)。近年の生物学的製剤の出現は、その目覚ましい治療効果から、難治と考えられてきたIBDや関節リウマチなど慢性炎症性疾患の治療にパラダイムシフトを起こした。しかし、生物学的製剤の多くは高分子の注射剤であり、経口分子標的薬の開発が待たれている。 本論文は、オザニモドのUCにおける寛解導入療法、維持療法としての有効性および安全性を検証した第3相臨床試験の報告である。オザニモドは選択的にリンパ球表面のスフィンゴシン -1-リン酸(S1P)受容体に働き(2)、リンパ球の炎症部位への動員を抑制するという新しい機序を有し、1日1回経口投与で寛解導入・維持を目指す画期的な薬剤である。本試験には30カ国285施設が参加し、寛解導入は 約1,000人、寛解維持は457人の患者で比較検討された。有効性の主要評価項目である「臨床的寛解」においてプラセボ群と比較し有意に高い治療効果を示し、安全性については想定される「徐脈」「肝障害」がオザニモド群でも比較的少なかったという成績で、特に帯状疱疹は少数例にしか見られず、UCの新たな治療選択肢としてのオザニモドの有用性を証明した貴重な報告である。 一方、本試験は事前に心疾患患者を除き、帯状疱疹には細心のチェックをした状態で実施されており、本剤が実臨床に導入された場合は安全性の面で細心の注意が求められる。生物学的製剤の使用は今後さらに増加すると予想されるが、無効例や長期使用で効果減弱などの問題点があること、注射剤より経口薬を好む患者が多いことなどを踏まえると、本剤への期待は大きい。 近年、日本が参加するグローバル試験も多くなったが、本試験の参加者は大多数が欧米人であり(アジア参加国は韓国のみ;5.8%)、日本人を含む東洋人(モンゴロイド)での有効性や安全性が同等であるかは不明である。日本人でも同様の成績が証明されれば臨床面で重要な薬剤になると考えられる。起こりうる副作用としての徐脈・心電図での伝道異常や肝障害は少しみられたが、日本人では異なる反応を示す可能性もある。日本でもすでに有効性と安全性が海外と同様であるかを検証する試験が終了しており、UCの治療選択肢として加えられることに期待している。さらに、既存薬と機序が全く異なる本剤の位置づけを市販後に十分検討していくことが重要となろう。 1. 日比紀文ら . 日本臨床 . 2017;75(3):364-369. 2. Scott FL, et al. Br J Pharmacol. 2016;173(11):1778-1792. 3. Sandborn WJ, et al. N Engl J Med. 2016 May 5;374(18):1754-1762.
院内心停止へのアドレナリン・バソプレシン・ステロイド投与で自己心拍再開率向上
院内心停止へのアドレナリン・バソプレシン・ステロイド投与で自己心拍再開率向上
Effect of Vasopressin and Methylprednisolone vs Placebo on Return of Spontaneous Circulation in Patients With In-Hospital Cardiac Arrest: A Randomized Clinical Trial JAMA. 2021 Oct 26;326(16):1586-1594. doi: 10.1001/jama.2021.16628. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【重要性】これまでの試験で、院内心停止時にバソプレシンとメチルプレドニゾロンを投与することで転帰が改善する可能性が示唆されている。 【目的】院内心停止時にバソプレシンとメチルプレドニゾロンを併用投与すると自然循環の復帰が改善するかどうかを判断する。 【デザイン、設定および参加者】デンマークの10病院で実施した多施設、無作為二重盲検、プラセボ対照臨床試験。2018年10月15日から2021年1月21日の間に、院内心停止の成人患者計512名を対象とした。最終90日フォローアップは2021年4月21日であった。 【介入】患者はバソプレシンとメチルプレドニゾロンの併用投与(n = 245)またはプラセボ投与(n = 267)に無作為に割り付けられた。エピネフリン初回投与後にバソプレシン(20 IU)およびメチルプレドニゾロン(40 mg)、または対応するプラセボを投与した。エピネフリンを追加投与するごとにバソプレシンまたは対応するプラセボを追加投与し、最大4回投与した。 主要評価項目は自然循環の回復であった。副次的アウトカムは30日後の生存率と良好な神経学的転帰(Cerebral Performance Categoryスコア1または2)とした。 【結果】無作為化された512例中、501例がすべての組み入れ基準を満たし、除外基準はなく解析に含まれた(平均[SD]年齢、71[13]歳;男性322[64%])。バソプレシンおよびメチルプレドニゾロン群では 237 例中 100 例(42%),プラセボ群では 264 例中 86 例(33%)で自然循環の回復が得られた(リスク比 1.30 [95% CI, 1.03-1.63]; リスク差 9.6% [95% CI, 1.1%-18.0%]; P = .03).30日時点で,介入群23人(9.7%)とプラセボ群31人(12%)が生存していた(リスク比,0.83 [95% CI,0.50-1.37];Risk difference:-2.0% [95% CI, -7.5% to 3.5%]; P = 0.48)。30日目において,介入群の18人(7.6%)とプラセボ群の20人(7.6%)で良好な神経学的転帰が認められた(リスク比,1.00 [95% CI, 0.55-1.83]; リスク差,0.0% [95% CI, -4.7% to 4.9%]; P > .99).自然循環が回復した患者において,高血糖は介入群で77例(77%),プラセボ群で63例(73%)に発生した.高ナトリウム血症は、介入群で28(28%)、プラセボ群で27(31%)に発生した。 【結論と関連性】院内心停止患者において、バソプレシンおよびメチルプレドニゾロンの投与は、プラセボと比較して、自然循環の復帰の可能性を有意に増加させることが示された。しかし、この治療が長期生存に有益か有害かは不明である。 【臨床試験登録】ClinicalTrials. gov Identifier:NCT03640949 第一人者の医師による解説 治療方針を大きく変更するものではないが 蘇生治療に用いる薬物候補として検証は続く 鈴木 昌 東京歯科大学教授・市川総合病院救急科部長 MMJ. April 2022;18(2):47 本論文は、デンマークの10施設で行われた無作為化二重盲検試験の報告である。18歳以上の病院内発生心停止(院内心停止)に対して、試験薬群(237人)とプラセボ群(264人)の効果比較を行っている。試験薬群では初回のアドレナリン投与後、すみやかにバソプレシン 20 IUとメチルプレドニゾロン 40 mgを投与、その後バソプレシンをアドレナリン投与直後に20 IUずつ、計80 IUまで投与した。その結果、主要評価項目である自己心拍再開(ROSC)率は試験薬群で42%に達し、プラセボ群33%に対して有意に高かったが(リスク比 , 1.30;95%信頼区間 , 1.03〜1.63)、主な副次評価項目である30日後生存と神経学的転帰に有意差はなかった。有害事象(高血糖、高 Na血症)の発現率に差はなかった。以上から、院内心停止においてバソプレシンとメチルプレドニゾロン投与の追加はROSCを改善するが、30日後の予後改善は観察されなかった、と結論している。 バソプレシンは、以前の蘇生ガイドラインに記載のあった薬剤だが、アドレナリンを凌駕する効果がみられず現在は使用しないことになっている。また、ステロイド投与については現状では結論が得られていない。このため投与の推奨はない(1)。しかし、これらの薬剤が俎上に上る背景には、蘇生治療に対する重症敗血症治療の考え方の反映がある。さらに、バソプレシンや内因性ステロイドの血中濃度は心停止後の非生存者で低いことから、その補充への期待が根強い。バソプレシンではV1受容体の直接刺激による血管収縮が期待される。ステロイドでは副腎を含めた全身の虚血と再灌流障害とが惹起する不安定な血行動態や過剰な免疫応答を改善する効果が期待される。 本研究の2つの先行研究(2),(3)は院内心停止に対してROSC、生存退院、ならびに神経学的転帰の改善を報告していた。本研究はこれらの研究の外部検証と位置付けられ、この研究を含めた3つの研究の系統的レビューでは、成人の院内心停止に対するアドレナリン・バソプレシン・ステロイド投与がROSC改善に寄与するとした(4)。なお、先行2研究と系統的レビューの著者は同一グループと目される。 本研究は、院内心停止を対象にしている。院内と院外心停止とで、心肺蘇生術に違いはなく、各種の研究結果も相互に参照されて活用される。一方、この両者が同様の患者群あるいは治療対象であるとは考えられていない。したがって、この結果が直ちに院外心停止を含めた治療方針を大きく変更するものではない。とはいえ、蘇生治療に用いる薬物の候補としてさらに検討と検証が続くものと思われる。 1. Berg KM, et al. Circulation. 2020;142(16_suppl_1):S92-S139. 2. Mentzelopoulos SD, et al. Arch Intern Med. 2009;169(1):15-24. 3. Mentzelopoulos SD, et al. JAMA. 2013;310(3):270-279. 4. Holmberg MJ, et al. Resuscitation. 2022;171:48-56.
小児の市中肺炎へのアモキシシリン投与 高用量、長期である必要なし
小児の市中肺炎へのアモキシシリン投与 高用量、長期である必要なし
Effect of Amoxicillin Dose and Treatment Duration on the Need for Antibiotic Re-treatment in Children With Community-Acquired Pneumonia: The CAP-IT Randomized Clinical Trial JAMA. 2021 Nov 2;326(17):1713-1724. doi: 10.1001/jama.2021.17843. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【重要】小児市中肺炎(CAP)に対するアモキシシリン経口投与の最適な用量と期間は明らかではない。 【目的】低用量アモキシシリンが高用量に対して非劣性であるか、3日間の治療が7日間に対して非劣性であるかどうかを明らかにする。 【デザイン、設定および参加者】2017年2月から2019年4月の間に英国28病院、アイルランド1病院の救急部および入院病棟から退院時にアモキシシリンで治療した臨床的に診断された6ヶ月以上の小児824人を登録し、最終試験訪問は2019年5月21日とした多施設無作為2×2要因非劣性試験を実施した。 【介入】小児を、低用量(35~50mg/kg/d:n=410)または高用量(70~90mg/kg/d:n=404)で、短期間(3日間:n=413)または長期間(7日間:n=401)のアモキシシリン経口投与に1:1に無作為化した。 【主要評および測定法】主要アウトカムはランダム化後28日以内の呼吸器感染に対する臨床的指示による抗生物質の再処置であった。非劣性マージンは8%であった。副次的アウトカムは、保護者が報告した9つのCAP症状の重症度/期間、3つの抗生物質関連有害事象、および結核菌Streptococcus pneumoniae分離株の表現型抵抗性であった。 【結果】4群のいずれかに無作為化された824名のうち、814名が少なくとも1回の試験薬投与を受け(年齢中央値[IQR]2.5歳[1.6-2.7]、男性421名[52%]、女性393名[48%])、789名(97%)で主要評価項目を確認することができた。)低用量と高用量の比較では,低用量12.6%と高用量12.4%(差:0.2%[1-sided 95% CI -∞~4.0] ),3日投与と7日投与12.5%(差:0.1%[1-sided 95% CI -∞~3.9] )で主要アウトカム発現が認められた。両群とも非劣性が示され、投与量と投与期間の間に有意な相互作用は認められなかった(P = 0.63)。事前に規定した14の副次的エンドポイントのうち、咳嗽期間(中央値12日 vs 10日;ハザード比[HR]、1.2[95%CI、1.0~1.4];P = .04)および咳による睡眠障害(中央値、4日 vs 4日;HR、1.2 [95%CI, 1.0 ~ 1.4];P = .03)については3日 vs 7日治療でのみ有意差がみられた。重症CAPの小児のサブグループでは、主要エンドポイントは、低用量投与者の17.3%対高用量投与者の13.5%(差、3.8%[1サイド95%CI、-∞~10%];相互作用のP値=0.18)、3日間治療者の16.0%対7日間治療者の14.8%で発生した(差、1.2%[1サイド95%CI、-∞~7.結論と意義】救急部または病棟から退院した(48時間以内)CAPの小児において、抗生物質の再処置の必要性に関して、低用量の外来経口アモキシシリンは高用量に対して非劣性、3日間の期間は7日間に対して非劣性であった。しかし、この結果を解釈する際には、疾患の重症度、治療環境、以前に受けた抗生物質、非劣性マージンの許容度について考慮する必要がある。 【臨床試験登録】ISRCTN Identifier:ISRCTN76888927。 第一人者の医師による解説 重症・抗菌薬先行投与例の評価、咳の持続・不眠症状などについて検証必要 中村 敦 名古屋市立大学大学院医学研究科臨床感染制御学教授 MMJ. April 2022;18(2):50 欧州における有病率調査では、小児の救急患者はプライマリケアと比較して死亡率が高く、抗菌薬を必要とする深刻な細菌感染の可能性があり、下気道感染症が2番目に多い。入院を要する5歳未満の小児市中肺炎(CAP)患者の約3分の1は細菌が関与するとされており、抗菌薬が投与され続ける場合が多い。しかし、治癒を達成しつつ薬物曝露を最小限に抑えるために抗菌薬治療を最適化することは重要である。小児 CAPの治療について抗菌薬の異なる投与期間を比較した試験はほとんどなく、用量と期間の両方を同時に比較した試験はない。アモキシシリン(AMPC)は幼児のCAPの第1選択抗菌薬として広く推奨されているが、その最適な投与量は不明である。 本論文は、英国・アイルランド 29施設において小児 CAPに対する経口 AMPC治療を低用量群(35〜50mg/kg/日)と高用量群(70〜90 mg/kg/日)、短期群(3日間)と長期群(7日間)の2×2群にランダム化して非劣性を検証したCAP-IT試験の報告である。治療開始後28日以内の呼吸器感染症に対するAMPC以外の抗菌薬再治療の有無を主要評価項目とし、親から報告されたCAP症状の重症度と期間、AMPC投与と関連する有害事象、28日目の鼻咽頭分離肺炎球菌のペニシリン感受性などを副次評価項目としている。 4群にランダム化され救急部門または病棟から48時間以内に退院した824人のうち、814人(年齢中央値2.5歳)が少なくとも1回のAMPC投与を受けた。主要評価項目の抗菌薬再治療率は低用量群12.6%、高用量群12.4%、短期群12.5%、長期群12.5%と、投与量と投与期間の間に有意な相互作用はなく、非劣性であった(P=0.63)。副次評価項目では、咳の持続時間(P=0.04)、咳による睡眠障害(P=0.03)のみ短期群と長期群の間で有意差がみられたが、AMPCの投与量、期間による咳の重症度、有害事象、分離菌のペニシリン感受性に有意差はなかった。有害事象のうち皮膚発疹は長期群に多くみられ、治療の完遂率は短期群が高かった。 最近 SAFER試験で小児 CAPに対する5日間と10日間の高用量 AMPC治療で同等の治癒率が示され(1)、成人 CAPの3日間のβ -ラクタム療法が8日間の治療に劣らないことも報告された(2)。本研究でも小児 CAPに対するAMPCの低用量、短期投与は高用量、長期投与に対し抗菌薬の再治療の必要性に関して非劣性が示された。ただし重症例の用量比較、抗菌薬前投与例の用量および投与期間の比較では、有意ではないものの非劣性基準を満たしておらず、肺炎の重症度や治療背景、抗菌薬前投与、非劣性マージンの妥当性について検証する必要がある。 1. Pernica JM, et al. JAMA Pediatr. 2021;175(5):475-482. 2. Dinh A, et al. Lancet. 2021;397(10280):1195-1203.
血栓回収術前のアルテプラーゼ静注療法併用 血栓回収単独療法に対し優越性、非劣性とも示されず
血栓回収術前のアルテプラーゼ静注療法併用 血栓回収単独療法に対し優越性、非劣性とも示されず
A Randomized Trial of Intravenous Alteplase before Endovascular Treatment for Stroke N Engl J Med. 2021 Nov 11;385(20):1833-1844. doi: 10.1056/NEJMoa2107727. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】 急性虚血性脳卒中に対する血管内治療(EVT)の前にアルテプラーゼを静注することの価値については、特にアジア以外の地域では広く研究されていません。患者は、EVTのみを行う群と、アルテプラーゼ静注後にEVTを行う群(標準治療)に、1対1の割合で無作為に割り付けられました。主要評価項目は,90 日後の修正 Rankin スケールによる機能的転帰(範囲,0[障害なし]~6[死亡])であった.アルテプラーゼ+EVTに対するEVT単独の優越性を評価するとともに、両試験群のオッズ比の95%信頼区間の下限を0.8とするマージンで非劣性を評価した。安全性の主要評価項目は,あらゆる原因による死亡と症候性脳内出血であった。 【結果】解析対象は539例であった。90日後のmodified Rankin scaleのスコアの中央値は,EVT単独群で3(四分位範囲,2~5),アルテプラーゼ+EVT群で2(四分位範囲,2~5)であった。調整後の共通オッズ比は0.84(95%信頼区間[CI],0.62~1.15,P=0.28)で,EVT単独の優越性も非劣性も認められなかった。死亡率は,EVT 単独で 20.5%,アルテプラーゼ+EVT で 15.8%であった(調整オッズ比,1.39;95%信頼区間,0.84~2.30).症候性脳内出血は,それぞれの群で5.9%と5.3%に発生した(調整オッズ比1.30,95%CI,0.60~2.81)。 【結論】ヨーロッパの患者を対象とした無作為化試験において,脳卒中発症後90日目の障害の転帰に関して,EVT単独はアルテプラーゼ静注後にEVTを行う場合と比較して優越性も非劣性もなかった。症候性脳内出血の発生率は,両群で同等であった。(Collaboration for New Treatments of Acute Stroke コンソーシアムなどの助成を受け、MR CLEAN-NO IV ISRCTN 番号、ISRCTN80619088)。 第一人者の医師による解説 アルテプラーゼ静注併用の是非は決着せず 日本の実臨床ではアルテプラーゼ静注先行が標準 鶴田 和太郎 虎の門病院脳神経血管内治療科部長 MMJ. April 2022;18(2):37 急性期脳梗塞に対する再開通療法として、アルテプラーゼ静注療法は迅速に施行可能であり、高いエビデンスを持った治療法であるが、血管径の太い近位主幹動脈に対する効果は限定的である。一方、カテーテルを用いて行う血栓回収術は、治療設備や専門医が必要であるため施行可能な施設が限定され、治療開始までに時間を要するが、再開通率は高い。これまでアルテプラーゼ静注併用を前提とした血栓回収術の有効性・安全性のエビデンスが集積されてきた。アルテプラーゼ静注の併用は、血栓回収率を上げるという報告がある一方、血栓回収術開始までの時間が長くなることや出血性合併症のリスクが高くなるといったデメリットも考えられており、現在これら併用の是非についての検証が進行中である。 本論文は欧州人を対象とした血栓回収単独とアルテプラーゼ併用のランダム化対照試験(MR CLEAN–NO IV)の報告である。対象はアルテプラーゼ静注と血栓回収の両者が適応となる近位脳主幹動脈閉塞による脳梗塞急性期の患者で、血栓回収単独群またはアルテプラーゼ併用群(アルテプラーゼ静注 +血栓回収)に割り付けられた。主要評価項目は90日後の日常生活自立度(modified Rankin Scale;mRS)、主な安全性評価項目は全死亡、症候性頭蓋内出血とされた。対象患者539人の解析において、90日後のmRSスコア中央値は、血栓回収単独群で3(四分位範囲[IQR], 2〜5)、アルテプラーゼ併用群で2(IQR, 2〜5)であり、アルテプラーゼ併用群の優越性、非劣性とも示されなかった。全死亡、症候性頭蓋内出血の発生率についても両群でおおむね同程度であった。 脳梗塞急性期の血栓回収単独とアルテプラーゼ併用のランダム化対照試験としては、これまでに日本で行われたSKIP(1)と中国で行われたDIRECTMT(2)およびDEVT(3)の結果が報告されている。SKIPでは血栓回収単独のアルテプラーゼ併用に対する非劣性は示されなかったのに対し、DIRECTMTおよびDEVTでは非劣性が示された。 血栓回収前のアルテプラーゼ静注併用の是非については、未だ決着しておらず、進行中の他の研究結果が待たれる。日本の実臨床において、脳梗塞急性期の患者が必ずしも血栓回収を実施できる施設に搬送されるとは限らず、病院間転送が必要な患者にはアルテプラーゼ静注を先行すべきである。血栓回収単独の効率的な提供には、血栓回収適応患者を適切に血栓回収対応可能な施設に搬送するための脳卒中医療のセンター化と搬送システムの構築が喫緊の課題といえる。 1. Suzuki K, et al. JAMA. 2021;325(3):244-253. 2. Yang P, et al. N Engl J Med. 2020;382(21):1981-1993. 3. Zi W, et al. JAMA. 2021;325(3):234-243.
SGLT2阻害薬は心不全を抑制するが 大血管症への効果は2次予防例に限られる
SGLT2阻害薬は心不全を抑制するが 大血管症への効果は2次予防例に限られる
Sodium-Glucose Cotransporter-2 Inhibitors Versus Glucagon-like Peptide-1 Receptor Agonists and the Risk for Cardiovascular Outcomes in Routine Care Patients With Diabetes Across Categories of Cardiovascular Disease Ann Intern Med. 2021 Nov;174(11):1528-1541. doi: 10.7326/M21-0893. Epub 2021 Sep 28. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】ナトリウム・グルコース共輸送体-2(SGLT2)阻害薬とグルカゴン様ペプチド-1受容体作動薬(GLP-1 RA)は、2型糖尿病(T2D)と確立した心血管疾患(CVD)の患者を対象としたプラセボ対照試験で、いずれも心血管ベネフィットを示した。 【目的】SGLT2阻害薬とGLP-1 RAは、CVDを有するT2D患者と有しないCVD患者で差をつけて心血管ベネフィットに関連しているかを評価すること。 【デザイン】人口ベースコホート研究。 【設定】Medicareおよび米国の2つの商業請求データセット(2013年4月から2017年12月)。 【参加者】1:1の傾向スコアマッチしたCVDのある成人T2D患者およびない成人T2D患者(52 901人と133 139人のマッチペア)がSGLT2阻害剤対GLP-1 RA治療を開始。 【測定】主要アウトカムとして心筋梗塞(MI)や脳卒中の入院および心不全(HHF)による入院を挙げた。曝露前の共変量138個をコントロールして1000人年当たりのプールハザード比(HR)および率差(RD)を95%CIで推定した。 【結果】SGLT2阻害薬とGLP-1 RA療法の開始は、CVD患者におけるMIまたは脳卒中のリスクがわずかに低い(HR、0.90 [95% CI, 0.82 to 0.98]; RD, -2.47 [CI, -4.45 to -0.50])が、CVDのない患者では同等のリスク(HR, 1.07 [CI, 0.97 to 1.18]; RD, 0.38 [CI, -0.30 to 1.07])であった。SGLT2阻害薬とGLP-1 RA療法の開始は,CVD患者(HR,0.71 [CI,0.64~0.79]; RD,-4.97 [CI,-6.55~-3.39] )とCVDのない患者(HR, 0.69 [CI,0.56~0.85]; RD, -0.58 [CI, -0.])のベースラインのCVDと関係なくHHFリスク低減に関連していた。 【結論】SGLT2阻害薬とGLP-1製剤の使用は,CVDを有するT2D患者と有しないT2D患者でHHFリスクの一貫した低下と関連していたが,CVDを有する患者の方が絶対的な有益性が高かった。CVDの有無にかかわらず、T2D患者におけるMIや脳卒中のリスクには大きな違いはなかった。 第一人者の医師による解説 実臨床においてGLP-1受容体作動薬との比較がなされたが議論は続く 笹子 敬洋 東京大学医学部附属病院糖尿病・代謝内科助教 MMJ. April 2022;18(2):42 本論文に発表されたコホート研究は、米国の実臨床データを用いて、2型糖尿病においてNa+ /グルコース共役輸送担体2(SGLT2)阻害薬とグルカゴン様ペプチド -1(GLP-1)受容体作動薬が心血管イベントに及ぼす影響を、組み入れ前12カ月間の心血管イベントの有無(1次予防か2次予防か)で層別化し解析したものである。主要評価項目のうち、心筋梗塞・脳卒中による入院は、GLP-1受容体作動薬と比較し、SGLT2阻害薬によって全体としては抑制されず、2次予防でのみ抑制された。一方、心不全による入院は同薬の投与により、1次・2次予防にかかわらず抑制されたが、絶対リスクの低下幅は1次予防ではわずかであった。 このような実臨床のリアルワールドデータを用いた後ろ向きコホート研究は、前向き臨床試験の課題を補うものとして期待がかけられている。例えば、本研究のような糖尿病治療薬同士の直接比較は、前向きの介入試験では難しいであろう。著者らによれば、心不全に関するSGLT2阻害薬とGLP-1受容体作動薬の直接比較は初めてとのことだが、両剤が腎機能に及ぼす影響については、リアルワールドデータを用いた先行研究が報告されている(1)。 その一方で本研究では、筆者らが以前他の研究について指摘したのと同様(2)、有害事象についての解析がほとんどなされていない。前向き臨床試験であれば効果のみならず安全性にも十分な配慮が求められるが、現状でのリアルワールドデータを用いた解析では必ずしもその限りでないことに留意されたい。例えば先述のような、1次予防におけるSGLT2阻害薬の心不全に対するわずかな効果が、潜在的な有害事象のリスクを上回るかどうかは不明である。 また本研究では、前向き臨床試験において多く用いられるintention-to-treat解析でなく、薬剤の中止・切り替えも考慮したas-treatedアプローチが採用されたが、その結果マッチング後に解析対象となったのは、1次予防で計26万例以上、2次予防でも計10万例以上に上る規模であったにもかかわらず、追跡期間の中央値はわずか約7カ月であった。このようなリアルワールドデータを用いた解析において、薬剤の治療効果を長期的に評価することは必ずしも容易ではないが(2)、それを改めて目の当たりにさせられる結果でもあった。 最後に、著者らも述べているように、この研究の組み入れは2017年までであり、セマグルチドなどのより新しい薬剤が含められていない。SGLT2阻害薬とGLP-1受容体作動薬との差が今後縮まっていく可能性も考えられるが、それを明らかにするには今しばらく時間がかかりそうである。 1. Xie Y, et al. Diabetes Care. 2020;43(11):2859-2869. 2. Sasako T, et al. Kidney Int. 2022;101(2):222-224.
糖尿病診断時の年齢とその後の認知症リスクの関連
糖尿病診断時の年齢とその後の認知症リスクの関連
Association Between Age at Diabetes Onset and Subsequent Risk of Dementia JAMA. 2021 Apr 27;325(16):1640-1649. doi: 10.1001/jama.2021.4001. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【重要性】2型糖尿病は、若年齢での発症に伴い有病率が上昇している。早期発症2型糖尿病の血管合併症は知られているが、認知症との関連については明らかになっていない。 【目的】糖尿病発症年齢が低いほど認知症発症との関連が強くなるかを明らかにすること。 【デザイン、設定および参加者】英国の住民対象試験、Whitehall II前向きコホート試験。1985~1988年に設置し、1991~1993年、1997~1999年、2002~2004年、2007~2009年、2012~2013年および2015~2016年に診察を実施、2019年3月までの電子診療録と紐づけた。最終追跡調査日は2019年3月31日であった。 【曝露】2型糖尿病(診察時の空腹時血糖値126mg/dL以上、医師による2型糖尿病の診断、糖尿病薬の使用、1985年から2019年までに病院に糖尿病の記録、のいずれかを満たす場合と定義) 【主要評価項目】電子診療録との紐づけによって確認した認知症の発症。 【結果】参加者10,095例(男性67.3%;1985~1988年に35~55歳)のうち、中央値で31.7年の追跡期間中、糖尿病1,710例、認知症639例が記録された。1,000人年当たりの認知症発症率は、70歳時点で糖尿病がなかった参加者が8.9、5年以内に糖尿病を発症した参加者が10.0、6~10年前に糖尿病を発症した参加者が13.0、10年より前に糖尿病を発症した参加者が18.3であった。多変量補正解析で、70歳時点で糖尿病ではなかった参加者と比べた認知症のハザード比は、10年より前の糖尿病発症が2.12(95%CI、1.50~3.00)、6~10年前の発症が1.49(95%CI、0.95~2.32)、5年以内の発症が1.11(95%CI、0.70~1.76)であった。線形傾向検定(P<0.001)から、2型糖尿病の発症年齢と認知症に段階的な関連が示された。社会人口統計学的因子、健康行動、健康関連測定値で補正した解析で、2型糖尿病発症時の年齢が5歳低下するごとに70歳時点の認知症ハザード比1.24(同1.06~1.46)との有意な関連が認められた。 【結論および意義】中央値で31.7年追跡したこの縦断コホート試験では、糖尿病の発症年齢が低いほど以後の認知症発症リスクが高くなった。 第一人者の医師による解説 認知症予防には中年期からの積極的な介入が望ましい 古和 久朋 神戸大学大学院保健学研究科教授 MMJ. February 2022;18(1):6 糖尿病がアルツハイマー病(AD)をはじめとする認知症の危険因子であることは、すでにさまざまな証拠から支持されている。例えば日本の久山町研究では耐糖能異常を有する人では有さない人よりもADの特徴的病理構造物である老人斑の蓄積量が約2倍多いことが示されている(1)。一方、2型糖尿病の発症年齢が若くなると死亡率や心血管イベント発生率を上昇させることは以前より示されていたものの、発症年齢と認知症発症の関連は検証されてこなかった。 本論文は、英国 Whitehall II前向きコホート研究の参加者を対象に中年期から高齢期にかけてこの関連について検討した研究の報告である。研究参加者10,095人(男性67.3%、ベースライン時点[1985 ~ 88年]年齢 35 ~ 55歳)のうち、中央値31.7年の追跡期間において、合計1,710人に糖尿病、639人に認知症の発症がみられた。解析の結果、35歳から75歳までの糖尿病発症年齢のデータでは、5年ごとに糖尿病の発症が早くなるほど、認知症の発症リスクが高くなることが示された(70歳時点で糖尿病を有する参加者と比較し、糖尿病発症が10年超早い参加者の認知症のハザード比[HR]は2.12[95% CI, 1.50~3.00]、糖尿病発症が6~10年早い参加者では1.49[95% CI, 0.95~2.32])。一方、遅発性の糖尿病はその後の認知症とは有意に関連しなかった。また、糖尿病のある人では、脳卒中の併存が認知症のリスクをさらに高めることが明らかになった。 本論文の結果は、認知症全体の発症リスクを評価したものであるが、その脳内病理学的変化がアミロイド PETなどにより長期の観察が可能となり、発症の20年以上前から老人斑の蓄積が開始されるなど、その病態生理に多くの知見が得られているAD(2)に限定して考えても極めてリーズナブルといえる。遅発性の糖尿病が発症リスクに影響しないことを考慮すると、糖尿病はAD初期からの病理学的変化である老人斑の蓄積に影響を与えうる可能性が高く、久山町研究の観察と合致するものである。 次の疑問は、糖尿病発症後のどの時期までに介入すれば認知症の発症を防げるのか、その際の介入は血糖コントロールのみでよいのか、J-MINDDiabetes研究(3)のように運動や認知機能訓練などの多因子介入を実施すべきか、という点であり、前向き研究の結果が待たれるところである。 1. Ohara T, et al. Neurology. 2011;77(12):1126-1134. 2. Jack CR Jr, et al. Lancet Neurol. 2010;9(1):119-128. 3. Sugimoto T, et al. Front Aging Neurosci. 2021;13:680341.
1999~2018年の米国の成人にみられる糖尿病の治療とコントロールの傾向
1999~2018年の米国の成人にみられる糖尿病の治療とコントロールの傾向
Trends in Diabetes Treatment and Control in U.S. Adults, 1999-2018 N Engl J Med. 2021 Jun 10;384(23):2219-2228. doi: 10.1056/NEJMsa2032271. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】糖尿病の治療および危険因子のコントロールの現在の傾向を記録することにより、公衆衛生に関する政策や計画に有用な情報が得られる。 【方法】National Health and Nutrition Examination Survey(NHANES)に参加した米国の糖尿病成人のデータを横断的に解析し、1999年から2018年にかけての糖尿病の治療と危険因子のコントロールに関する全国的な傾向を評価した。 【結果】1999年から2010年代前半にかけて、参加者の糖尿病コントロールが改善したが、その後は停滞し、低下した。2007~2010年の期間から2015~2018年の期間までに、糖尿病を有する成人NHANES参加者のうち、血糖コントロール(糖化ヘモグロビン値7%未満)を達成した人の割合は、57.4%(95%CI、52.9~61.8)から50.5%(95%CI、45.8~55.3)に低下した。2000年代前半に脂質コントロール(非高比重リポタンパクコレステロール値130mg/dL未満)が大きく改善したのち、2007~2010年(52.3%;95%CI、49.2~55.3)から2015~2018年(55.7%;95%CI、50.8~60.5)までにわずかな改善がみられた。血圧コントロール(140/90 mmHg未満)を達成した参加者の割合は、2011~2014年から2015~2018年までに74.2%(95%CI、70.7~77.4)から70.4%(95%CI、66.7~73.8)に低下した。3つの目標を同時に達成した参加者の割合は、2010年以降頭打ちとなり、2015~2018年は22.2%(95%CI、17.9~27.3)であった。何らかの血糖降下薬または降圧薬を使用した参加者の割合は、2010年以降変化がみられず、スタチンを使用した参加者の割合は2014年以降横ばいとなった。併用療法使用者の割合は、2010年以降、血圧コントロールが不良な参加者では低下し、血糖コントロールが不良な参加者では頭打ちになった。 【結論】糖尿病を有する成人NHANES参加者で、1999年から2010年代前半までの10年以上にわたり向上がみられたのち、血糖と血圧のコントロールが低下したが、脂質のコントロールが横ばいとなった。 第一人者の医師による解説 低血糖回避の重要性が認識され、低血糖が生じにくい薬剤の上市による生命予後改善が期待 入江 潤一郎 慶應義塾大学医学部腎臓内分泌代謝内科准教授 MMJ. February 2022;18(1):14 全世界で糖尿病患者は増加の一途を辿っているが、実臨床における糖尿病治療の変遷は明らかではない。本研究では、米国の大規模な国民健康栄養調査(NHANES)のデータ(1999~2018年)を用いて、糖尿病と診断されている成人6,653人について、糖尿病関連の指標の検討を行った。 血糖管理に関しては、HbA1c値7.0%未満を達成した人の割合は、57.4%(2007 ~ 10年)から50.5%(2015 ~ 18年)に低下していた。しかし、その10年前である1999 ~ 2002年 の44.0%より上昇していた。血圧管理に関しては、収縮期 /拡張期血圧140/90mmHg未満を達成している人の割合が、74.2%(2011 ~ 14年)から70.4%(2015 ~ 18年)に低下していた。脂質に関しては、非高比重リポ蛋白(non-HDL)コレステロール値130mg/dL未満を達成している人の割合は、52.3%(2007 ~ 10年)から55.7%(2015~18年)に上昇を認めた。血糖・血圧・脂質の3つの管理目標をすべて達成した人の割合は、2007 ~ 10年には24.9%、2015 ~ 18年には22.2%と増減を認めなかった。糖尿病治療薬に関しては、1999年と比較し、2018年ではメトホルミン、インスリンの使用が増えた一方で、スルフォニル尿素薬、チアゾリジン薬の使用が減少していた。また2003年以降はNa+/グルコース共役輸送担体(SGLT)2阻害薬やグルカゴン様ペプチド(GLP)-1受容体作動薬の使用が増加していた。 これまで、DCCT(米国・カナダ)やUKPDS(英国)など、糖尿病患者の血糖管理が合併症に与える影響を検討した大規模研究から、厳格な血糖管理によりHbA1c値を低くすることが、糖尿病合併症の発症・進展を抑制できることが示されていた。これらの結果に基づき、HbA1c値を下げることは心血管事故死も予防すると考えられていたが、2008年に発表されたACCORD試験とADVANCE試験では、対象によっては厳格な血糖管理によっても心血管事故死の抑制が得られないことが明らかになった。その理由として、血糖値をより低く管理しようとすると、一部の糖尿病患者では低血糖のリスクが高くなり、不整脈や昏睡などが生じ、全死亡が増加した可能性が考えられた。その結果、低血糖を回避することの重要性が認識されるようになり、糖尿病患者の血糖管理目標が患者に応じて緩和されるようになったため、2015 ~ 18年の血糖管理が悪化した可能性がある。これらの試験以降、ジペプチジルペプチダーゼ(DPP)-4阻害薬、GLP-1受容体作動薬、SGLT2阻害薬など、低血糖を起こしにくい薬剤が上市されており、今後はこれらの薬を用いた糖尿病患者の生命予後の改善が期待される。 臨床試験略号:DCCT;Diabetes Control and Complications Trial、UKPDS;UK Prospective Diabetes Study、ACCORD;Action to Control Cardiovascular Risk in Diabetes、ADVANCE;Action in Diabetes and Vascular Disease
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