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腎移植の免疫抑制を制御性T細胞 第I/IIa相臨床試験
腎移植の免疫抑制を制御性T細胞 第I/IIa相臨床試験
Regulatory T cells for minimising immune suppression in kidney transplantation: phase I/IIa clinical trial BMJ. 2020 Oct 21;371:m3734. doi: 10.1136/bmj.m3734. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【目的】腎移植後の自己内在性制御性T細胞(nTreg)注入による免疫バランスの再形成の安全性および実行可能性を評価すること、有効性が低い割に有害事象があり直接的および間接的コストも高い高用量免疫抑制薬を減量できる可能性を見きわめること。有益な概念実証モデルで、容易で安定した製造、過剰免疫抑制の危険、標準治療薬との相互作用および炎症性環境での機能の安定性などのnTreg治療の課題を検討すること。 【デザイン】医師主導単施設nTreg用量漸増第I/IIa相臨床試験(ONEnTreg13)。 【設定】ONE Study内のCharité大学病院(ドイツ・ベルリン、EUが資金提供)。 【参加者】生体ドナー腎移植レシピエント(ONEnTreg13、11例)および対応する参照群(ONErgt11-CHA、9例)。 【介入】腎移植7日後にCD4+ CD25+ FoxP3+ nTregを0.5、1.0、2.5-3.0×106個/体重kgのいずれかの用量を静脈内投与し、その後48週後まで3剤併用免疫抑制療法から低用量タクロリムス単独療法へと段階的に減量した。 【主要評価項目】主要臨床的および安全性評価項目は、60週時の複合評価項目とし、さらに3年間追跡した。評価には、生検で確認した急性拒絶反応の発生、nTreg注入による有害事象の評価、過剰免疫抑制の徴候などを含めた。移植腎機能を副次評価項目とした。付随する研究に包括的な探索的バイオマーカーのポートフォリオを含めた。 【結果】全例で、腎臓移植2週間前に採取した末梢血40-50mLから十分な量、純度、機能のnTreg細胞が作製できた。3通りのnTreg用量漸増群いずれでも用量規制毒性を認めなかった。nTregおよび参照群の3年後同種移植片生着率はいずれも100%で、臨床および安全性に関する特徴もほぼ同じだった。nTreg群の11例中8例(73%)が単剤による安定した免疫抑制を達成した一方で、参照群では標準的な2剤または3剤併用による免疫抑制療法を継続していた(P=0.002)。従来のT細胞活性化は低下し、nTregが体内でポリクローナルからオリゴクローナルT細胞受容体レパートリーに変化した。 【結論】自己nTregの投与は、腎移植後に免疫抑制療法を実施している患者でも安全で実行可能であった。この結果は、Tregの有効性をさらに詳細に評価することの必要性を裏付け、移植および免疫病理学での次世代nTregアプローチの開発の基盤となるものである。 第一人者の医師による解説 腎移植後の免疫抑制療法の減少のため 今後の実用化に期待 越智 敦彦 亀田総合病院泌尿器科・腎移植科医長 MMJ. April 2021;17(2):53 免疫抑制療法の進歩により腎移植後の長期腎生着率の成績は向上したが、その半面で長期の免疫抑制薬の使用による感染症、悪性腫瘍、心血管障害の発症や薬剤の腎毒性による移植腎機能障害などが問題となった。そこで長期腎生着とともに免疫抑制薬の最少化が課題となっている。これまでの研究により、内在性制御性T細胞(nTreg)に固形臓器移植後の拒絶反応を遅延、防止する働きがあることが示されている。すでに末梢血、臍帯血、または胸腺から十分な量と純度のTregが作製できることも報告されている。しかし、腎移植後の免疫抑制療法へのnTregの導入には容易で安定したnTreg製造手順の作成と、安全性の確立のためnTreg投与による過剰免疫抑制の危険性、標準薬剤との相互作用などを明らかにする必要があった。 本論文は、自己血液中から作製したnTregの腎移植後投与の安全性と有効性について検討した医師主導型単施設nTreg用量漸増第I/IIa相臨床試験(ONEnTreg13試験)の報告である。生体腎移植のレシピエント11例をnTreg投与群とし、以前行われた試験(ONErgt11-CHA試験)の9例を参照群とすることで比較した。nTreg投与群では腎移植手術の2週間前に40~50mLの末梢血からnTreg(CD4+CD25+FoxP3+)を作製し、腎移植の7日後に体重(kg)あたり0.5、1.0、または2.5~3.0×106個の細胞を静脈内へ単回投与した。移植後に3剤の免疫抑制薬(プレドニゾロン、ミコフェノール酸モフェチル、タクロリムス)を開始し、48週かけて低用量のタクロリムス単剤へと漸減した。臨床所見および安全性の複合主要評価項目には、生検で確認された急性拒絶反応の発生率、nTreg投与に関連する有害作用および過剰免疫抑制の徴候が含まれ、移植後60週目に評価し、さらに3年間の追跡調査を行った。また移植腎の機能を副次評価項目とした。結果では、すべての患者で十分な量と純度、機能のあるnTregの作製が可能であった。nTreg用量を漸増した3つの投与群において用量規定毒性は確認されなかった。3年後の移植腎生着率はnTreg投与群、参照群ともに100%であり、臨床所見および安全性のデータに差を認めなかった。nTreg投与群では11例中8例(73%)でタクロリムス単剤での安定した免疫制御が達成されたが、参照群では標準的な2剤以上の免疫抑制療法が継続された(P=0.002)。 本研究はまだ症例数が少なく、臨床での実用化には今後さらにデータの蓄積が必要であるが、腎移植後の従来の免疫抑制療法に対して新しい知見をもたらす研究と考えられる。
転帰不良リスクがある患者に対象を絞ったリハビリによる人工膝関節全置換後の転帰改善効果 無作為化比較試験
転帰不良リスクがある患者に対象を絞ったリハビリによる人工膝関節全置換後の転帰改善効果 無作為化比較試験
Targeting rehabilitation to improve outcomes after total knee arthroplasty in patients at risk of poor outcomes: randomised controlled trial BMJ. 2020 Oct 13;371:m3576. doi: 10.1136/bmj.m3576. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【目的】人工膝関節全置換後の転帰不良が予測される患者に対象を絞った場合、漸進的な外来理学療法が、単回理学療法や自宅での運動主体の介入より優れた転帰をもたらすかを評価すること。 【デザイン】並行群間無作為化比較試験。 【設定】術後の理学療法を提供する英国の二次および三次医療機関13施設。 【参加者】術後6週時に、オックスフォード膝スコアで人工膝関節全置換後の転帰が不良のリスクがあると判定した変形性膝関節症患者334例。163例を理学療法士主導の外来リハビリ、171例を自宅での運動主体の介入に割り付けた。 【介入】理学療法士が全例をレビューし、6週間にわたる18回の理学療法士主導の外来リハビリ(1週間ごとにプログラムを修正する漸進的目標指向型の1対1の機能リハビリ)または理学療法士のレビュー後在宅での運動を軸にした介入(理学療法士の漸進的介入なし)を実施した 【主要評価項目】52週時のOxford膝スコア群間差4点を主要評価項目とし、臨床的意義があると考えた。術後14、26、52週時に測定した疼痛および機能の患者報告転帰を副次評価項目とした。 【結果】334例を無作為化した。8例が追跡不能であった。介入の遵守率が85%を超えていた。52週時のOxford膝スコアの群間差は1.91点(95%CI -0.18-3.99)で、外来リハビリ群の方が良好だった(P=0.07)。全測定時点のデータを解析するとOxford膝スコアの群間差は2.25点で臨床的意義がなかった(同0.61-3.90、P=0.01)。52週時やそれ以前の測定時点での平均疼痛(0.25点、-0.78-0.28、P=0.36)および疼痛悪化(0.22点、-0.71-0.41、P=0.50)の副次評価項目に群間差は見られず、転帰に対する満足度(オッズ比1.07、95%CI 0.71-1.62、P=0.75)および介入後の機能(4.64秒、95%CI -14.25-4.96、P=0.34)にも差がなかった。 【結論】人工膝関節全置換後の転帰不良リスクがある患者に実施する外来の理学療法士主導のリハビリに、理学療法士1名のレビューと自宅での運動を軸にした介入に対する優越性はなかった。主要評価項目および副次評価項目にも臨床的意義のある差は認められなかった。 第一人者の医師による解説 人工膝関節全置換術後の医療資源の提供計画に 再考の余地を与える研究 島田 洋一 秋田大学副学長・大学院整形外科学講座教授 MMJ. April 2021;17(2):57 人工膝関節全置換術(TKA)は、末期変形性膝関節症に対して最も多く施行される手術で、今後も件数の増加が予想されている。この手術は、痛みを軽減し、身体機能を改善するのに効果的だが、約20%の患者で術後の結果に不満が残ると言われており、満足度を向上させるのに理学療法は非常に重要である。しかし、現在、明確なガイドラインは存在せず、術前に、術後成績の予測は困難であることが明らかになっている。 本論文で報告された無作為化並行群間比較試験(TRIO試験)では、術後早期(6週間)時、機能やパフォーマンスの低く、痛みのレベルが高い、単純なタスクを実行するのが難しい患者334人の参加者のうち、163人は6週間のセラピスト主導の漸進的な入力ありの外来リハビリテーションに、171人は在宅運動ベースで、漸進的な入力なしのプロトコルに割り付けられ、主に患者立脚型臨床成績Oxford knee score(OKS)を比較した。 Intention-to-treat(ITT)解析では、術後1年OKS群間差の調整平均は1.91(95%信頼区間[CI],0.18~3.99)であり、セラピスト主導群で高値となった(P=0.07)。両群ともにOKSは臨床的に意味のある4点以上改善した。全時点(術後14、26、52週)のデータを解析しても群間差は2.25点であった(95% CI, 0.61~3.90;P=0.01)。Timed up go test(椅子から立ち上がり、3m先の目印を回って、再び椅子に座るまでの時間を測定)では有意差がなかった。1年後の満足度について群間差はなかったが、セラピスト主導群では疼痛軽減と身体活動を行う能力に対する満足度が有意に高値であった。 TKA術後リハビリテーションのプロトコルや提供方法に関する医学的根拠は依然として不足しており、最善のTKA術後の理学療法と、行政や保険者による医療サービスへの適切な資金提供の根拠が依然として不明瞭である。本研究では、転帰不良リスクが高い患者層を選択的にリクルートして、TKA術後理学療法において積極的に外来でセラピスト主導のリハビリテーションを促進する明らかな利点がないことが明らかになった。単に患者に高リスク群であることを認識させ、理学療法士による在宅運動に基づくレジメンの指導を通じてハンズオフリハビリテーションを提供するだけで、外来でのセラピスト主導のリハビリテーションと同等の結果を得るのに十分である可能性がある。
FDAとEMAの迅速承認と新薬の治療的価値との関連 後ろ向きコホート研究
FDAとEMAの迅速承認と新薬の治療的価値との関連 後ろ向きコホート研究
Association between FDA and EMA expedited approval programs and therapeutic value of new medicines: retrospective cohort study BMJ. 2020 Oct 7;371:m3434. doi: 10.1136/bmj.m3434. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【目的】米国食品医薬品局(FDA)および欧州医薬品庁(EMA)が承認した新薬の治療的価値の特徴および優先プログラムの等級付けと規定当局の承認の関連を明らかにすること。 【デザイン】後ろ向きコホート研究。 【設定】2007年から2017年までの間のFDAとEMAが承認し、2020年4月1日まで追跡した新薬。 【データ入手元】独立機関5団体(Prescrire誌、カナダ、フランス、ドイツおよびイタリアの保健当局)の新薬の等級付けを用いて治療価値を測定した。 【主要評価項目】治療上の価値が高いと評価した新薬の割合、高い治療的価値評価と優先状況の関連。 【結果】2007年から2017年にかけて、FDAが320品目、EMAが268品目の新薬を承認し、そのうち181品目(57%)と39品目(15%)が1つ以上の優先プログラムに指定されていた。治療上の価値を等級付けした新薬267品目で、1機関以上が84品目(31%)を治療的価値が高いと評価した。治療的価値が高いと評価された医薬品の割合は、優先プログラムに指定された医薬品の方が非優先プログラムの医薬品よりも高かった[FDA承認:45%(153品目中69品目) vs 13%(114品目中15品目)、P<0.001、EMA:67%(27品目中18品目) vs 27%(240品目中65品目)、P<0.001]。指定した医薬品の治療的価値が高いと評価される優先プログラムの感度および特異度は、FDAが82%(95%CI 72-90)と54%(同47-62)、EMAで25.3%(16.4-36.0)と90.2%(85.0-94.1)だった。 【結論】過去10年間にFDAとEMAが承認した新薬の3分の1が、5つの独立機関のうち1つ以上から治療的価値が高いと評価を受けた。優先プログラムに指定した医薬品が非優先プログラム指定医薬品よりも高い評価を受けていると考えられたが、FDAの優先プログラムに指定された医薬品は、EMAの優先プログラム指定医薬品と異なり、ほとんどが治療的価値が低いと評価された。 第一人者の医師による解説 早期承認薬のリスクとベネフィット 規制当局は医療者と患者に知らせるべき 松元 一明 慶應義塾大学薬学部薬学科薬効解析学講座教授 MMJ. April 2021;17(2):59 世界で使用されているほとんどの医薬品は、米食品医薬品局(FDA)または欧州医薬品庁(EMA)で最初に承認される。これまでに、FDAはfast track(1987年)、accelerated approval(1992年)、priority review(1992年)、breakthrough therapy(2012年)の4つの早期承認プログラムを確立し、EMAはaccelerated assessment(2005年)、conditional marketing authorisation(2006年)の2つの早期承認プログラムを確立している。これらは患者に、必要とされる医薬品をいち早く届けるための制度であり、両規制当局は既存治療よりも優れた効果を示す医薬品が申請されるべきであると示している。しかし、プラセボ対照試験、単群試験に基づいて承認されており、既存治療との比較試験は要求されていない。したがって、FDAおよびEMAの早期承認プログラムで承認された新薬の治療価値(therapeutic value)は不確かである。そこで本論文では、カナダ、フランス、ドイツ、イタリアの保健当局と非営利団体 Association Mieux Prescrireが公表している医薬品の治療価値に基づいて、2007~17年にFDAおよびEMAで承認されたすべての新薬を評価した。 2007~17年にFDAおよびEMAは、それぞれ320、268の新薬を承認した。そのうちFDAは163(51%)、EMAは39(15%)の新薬を早期承認プログラムで承認した。治療価値の評価は267の医薬品について実施された。FDA承認薬の31%(84/267)、EMA承認薬の31%(83/267)が高い治療価値を有すると評価された。FDAの早期承認群で高く評価された医薬品は45%(69/153)、非早期承認群では13%(15/114)と有意差があった。EMAにおいても早期承認群67%(18/27)、非早期承認群27%(65/240)と有意差があった。FDAで早期承認された医薬品が高く評価される感度と特異度は、それぞれ82%(95%信頼区間[CI],72~90%)、54%(47~62%)であり、ROC曲線下面積(AUC)は0.68(0.63~0.74)であった。EMAではそれぞれ25%(95% CI, 16~36%)、90%(85~94%)、AUCは0.58(0.54~0.63)であり、両規制当局ともに予測性はそれほど高くなかった。 FDAとEMAでは新薬の開発を促進するために本制度がますます利用されている。早期承認薬の方が非早期承認薬より高く評価された医薬品は多かったが、その割合は決して高くはなかった。そのため、規制当局は医療従事者ならびに患者に早期承認薬のリスクとベネフィットの情報を知らせる必要がある。
ナトリウム・グルコース共役輸送体2阻害薬と糖尿病性ケトアシドーシスのリスク 多施設共同コホート研究
ナトリウム・グルコース共役輸送体2阻害薬と糖尿病性ケトアシドーシスのリスク 多施設共同コホート研究
Sodium-Glucose Cotransporter-2 Inhibitors and the Risk for Diabetic Ketoacidosis : A Multicenter Cohort Study Ann Intern Med. 2020 Sep 15;173(6):417-425. doi: 10.7326/M20-0289. Epub 2020 Jul 28. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】ナトリウム・グルコース共役輸送体2(SGLT2)阻害薬によって糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)のリスクが上昇する可能性がある。 【目的】SGLT2阻害薬によって、ジペプチジルペプチダーゼ4(DPP-4)阻害薬と比較して、2型糖尿病患者のDKAリスクが上昇するかを評価すること。 【デザイン】住民対象コホート研究;2013年から2018年の間のprevalent new-user design(ClinicalTrials.gov、NCT04017221)。 【設定】カナダ7地域と英国の電子医療記録データベース。 【患者】time-conditional傾向スコアを用いて、SGLT2阻害薬新規使用者20万8757例をDPP-4阻害薬使用者20万8757例とマッチングさせた。 【評価項目】コックス比例ハザードモデルで、DPP-4阻害薬使用者と比較したSGLT2阻害薬使用者のDKAの施設ごとのハザード比と95%CIを推定し、ランダム効果モデルを用いて統合した。二次解析では、分子、年齢、性別およびインスリン投与歴で層別化した。 【結果】全体で、37万454人・年の追跡で、521例がDKAの診断を受けた(1000人年当たりの発生率1.40、95%CI 1.29-1.53)。SGLT2阻害薬によってDPP-4阻害薬と比較してDKAリスクが上昇した(発生率2.03、CI 1.83 to 2.25、0.75、CI 0.63-0.89、ハザード比2.85、CI 1.99-4.08)。分子固有のハザード比は、ダパグリフロジン1.86(CI 1.11-3.10)、エンパグリフロジン2.52(CI 1.23-5.14)、カナグリフロジン3.58(CI 2.13-6.03)であった。この関連は年齢および性別では修正されず、インスリン投与歴があるとリスクが低下すると思われた。 【欠点】測定できない交絡因子がある点、患者の大多数の臨床検査データがない点、分子別の解析を実施した施設が少ない点。 【結論】SGLT2阻害薬でDKAリスクが約3倍になり、分子別の解析からクラス効果が示唆された。 第一人者の医師による解説 DPP-4阻害薬に比べ約3倍の発症リスク インスリンの存在がカギ 関根 信夫 JCHO東京新宿メディカルセンター院長 MMJ. April 2021;17(2):49 腎近位尿細管でのブドウ糖再吸収抑制により尿糖排泄を促すという、一見シンプルな機序により血糖降下作用を発揮するSGLT2阻害薬は、近年、心血管イベントをはじめとする合併症予防における優位性(1)から注目され、その使用が劇的に増加している。SGLT2阻害薬は血糖改善・体重減少作用に加え、心不全の発症・入院を減少させ、腎症の進展抑止に寄与する。米国糖尿病学会(ADA)により、特に心血管疾患・心不全・腎症合併例における積極的使用が推奨されている(2)。一方、副作用については尿路・性器感染症のリスク上昇が明らかであるが、代謝面で注目されたのが糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)の発症である。その機序としてはインスリン欠乏や脱水などを基盤にケトン体産生が増加することが想定されている。特筆すべきは、比較的低い血糖レベルでもDKAを生じうることであり(“正常血糖糖尿病性ケトアシドーシス”とも言われる)、極端な糖質制限によるリスクにも注意しなければならない。 本研究はカナダと英国のプライマリケア・データベースを活用したコホート研究であり、2013年1月~18年6月にSGLT2阻害薬を新規に処方された患者、またはDPP-4阻害薬投与を受けている患者を対象に、各薬剤群208,757人という大規模レベルでDKA発症について後ろ向きに比較検討したものである。結果、期間中521人(発症率比1.40人 /1,000人・年)がDKAを発症し入院した。このうちSGLT2阻害薬群ではDPP-4阻害薬群に比べ有意なDKA発症増加が認められた(発症率比2.03対0.75/1,000人・年;ハザード比[HR]2.85)。SGLT2阻害薬の薬剤別HRは、ダパグリフロジン1.86、エンパグリフロジン2.52、カナグリフロジン3.58と、基本的にはクラスエフェクトと考えられるものの、カナグリフロジンのリスクが最も高かった。同薬のSGLT2選択性が比較的低いことが理由として推察されるものの、結論を出すには慎重であるべきである。 なお、SGLT2阻害薬は1型糖尿病でのインスリンへの併用が保険適用となったが、DKA発症リスクが極めて高い1型糖尿病では、なお一層の注意が必要である。本研究でもあらかじめインスリンを投与された患者ではDKA発症リスクが低いという結果が得られており、ポイントはインスリンの“存在”と想定される。すなわち、1型糖尿病においては十分量のインスリンが投与されていること、2型糖尿病ではインスリン療法が行われているか、内因性インスリン分泌が十分あることが、DKA発症リスクを軽減することにつながるものと考えられる。 1. Zelniker TA, et al. Lancet. 2019;393(10166):31-39. 2. American Diabetes Association. Diabetes Care. 2021;44(Suppl 1):S111-S124.
血漿P-tau217によるアルツハイマー病と他の神経変性疾患の識別
血漿P-tau217によるアルツハイマー病と他の神経変性疾患の識別
Discriminative Accuracy of Plasma Phospho-tau217 for Alzheimer Disease vs Other Neurodegenerative Disorders JAMA. 2020 Aug 25;324(8):772-781. doi: 10.1001/jama.2020.12134. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【重要性】現在のアルツハイマー病(AD)を診断する検査法には限界がある。 【目的】ADを診断するバイオマーカーに用いるスレオニン部位でリン酸化された血漿タウ(P-tau217)の有用性を調べること。 【デザイン、設定および参加者】横断的研究3件――AD患者34例およびADがない47例を対象とした米アリゾナ州の神経病理学コホート(コホート1、登録期間2007年5月から2019年1月)、認知機能障害がない参加者(301例)と臨床的に診断を受けた軽度認知機能(MCI)がある参加者(178例)、アルツハイマー型認知症(121例)および他の神経変性疾患(99例)を対象としたスウェーデンのBioFINDER-2コホート(コホート2、2017年4月から2019年9月)、PSEN1 E280A遺伝子変異保有者365例および非変異保有者257例を対象としたコロンビア常染色体優性ADがある親族コホート(コホート3、2013年12月から2017年2月)。 【曝露】血漿P-tau217。 【主要評価項目】血漿P-tau217のAD(臨床的または神経病理学的に診断)識別精度を主要評価項目とした。タウ病理像との関連を副次評価項目とした(神経病理学的にまたはPETで確認)。 【結果】コホート1は平均年齢83.5(SD 8.5)歳、女性38%、コホート2は平均年齢69.1(SD 10.3)歳、女性51%、コホート3は平均年齢35.8(SD 10.7)歳、女性57%だった。コホート1は、生前の血漿P-tau217からADと非ADを神経病理学的に識別でき[曲線下面積(AUC)0.89、95%CI 0.81-0.97]、血漿中P-tau181やニューロフィラメント軽鎖(NfL)よりも識別精度が有意に高かった(AUC範囲0.50-0.72、P<0.05)。コホート2での血漿P-tau217のアルツハイマー型認知症とその他の神経変性疾患の識別精度は、血漿中P-tau181やNfL、MRI検査よりも有意に高かった(AUCの範囲0.50-0.81、P<0.001)が、脳脊髄液(CSF)P-tau217、CSF P-tau181、タウPET検査との有意差はなかった(AUC範囲0.90-0.99、P>0.15)。コホート3では、約25歳以上のPSEN1変異保有者の血漿中P-tau217値が非保有者よりも高く、変異保有者がMCIを発症したと推定された時期の約20年前に増加が始まっていた。コホート1では、血漿中P-tau217値にβアミロイドプラークがある参加者のタウ変化との有意な関連がみられたが(Spearmanのρ=0.64、P<0.001)、βアミロイドプラークがない参加者ではこの関連はみられなかった(Spearmanのρ=0.15、P=0.33)。コホート2では、血漿中P-tau217でタウPET検査の異常を正常と見分けることができ(AUC 0.93、95%CI 0.91-0.96)、血漿中P-tau181や血漿NfL、CSF P-tau181、CSFのAβ42/Aβ40比およびMRI検査よりも有意に精度が高かったが(AUC範囲0.67-0.90、P<0.05)、精度にCSF P-tau217との有意差はなかった(AUC 0.96、P=0.22)。 【結論および意義】コホート3件の参加者1402例で、血漿中P-tau217によってADとその他の神経変性疾患を見分けることができ、血漿およびMRI検査のバイオマーカーより精度が有意に高かったが、主要なCSFやPET検査の測定法との有意差はなかった。この方法を最適化し、多様な集団を対象に結果を検証し、実臨床に用いる潜在的な役割を明らかにするため詳細な研究が必要である。 第一人者の医師による解説 実臨床や多様な集団から対象者を十分確保した 縦断的研究による検証が必要 石井 一弘 筑波大学医学医療系神経内科学准教授 MMJ. April 2021;17(2):46 2050年にアルツハイマー病(AD)の患者数が全世界で1億人に達するとの試算もある。ADの疾患修飾薬が利用可能になれば、低侵襲の採血で測定でき、しかも疾患早期から正確な診断が可能な診断マーカーの開発が望まれる。ADの原因蛋白であるAβ蛋白分子種(Aβ40、Aβ42)、各種リン酸化タウ蛋白を血漿、髄液で測定し、さらに生体内のこれら蛋白をPETで可視化し、その分布や脳部位で定量をし、診断バイオマーカーとする試みが行われている。しかしながら、これらバイオマーカーを用いてのAD早期診断には限界がある。最近、217番目のスレオニンがリン酸化したタウ蛋白(P-tau217)は、181番目のスレオニンがリン酸化したタウ蛋白(P-tau181)に比べ、より正確にしかも、より早期にADを診断できることが報告された(1)。 本研究では3つのコホート研究から得られた1,402人分の血漿試料を用いて、P-tau217濃度を測定し、ADに対する診断精度(感度、特異度)を他の血漿、髄液バイオマーカーと比較し、有用性を検討した。その結果、血漿P-tau217は臨床的に診断されたADを他の神経変性疾患と正確に鑑別することができ、病理学的にADと診断された患者と病理学的にADではない患者を判別することができた。さらに血漿P-tau217は血漿P-tau181、血漿ニューロフィラメント軽鎖(NfL)や大脳皮質厚や海馬容積などの脳 MRI測定値と比較し、臨床的ADをより正確に診断した。一方、髄液P-tau181、髄液P-tau217やTau-PETとの比較では、鑑別精度に有意差はなかった。加えて、血漿P-tau217濃度は神経原線維変化などのTau病理と相関し、TauPETでの正常と異常を他の髄液、血漿のバイオマーカーより正確に判別可能であった。 本研究の限界として、選択された集団を用いた横断的コホート研究であることが挙げられる。そのため、実臨床や多様な集団から十分な対象者数を確保した縦断的研究による検証を行わなければならない。また、測定法についてもP-tau217測定の感度向上と最適化、実用化に向けての測定自動化やカットオフ値の設定が必要である。他の神経変性疾患の鑑別への応用でも、十分な疾患数を確保し、鑑別精度を上げる必要がある。これらの限界を考慮しても、血漿P-tau217測定はADの早期診断やTau関連疾患との鑑別においては、今後、十分に注目される診断バイオマーカーになるであろう。 1. Janelidze S, et al. Nat Commun. 2020;11(1):1683.
#04 自分の実存を賭して、自分の言葉で語ること。
#04 自分の実存を賭して、自分の言葉で語ること。
発展途上国、日本のへき地離島、大規模災害の被災地……。世の中には「医療の届かないところ」があります。NPOジャパンハートはそんなところに、無償で医療支援を行っています。ボランティアとして参加した医療従事者が、現地での活動内容などを報告します。 長期ボランティア医師(活動地:ミャンマー) 何かを語るというときに一番大事なのは、自分が語る言明の保証人は自分しかいないと覚悟してその上で語る、ということなんだと思う。自分の言明の保証人は自分ひとりでいい。ひとりいれば十分なんだ。その人自身が、体を張って、自分の言葉の真理性を担保する限り、それだけでその言明は一定の、あくまで一定のだけど、真理性を持ちうると僕は思う。「私は自分の言葉に体を張ります」という個人がいる限り、その言葉はそれだけで十分に傾聴に値する。 『沈黙する知性』 ジャパンハートでおよそ2年間働いて、やはりすごいなあ、と感じていることがある。それは、月並みな言い方になってしまうけれど、この団体が継続していることである。この海外医療の現場で長い間働き続けることはなかなか難しい。なぜか? - ボランティアなので無給で働き続けるのが難しい - 他にももっと給料が貰える海外医療の現場はある - 日本の同期の医師たちはいろんな最新の技術を身につけていく - ここでは資格はとれない など、いろいろな誘惑が耳に入ってくるし、想像してしまう。 そして、例えばモバイルミッションに行って日々の農作業で痛めた肩痛や腰痛を訴えて受診する患者を診療しながら、「一体、自分はこんなところで何をやっているんだ」という思いが去来する。 正直に言って、この2年間、特に直近の半年間はそんないろんな思いと何度も向き合い、苦しんだ時間でもあった。国内での講演会も何度も行ったが、この本当に現場で感じていることを言葉にして伝えることはしなかった。目をきらきらさせながら海外医療の現場を聞きに来てくださる人には、なかなか話しづらい内容だから。 そして結局、一番最後に浮かび上がってきたのは、とてもシンプルな問いだった。それは最初から目の前にあり続けた問いでもあった。 それは…… 「本当に、おまえは世界の貧しい人のために自分の実存を賭したいのか?」 というものだった。これは吉岡先生のいう「自分が幸せだからやっている」と同義だろう。 海外医療の現場で働いていると、「そんなところで働いていてすごいですね」とよく言われる。それは率直に嬉しい。でも、他人に「すごいですね」と言われたいがためにやっている自分がほんの少しだけ自分の中に存在していることに気がつく。 長くここで働いてよかったのは、そういう“お為ごかし”な自分と対峙して、「自分はここで働くことで幸せだ」と感じているのか、自分の身体と心に問い続ける時間を十分に持てたことである。この問いと真摯に向き合い続けられたのは本当に有意義な時間であった。 今は、また、新しいプロジェクトを考えている。 自分の人生を費やしても成し遂げる価値があると信じているプロジェクトだ。こうしてまた新しいことに取り組めることは、本当にありがたい。 去年、一番どん底に居た時、日本で一番仲が良い友人がこう言ってくれた。 「止まない雨はないから安心せい」 やっと雨がやんだ。嵐が過ぎ去るのをじっと耐えたからこそ見えてきた風景がある。 今、こうしてミャンマーで、ラオスで、カンボジアで、貧しい患者のために診療できていることに、本当にしみじみと幸せを感じています。 (ジャパンハート 2020年2月7日掲載) ジャパンハートは、ミャンマー、カンボジア、ラオスで長期ボランティアとして活動してくれる医師を募集しています。 オンライン相談会を実施中です。「医療の届かないところに医療を届ける」活動に関心のある方は、ちょっとのぞいてみてください。 〉ジャパンハート オンライン相談会ページ
クラスター発生施設の支援活動を行った看護師がみたリアル
クラスター発生施設の支援活動を行った看護師がみたリアル
発展途上国、日本のへき地離島、大規模災害の被災地……。世の中には「医療の届かないところ」があります。NPOジャパンハートはそんなところに、無償で医療支援を行っています。ボランティアとして参加した医療従事者が、現地での活動内容などを報告します。 日本国内で日々発表される新型コロナの新たな感染者数は減少傾向にあります。しかし、全国各地の医療施設では患者と職員を巻き込んだクラスター(感染者集団)が今も発生しており、医療従事者の手が足りない状況が続いています。クラスターが起こった施設の人手不足を緩和しようと、発展途上国や災害被災地で医療活動を行うNPO法人「ジャパンハート」(東京)は2020年5月から、全国の病院や介護老人福祉施設などに看護師を派遣しています。現地での活動を終えた看護師に、現場の実情や感じたことついて話を聞きました。 (ヒポクラ × マイナビ編集部・金子省吾) 海外支援に参加予定が一転 国内のクラスター発生施設へ 看護師歴20年超の前田百合子さん(大阪府)。これまで内科、脳外科、ICU、外科を経験してきました。長年の夢だった海外での医療活動を実現するために、ジャパンハートが主催している「国際看護師研修」のプログラムに応募。2020年11月に 6人のチームでカンボジアへ渡る予定でした。しかし、新型コロナの流行により状況は一変しました。2班に分かれ、時期をずらして現地へ向かうことになったのです。後発組はクラスターが発生した全国各地の医療施設などで支援活動をした後に渡航することに。「国内が大変なことになっている状況で自分の夢を優先させていいのだろうか。渡航は延期して現場の手助けに回ろう」と自ら志願し、支援に参加することを決めました。 20年10月末~21年2月上旬にかけて、沖縄県、青森県、北海道、大阪府の医療・福祉施設6カ所に派遣され、それぞれ5~14日間、活動しました。最初に訪れたのは沖縄県石垣市のかりゆし病院。看護師としての経験は豊富ですが、新型コロナ患者に関わる現場は初めてだったため、緊張を感じながら臨んだといいます。その後に訪れた病院を含め、主な業務は、入院した感染患者の食事の手伝いや定期的な検温、点滴や床ずれの処置などで、派遣先の施設が管理するシフトに従い、夜勤にも入りました。新型コロナで入院する患者のほとんどは高齢者で、普通に話したり歌を歌っていたりした人が、翌日急激に悪化するという特徴があったといいます。 ギリギリのスタッフ数で、かろうじて運営している施設も多かったそう。そのため、体を拭いたり着替えさせたりといった身の回りの世話までは手が回らなかったといいます。「最小限の仕事」しかできず、「クラスターが発生するとこんなにもいっぱいいっぱいになってしまうのかと、深刻さを実感した」と振り返ります。 看護師がさらされる恐怖と、人手不足の原因 患者と密に接する看護師は特に感染リスクが高いといえます。前田さんも「自分の身は自分で守る」という自覚を持って対策を取っていましたが、感染の恐れを常に感じながらの活動だったといいます。実際に体調を崩したこともあり、検査結果は陰性でしたが、肝を冷やしたそうです。 感染リスクとは別に看護師が恐れているのが、「差別」や「風評被害」だといいます。クラスターが発生した施設で働いていると知られると、あからさまに周囲からの風当たりが強くなるとのことで、人手不足の原因の一端はそこにあるそうです。とある病院では、欠勤している看護師40人のうち20人は自身の感染が理由で、残りの20人は自己都合による欠勤でした。家族や自分の生活を守るために、職場に出てくることができないのです。 「自分の家だけ回覧板を飛ばされた」「家族が職場の人から、出てこないでくれと言われた」「幼稚園の職員から、子どもを預けないでくれと言われた」という話を聞いたといいます。クラスターが発生した病院にはタクシーを呼んでも来てくれない、その病院の関係者だと乗車拒否されるということもあるそう。家を出てホテルで暮らしながら働いている人も多くいるといい、「辞めたい」と嘆く看護師も目にしました。「悪いことをしているわけではないのに、どうしてこんなに働きにくくなってしまうのか。なんでうまくいかないんだろう……」。今までに経験したことのないジレンマでした。 状況は徐々に緩和傾向にあるが… 看護師として感じたもどかしさ 5カ所での支援活動を経て最後に訪れたのは、高齢者福祉施設。ここでも看護師として初めて抱く葛藤があったといいます。訪れた施設では、症状が急変した場合に積極的治療をしないという条件で入所している人も少なくなかったそうです。看護師としては、支援に入る以上どうにかして治療してあげたいと思うのが当然。しかし、重症患者を泣く泣くみとることしかできないこともあったといいます。 また、一つの施設に対する支援活動には期限があります。そのため、酸素投与や点滴などの処置ができるのは、その限られた期間だけ。福祉施設のスタッフだけでは医療行為を行えません。患者を残したまま去ることになった場合、後のことを考えるとやり切れませんでした。さらに、どんなに助けたいという思いがあったとしても、地域の病院にベッドの空きがなくて入院させられず、満足な治療ができないということもあったといいます。そんな状況に歯がゆさを覚えたまま、支援活動は終わりました。 昨年10月末から今年2月まで、新型コロナの対応に苦しむ医療現場で働いてきました。地域差はあるにせよ、一時期のどうしようもないほどにひっ迫した状況は収まりつつあるのではないかと感じているそうです。しかし、クラスターが終息した医療施設には、その後も大きな課題が残ると指摘します。差別や風評被害から心に傷を負って働けなくなった人や、家族や自分の生活を守るために職場を変えざるを得なかった人など、かなりの数の看護師が離職しており、人員不足は続いているそうです。これから途上国の支援に参加する前田さん。日本国内であっても、地域や施設による格差から助けられない患者がいることや、最前線で戦う看護師たちの嘆きや葛藤が、胸に深く刻まれました。 ジャパンハートは、ミャンマー、カンボジア、ラオスで長期ボランティアとして活動してくれる医師を募集しています。 オンライン相談会を実施中です。「医療の届かないところに医療を届ける」活動に関心のある方は、ちょっとのぞいてみてください。 〉ジャパンハート オンライン相談会ページ
#03 必要な経験だと心から思ったなら『一歩を踏み出すこと』。そこからです。
#03 必要な経験だと心から思ったなら『一歩を踏み出すこと』。そこからです。
発展途上国、日本のへき地離島、大規模災害の被災地……。世の中には「医療の届かないところ」があります。NPOジャパンハートはそんなところに、無償で医療支援を行っています。ボランティアとして参加した医療従事者が、現地での活動内容などを報告します。 - 専門科(経験科):家庭医 / 救急 / 総合診療 - 医師歴:6年目(2018年4月現在) - ジャパンハートでの活動期間:2018年4月~2019年3月 - 活動地:カンボジア ウドン(拠点)、ラオス パークグム & ウドムサイ、インドネシア スラウェシ島 ─ 活動地での業務内容・役割を教えてください。 カンボジアウドンにあるジャパンハート子ども医療センターでは成人患者さんの診療も行っています。 僕の役割は主に成人病棟に於ける外来患者さん、入院患者さんの診療、カンボジア人医師の教育(と言いましても、僕自身わからないことも多く、共に学び合う同僚という感覚でした。)、院長不在時の成人病棟のマネージメント全般(診療マニュアル作りや他スタッフとの調整など)でした。時に手術の際に麻酔医や助手の役割を担ったりということもありました。 その他、これはそこにいる誰もが担うことですが、ガーゼなどの診療に必要な物品を作ったりという様なことも行いました。現場で必要なことに関しては、基本的に自分にできることはやる!できないこともその場で学んでやる!という感じでした!また、院外での市民、学生向けのBLS講習や他施設の見学、他国への派遣(ラオスでの短期の外来診療、インドネシアへの災害救護支援など)もありました。 他、個人的にクラウドファンディングに挑戦して、オリジナル手洗いソングを制作し(こちらから聞けます!)、地域の子ども達への衛生教育を目的とした手洗いイベントを開催したり、カンボジアという国についてもっと知るために、『Cambodia Meetup』という異業種交流会を後半半年で毎月開催したり、カンボジア全土でBLSの認知度を上げるために、アニメーション制作会社と連携して、カンボジアオリジナルのBLSに関するアニメーションを制作したり、自分の課題意識に対して、解決するために何ができるかを考えながら、色々な活動を行いました。もちろん限られた時間の中で課題解決までには至りませんでしたが、院内で手洗い習慣を築けたり、今後の自分自身の活動にもつながりました。 ─ ジャパンハートで活動を始めた理由を教えてください。 きっかけは実にシンプルで、2017年3月にとある飲み会の場で『一回、途上国に行ってみたら良いと思うよ!』とある先生から言って頂いた事でした。 その瞬間『今行かなければいけない!』という想いが溢れたため、その日に行く事を決めました!ジャパンハートを知ったのはその先生がジャパンハート長期ボランティア経験者だったからです!偶然というか必然というか!そこから出発までの準備期間の1年間に色々と考える中で、ボランティアへの参加に期待する様になったことは『日本における”当り前”がない環境で、医師として、人として、患者さんや家族、地域、その国のために自分に何ができるのかを体感したい』『経済的な格差=命の格差となる状況がどういう状況なのか、自分自身で体感してみたい』という2つのことでした。 ─ 参加までのハードルや解決すべき課題など(仕事・お金・家族の説得など) 1番のハードルは『一歩を踏み出すこと』だと思います。もちろん、お金の面や仕事の面、家族の説得もとても大切です。僕の場合、既婚なのですが、妻に決意を述べたところ2秒で了承してくれるという恵まれた環境ではありましたが。仕事は辞めて、無給で参加しました。それでも、参加してしまえば何とかなります。 言語なども含め、不安を上げ始めればきりがないですし、その準備ができるのを待っていると、時間は刻一刻と過ぎてしまい、結局、行けなかったということになります。自分の今後にとって必要な経験だと心から思ったならば、事前準備以上に後先考えずに一歩を踏み出すということが一番大切かもしれません。 ─ 言語・価値観・が違う現地の方々、また駐在している日本の医療者との活動で困ったこと、また工夫などありましたら教えてください。 僕の場合は、人間関係で困ったのは現地スタッフよりも駐在している日本人スタッフとだった様に思います。 困ったと言うよりも僕自身の非であり反省点です。理解しているつもりでしたが、どこかで同じ日本人だから同じ価値観や課題意識を持っていると思い込んでしまい、また、1年という限られた時間に焦りを覚え、自分の課題意識や想いを一方的に押しつける様な事をしてしまいました。自分よりも長く滞在して、本当の意味で現地に貢献すべく日々奮闘している先輩達に対してです。 結果、現場の空気を乱してしまいました。関係性を再構築するためにスタッフ一人一人との『コミュニケーション』をより意識的に行いました。それを通して、現場の課題やニーズ、スタッフ一人一人の想いなどを知る事ができ、自分がどうあるべきなのかが見えた様に思います。 その経験から何をするでも現場の『ニーズ』をまず第一に大切にしないと、それは独り善がりなことであり、現場にとって迷惑でしかないことになり得るという事を理解しました。『自分』ではなく、『相手』を第一に考える事がとても大切であり、それは、途上国支援だけでなく、国内における活動に於いても言える事だと思います。この経験も僕にとって大きな学びとなりました。 カンボジア人スタッフとはそもそも宗教や言語、価値観も違い、わからない事だらけだという前提で心がけていたので、初めからコミュニケーションを密にとることを意識していました。わからないことはきちんと聞く。そうするとみんなとても親切に教えてくれます。それを通して信頼関係も築いて行けたと思います。その中でも特に価値観や環境という部分での違いに関しては、たとえそれが日本ではありえない事であったとしても、自分たちの価値観を押し付けるのではなく、現地の考えを受け入れる、そこに順応する事を意識しました。 もちろん良くできる部分は一緒に良くできるように働きかけますが、あくまでも『自分たちは今、日本ではなく、カンボジアにいる』という事を意識しました。もう1つ言うなら、自分たちは一時的にそこにいるだけの異国の人間であり、今後、カンボジアに直接的に貢献していくのはカンボジア人スタッフであり、継続的な支援のためにも、自分の利益の為に、カンボジア人スタッフの機会を奪う様なことはしないと言う事を意識しました。 僕が自分1人で好き勝手に診療するだけでは、自分がいなくなった後に、同じ質の医療を維持することは難しくなります。なので、必ず、カンボジア人医師と一緒にというのを意識しました。実際には、それも初めての事で上手く行ったり上手くいかなかったりで反省するところが多いのですが。 ─ 現地で医療をする楽しみはなんですか? 『人』を専門とする身としては 1. 日本では経験できない様な疾患、状態の患者さんの診療ができること 2. 限られた人材しかいないため、専門に関係なく、全ての患者さんを診療できること 3. 限られた資源の中での診療となるため、自分の五感やアイデアを駆使して診療を行うことが求められること(アイデアに限界はない。) 4. 日本とは全く違う環境で暮らしている人々を相手にするため、日本の地域医療以上に社会背景や価値観を意識した全人的な医療提供が求められること 5. 様々な価値観を持ったスタッフと一緒に活動ができること が、途上国診療を経験する上での醍醐味だった様に感じます。 途上国での医療は究極の地域医療でした。 ─ 活動地での忘れられないエピソードがあれば教えてください。 1年という期間での経験は、とても多彩で色濃く、忘れられないエピソードは挙げ始めればきりがないのですが、強いて一つ選ぶとしたら、カンボジアという国で1人の患者さんを病院で看取った経験です。 カンボジアでは宗教柄か、人々の間で病院で死ぬことが良しとされない様です。病院で亡くなってしまった場合、ご遺体を自宅へ連れて帰ると、死者を村や家に招き入れたと考えられ、不吉なこととされるそうです。その為、多くの患者さんや家族が、治療を行なっても助かる見込みがないのであれば、生きてる内に自宅に連れて帰りたいと希望されます。その為、治療できる可能性がまだゼロでなくても、治療を途中で止めて、自宅に帰るのを見送らなければいけないことも沢山ありました。それは赤ちゃんからおじいちゃん、おばあちゃんまで例外なくです。 医療者としては、もっと当院で治療できたのではないか、もう少し続けていたら良くなったかもしれない、などといった想いはどうしても残ってしまいます。 帰宅を見送る時はいつも力及ばず、申し訳ない気持ちでいっぱいになります。 しかし、何よりも患者さん、そして家族の「価値観」を優先すべきでありその見定めの時期は逃さない様にしないといけないと思っています。そんな中、僕たちの病院で最期の時まで診て欲しいと言ってくれた患者さんが1人だけいました。 その女性は37歳という若さでこの世を去りました。 元々プノンペンの大きな病院で原因不明の重症慢性心不全で治療を受けていた彼女ですが、経済的に治療費を払えなくなり、治療中断となってしまいました。 ある時、呼吸状態が悪くなったため、僕たちの病院を訪れました。その時点で、全身状態が良くないのはもちろんですが、それ以上に精神的にも疲弊していました。医療に対しても不信感が募っていたと思います。スタッフの献身的なケアの甲斐あって、順調に回復、退院することができました。 その後も、定期的に外来通院してくださり、その度にお礼にと、たくさんの物を病院に持ってきてくださいました。いつも笑顔いっぱいで受診してくれる彼女に、僕の方が癒されていました。一時は落ち着いている様に思われた彼女でしたが、ある日急変し、緊急受診されました。ただ、厳しい状態であることは間違いなく、医療資源、マンパワーの乏しい僕たちの病院では対応が難しい状態でした。大きな病院への転院または最後を自宅で過ごしたいという希望がある場合には早い時点での自宅への帰宅を本人と旦那さんに提案させて頂きました。しかし、彼女、そして家族の希望は「ここで最期まで診て欲しい。ここにいたい。」ということでした。 カンボジアでの価値観を理解しているからこそ、医療者としてどれ程光栄なことか、その言葉の意味するところを強く感じました。 その日の夜に、僕と夜勤看護師さんの目の前で彼女は息を引き取りました。 側で眠っていた家族に声をかけ、2018年7月9日04時55分。彼女の最後の時を見届けさせて頂きました。旦那さんの許可を頂き、スタッフ10数名でお葬式に参列させて頂きました。 お葬式は自宅で催されました。実際にご家庭を見せて頂くことで、家族の生活の様子が脳裏に浮かび、お葬式の間中、想いに耽っていました。僕にとってもスタッフにとってもとても特別な経験で、それぞれ色んな想いに耽ていたことだと思います。葬式の間中、終始嬉しそうに笑顔を見せてくれる旦那さんの顔から、スタッフが如何に献身的なケアを行っていたかということが伝わってきました。 その後も、一部のスタッフからは「もっとこうしてたら」という後悔の相談がありました。僕自身、「もっと」を言い出すとキリがないくらい悔やむところはあります。 それでも、お金がなく、生活も厳しい彼女と彼女の家族の「最後までここで診て欲しい」その想いを叶えることができたのは、一つ誇っていいことなのではないかとも感じています。そして、選択肢がないからということもありますが、最後には医療者に委ねず、自分たちで生き方を決めるカンボジアの方々を間近でみていて、最後に大切なのはやはり家族なんだなと日々感じています。(「選択肢があれば医療に縋るが選択肢がない」と、あるカンボジア人の方が教えてくれました。)この方も場所は病院でしたが、最後までずっと家族がそばにいました。そこに「正しい」「正しくない」はないのですが、日本も昔はこういう文化があったのかなー。と、少し寂しくなる時があります。 色々なことが「選択できてしまう」環境にいるからこそ、「何が自分たちにとってより大切なもの」なのか、一人一人が責任を持って選択することが必要となっている気がします。そこに医療者への信頼があって、自分たちで選択して「最後を迎える場所は家族と共にここ(病院)がいい」と言ってくれるのであれば、医療者としてこんなに嬉しいことはありません。色んな意味で感慨深い忘れられない経験となりました。 ─ 帰国後はどのような活動をされていますか? 帰国後に関しては、僕の場合は少し特殊かもしれません。僕はジャパンハートに入る以前から、医師としての病院での診療と特定非営利活動法人の代表としての活動の二足のわらじを持っていました。 医師としての働きどころも正直なところ、準備はしていなかったですが、元々いた地域の病院あるいは法人の拠点がある九州の地域で、受け入れてくれるであろう場所があり、あまりそこに不安がなかったのが正直なところです。もちろん可能であれば、帰国後に帰る場所もある程度準備しておくに越した事はないとは思いますが、カンボジアでの経験を活かせる場所は日本国内でも沢山ありますし、ジャパンハートに参加した後に、働く場所に困ったという話は今の所聞いた事がないため、あまり心配しなくてもいいのではないかなとも思います。途上国での医療に触れる事で、自分自身の価値観も変わり、結局準備していたけど、そのまま現地に残ったり、全く違う道を進み始める人もいるので。 帰国後の僕は、東京都の元々いた地域にあるクリニックで、一般外来・在宅診療を含めた地域医療に携りつつ、カンボジアにいる間中断していた、総合診療専門医後期研修を再開し、専門医を修得するべく日々励んでいます。また、特定非営利活動法人の活動として、北九州市を中心に社会福祉法人さんとの医福連携事業、北九州市との官民連携事業、教育機関との連携事業などを通して、北九州市で暮らす人たちと共に、みんなで支え合う地域医療の実現を目指して、様々な活動を行っています。近い将来、僕自身も北九州市に戻って、北九州市で地域医療に従事していこうと思っていますので、その準備も行っています。 また、カンボジアでの1年間の経験をお話する機会を頂き、色々なところで講演会をさせてもらっています。講演会は色々な人に途上国の現状を知ってもらって、関心を持ってもらうだけでなく、伝える事を通して、僕の中でも1年間の経験が整理され、自分のものになっていくのを実感でき、とてもありがたい機会となっています。貴重な経験をさせてもらったからこそ、沢山の人にそれを共有することも僕の役割だと感じています。 その他、現在も2-3ヶ月に1回カンボジアを訪れて、現地調査を行っています。6月にもプノンペンを中心に訪問看護・訪問介護事業を独自に展開しているカンボジア人看護師さんに、患者さん宅訪問に同行させて頂きました。異国間の交流は、各々の国を客観視することで、互いの国をより知る事につながると感じています。これからも定期的にカンボジアを訪れながら、日本-カンボジアの両国で互いに学び合える交流ができるような仕組み作りを行っていけたらと思っています。その中で、外にいるからこそできることを模索しつつ、ジャパンハートの活動にも貢献できる様なことをしていきたいと思っています。 ─ 今後の参加者へのアドバイスと、参加を迷われている方へ一言お願いします。 参加者へのアドバイスとしては、異国のために何かをしようとか、支援をしようとか考える必要はないです。というよりも、1年間いても何もできなかったというのが正直な感想です。それでも、カンボジアの人たちは僕から何かを感じてくれましたし、僕自身は本当にたくさんのことを学ばせて頂きました。お互いに交流を通して学び合う。それでいいんだと思います。一方通行の支援なんてありえないというのが、この1年間で僕が学んだことの1つです。 また、今、参加を迷われている方は、直感的に『行った方がいい!』『行きたい!』って思えたのであれば、ぜひ色々悩む前に一歩を踏み出してみて下さい。違ったら途中で帰国すればいいんです。やる前に悩んでても何もわかりません。やってみてはじめて見える景色があります。 もちろん、行く前に色々準備をする期間も必要です。半年から1年くらい必要かもしれません。だからこそ、それ以前に悩んでいたら結局行けなかったというようなことになりかねません。『半年後、1年後から行く!』と決めて、明日から具体的に準備を始めましょう。そうしてカンボジアへ行った1人としてこれだけは言えます。行ってよかったと思えることはあっても、後悔することは絶対にありません。 (ジャパンハート 2019年7月23 日掲載) ジャパンハートは、ミャンマー、カンボジア、ラオスで長期ボランティアとして活動してくれる医師を募集しています。 オンライン相談会を実施中です。「医療の届かないところに医療を届ける」活動に関心のある方は、ちょっとのぞいてみてください。 〉ジャパンハート オンライン相談会ページ
急性冠症候群に用いるチカグレロル単剤療法とチカグレロル+アスピリン併用療法が大出血および心血管イベントにもたらす効果 TICO無作為化臨床試験
急性冠症候群に用いるチカグレロル単剤療法とチカグレロル+アスピリン併用療法が大出血および心血管イベントにもたらす効果 TICO無作為化臨床試験
Effect of Ticagrelor Monotherapy vs Ticagrelor With Aspirin on Major Bleeding and Cardiovascular Events in Patients With Acute Coronary Syndrome: The TICO Randomized Clinical Trial JAMA. 2020 Jun 16;323(23):2407-2416. doi: 10.1001/jama.2020.7580. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【重要性】短期間の抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)後のアスピリン投与中止が、出血抑制戦略として評価されている。しかし、チカグレロル単剤療法の戦略は、急性冠症候群(ACS)患者に対象を限定して評価されていない。 【目的】薬剤溶出性ステントで治療したACS患者で、3カ月間のDAPT後にチカグレロル単剤療法に切り替えることによってチカグレロル主体の12カ月間のDAPTより純有害臨床事象が減少するかと明らかにすること。 【デザイン、設定および参加者】韓国の38施設で、2015年8月から2018年10月にかけて、薬剤溶出性ステントで治療したACS患者3056例を対象に、多施設共同無作為化試験を実施した。2019年10月に追跡が終了した。 【介入】患者を3カ月間のチカグレロルとアスピリンを用いたDAPT後にチカグレロル単剤療法(1日2回90mg)へ切り替えるグループ(1527例)とチカグレロル主体の12カ月間のDAPTを実施するグループ(1529例)に割り付けた。 【主要評価項目】主要評価項目は、1年後の純臨床有害事象とし、大出血および有害心脳血管イベントの複合(死亡、心筋梗塞、ステント血栓症、脳卒中、標的病変の血行再建術のいずれか)と定義した。重大な有害心脳血管イベントを事前に副次評価項目に規定した。 【結果】無作為化した3056例[平均年齢61歳、女性628例(20%)、ST上昇型心筋梗塞36%]のうち2978例(97.4%)が試験を完遂した。主要評価項目は、3カ月間のDAPT後チカグレロル単剤療法への切り替え群の59例(3.9%)、チカグレロル主体の12カ月間のDAPT群の89例(5.9%)に発生した(絶対差-1.98%[95%CI 3.50~-0.45%]、ハザード比[HR]0.66[95%CI 0.48~0.92]、P=0.01)。事前に副次評価項目に規定した10項目中8項目に有意差が見られなかった。3カ月間のDAPT後チカグレロル単剤療法への切り替え群の1.7%、チカグレロル主体の12カ月間のDAPT群の3.0%に大出血が発生した(HR 0.56[0.34~0.91]、P=0.02)。重大な有害心脳血管イベントの発生率には、3カ月間のDAPT後チカグレロル単剤療法への切り替え群(2.3%)とチカグレロル主体の12カ月間のDAPT群(3.4%)に有意な差が見られなかった(HR 0.69[95%CI 0.45~1.06]、P=0.09)。 【結論および意義】薬剤溶出性ステントで治療した急性冠症候群で、3カ月間のDAPT後のチカグレロル単剤療法への切り替えによって、チカグレロル主体の12カ月間のDAPTよりも、1年時の大出血および有害心脳血管イベントの複合転帰が控えめだが統計的に有意に減少した。この試験で検討した患者集団および予想されるイベント発生率がこれより低い患者には、この試験で検討した治療を検討すべきである。 第一人者の医師による解説 ACS患者に新世代 DESを留置した後のDAPT期間は3カ月で良い 前村 浩二 長崎大学大学院医歯薬学総合研究科循環器内科学教授 MMJ. February 2021;17(1):20 冠動脈にステントを留置した後には、ステント内血栓症を防ぐために一定期間、抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)を行う必要があり、通常アスピリンとP2Y12受容体拮抗薬を使用する。第1世代の薬剤溶出性ステント(DES)では留置後長期間経ってもステントが内膜に覆われず血栓を形成することがあったため、DES留置後は1年間、可能ならさらに長期間DAPTを継続することが推奨された。その後DESは改良され、第2、3世代のDESではステント血栓症は少なくなったため、DAPT期間を短縮できるとする報告が相次いでいる。 本研究は、DES留置を受けた急性冠症候群(ACS)患者に、チカグレロルとアスピリンによるDAPTを3カ月行った後に、チカグレロル単剤群とDAPT12カ月群で全臨床的有害事象を比較した試験である。その結果、1年以内の大出血と心血管イベントの複合ではチカグレロル単剤群が3.9%、12カ月DAPT群が5.9%であり単剤群の方が優れていた。この試験では新世代の極薄型ストラット生体吸収性ポリマーDESを用いたことがDAPT期間の短縮に寄与したと考えられる。また、DAPT後にアスピリン単剤でなくチカグレロル単剤にしたことも、DAPT期間短縮に寄与した可能性が高い。チカグレロルはP2Y12受容体を直接阻害するため、効果発現までの時間が短く、欧米ではACS患者に多く使用されている。しかし日本人を多く含む研究であるPHILO試験において、チカグレロルはクロピドグレルに比べ、統計学的有意差はないものの、大出血や心血管イベントが多い傾向にあった(1)。そのため日本ではクロピドグレルまたはプラスグレルが多く使用され、チカグレロルはこれらが使用できない場合のみ適応とされている。クロピドグレルを用いた試験としては、日本でDAPT1カ月+クロピドグレル単剤投与とDAPT12カ月を比較したSTOPDAPT-2試験が行われ、DAPT1カ月群の優越性が示された(2)。現在ACS患者を対象としたSTOPDAPT-2ACS試験が進行中である。 このようにDAPT期間を短縮できるという報告が相次いでいるため、日本のガイドラインが最近更新された。2020年の日本循環器学会「冠動脈疾患患者における抗血栓療法ガイドライン」フォーカスアップデート版では、ACS患者は血栓リスクが高いと考えられるため、出血リスクが低い場合のDAPT期間は3~12カ月を推奨しているが、高出血リスク患者では1~3カ月を推奨している。このようにDESの改良によりDAPT期間は以前より短くなり、個々の患者の出血リスクと血栓リスクを勘案して決定することになる。 1. Goto S, et al. Circ J. 2015;79(11):2452-2460. 2. Watanabe H, et al. JAMA. 2019;321(24):2414-2427.
敗血症ショックの臓器障害にもたらすアスコルビン酸、副腎皮質およびチアミンの効果 ACTS無作為化比較試験
敗血症ショックの臓器障害にもたらすアスコルビン酸、副腎皮質およびチアミンの効果 ACTS無作為化比較試験
Effect of Ascorbic Acid, Corticosteroids, and Thiamine on Organ Injury in Septic Shock: The ACTS Randomized Clinical Trial JAMA. 2020 Aug 18;324(7):642-650. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【重要性】アスコルビン酸、副腎皮質ステロイドおよびチアミンの併用は、敗血症ショックの有望な治療法として考えられている。 【目的】アスコルビン酸、副腎皮質ステロイドおよびチアミンの併用によって敗血症ショックの臓器障害を改善するかを明らかにするため。 【デザイン、設定および参加者】成人敗血症ショック患者に用いるアスコルビン酸、副腎皮質ステロイドおよびチアミンの併用をプラセボと比較した多施設共同無作為化盲検比較試験。2018年2月9日から2019年10月27日にかけて、米国の14施設で205例を組み入れた。2019年11月29日まで追跡した。 【介入】被験者を非経口アスコルビン酸(1500mg)、ヒドロコルチゾン(50mg)およびチアミン(100mg)6時間に1回、4日間投与するグループ(103例)と同じタイミングでマッチさせた用量のプラセボを投与するグループ(102例)に無作為に割り付けた。 【主要評価項目】主要評価項目は、登録時と72時間後のSOFAスコア(範囲0~24点、0点が最も良好)の変化量とした。腎不全および30日死亡率を重要な副次評価項目とした。試験薬を1回以上投与した患者を解析対象とした。 【結果】無作為化した205例(平均年齢68[SD 15]歳、女性90例[44%])のうち200例(98%)に試験薬を1回以上投与し、全例が試験を完遂し、解析対象とした(介入群101例、プラセボ群99例)。全体で、登録後72時間にわたるSOFAスコアの変化を見ると、時間と治療群の間に有意差は見られなかった(平均SOFAスコア変化:介入群9.1点から4.4点[-4.7点] vs プラセボ群9.2点から5.1点[-4.1点]、調整平均差-0.8、95%CI -1.7~0.2点、交互作用のP=0.12)。腎不全発生率(介入群31.7%vs プラセボ群27.3%、調整リスク差0.03、95%CI -0.1~0.2点、P=0.58)や30日死亡率(34.7%vs 29.3%、ハザード比1.3、95%CI 0.8-2.2、P=0.26)にも有意差は見られなかった。よく見られた銃独な有害事象は、高血糖(介入群12例、プラセボ群7例)、高ナトリウム血症(それぞれ11例と7例)、新規院内感染症(それぞれ13例と12例)であった。 【結論および意義】敗血症ショックで、アスコルビン酸、副腎皮質ステロイドおよびチアミンの併用による登録後72時間のSOFAスコア低下量はプラセボと有意差が見られなかった。このデータからは、敗血症ショック患者にこの併用療法のルーチンの使用は支持されない。 第一人者の医師による解説 ACTS試験:注目のMetabolic resuscitation療法 またも期待外れ 西田 修 藤田医科大学医学部麻酔・侵襲制御医学講座主任教授 MMJ. February 2021;17(1):25 2016年、敗血症の定義と診断基準が変更された(1)。「感染症に対する制御不能な宿主反応に起因する生命を脅かす臓器障害」と定義され、「全身性炎症」として評価する従来の診断基準から、「臓器障害そのものの進展」に重きを置いた診断基準に変更されている。 救命率は向上してきているものの、依然として致死率は高く、最近の全世界的な調査によると、すべての死亡原因の約20%は敗血症関連といわれている。敗血症は一刻を争う治療が必要とされるが、感染巣のコントロール・過不足のない輸液・昇圧薬の適正使用と人工呼吸管理などのライフサポートが主体であり劇的な改善をもたらす治療法はない。このような中で、細胞の機能を改善し組織障害を防ぐ手立てとして、“metabolic resuscitation”の考えが近年注目され、ステロイド(Hydrocortisone)、ビタミンC(Ascorbic acid)、ビタミンB1(Thiamine)の併用療法(HAT療法)が試みられるようになった。また、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)でもアスコルビン酸は補助療法として提唱されている。2017年に発表された後ろ向き前後比較研究(2)では、敗血症・敗血症ショック患者の院内死亡率が31.9%(40.4→8.5%)低下、昇圧薬使?期間が約3分の1に短縮という治療成績を示した。これを検証するための無作為化対照試験(RCT)が複数実施され、その結果が最近報告されてきているが、いずれも期待したほどの効果はみられていない。本論文で報告された大規模なACTS試験もその1つで、成人の敗血症性ショック患者200人をアスコルビン酸(1,500mg)、ヒドロコルチゾン(50mg)およびチアミン(100mg)を6時間ごとに4日間静注する群もしくはプラセボ群に割り付け、治療効果を比較した。主要評価項目は、各臓器の障害の程度を示すSequential Organ Failure Assessment(SOFA)スコアの変化(入室時と72時間後の比較)としている。両群の患者背景に差はなかった。SOFAスコアの変化において両群間に有意差はなく、副次評価項目の30日死亡率、腎機能障害などでも有意差はなかった。循環改善効果として、shock free daysに有意差を認めているが、差は1日である。ヒドロコルチゾン単独群を対照としたRCT(3)では循環改善効果が示されなかったことから、ACTS試験における差はヒドロコルチゾンの効果であると推定できる。最頻度の有害事象として高血糖と高ナトリウム血症を認めている。 今回のACTS試験ならびに他のRCTの結果を総合的に考えると、HAT療法はルーチンで用いるべきものではなく、効果は限定的であると考えられる。 1. Singer M, et al. JAMA. 2016;315(8):801-810. 2. Marik PE, et al. Chest. 2017;151(6):1229-1238. 3. Fujii T, et al. JAMA. 2020;323(5):423-431.
喘息患者の医療利用を減らしQOLを改善する自己管理介入 系統的レビューおよびネットワークメタ解析
喘息患者の医療利用を減らしQOLを改善する自己管理介入 系統的レビューおよびネットワークメタ解析
Self-management interventions to reduce healthcare use and improve quality of life among patients with asthma: systematic review and network meta-analysis BMJ. 2020 Aug 18;370:m2521. doi: 10.1136/bmj.m2521. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【目的】3通りの自己管理モデル(集学的個別管理、定期的支援および最小支援)と自己監視モデルを通常治療および教育を比較し、喘息の医療資源利用を減らしQOLを改善するのに最も効果的な方法を明らかにすること。 【デザイン】系統的レビューおよびメタ解析。 【データ入手元】2000年1月から2019年4月までのMedline、Cochrane Library、CINAHL、EconLit、Embase、Health Economics Evaluations Database、NHS Economic Evaluation Database、PsycINFおよびClinicalTrials.gov。 【レビュー方法】喘息の自己管理方法数種類を検討した無作為化比較試験。主要評価項目は、医療資源の利用(入院または救急外来受診)およびQOLとした。ランダム効果を用いたベイズネットワークメタ解析から、標準化平均差(SMD)の要約および95%信頼区間を推定した。異質性および出版バイアスを評価した。 【結果】文献1178件から、計2万7767を検討した試験105試験を解析対象とした。医療資源利用の観点からみると、集学的個別管理(SMD -0.18、95%CI -0.32~-0.05)および定期的支援がある自己管理(-0.30、-0.46~-0.15)が通常治療より有意に良好だった。QOLは、定期的支援がある自己管理のみが、通常治療と比較して統計的有意な便益が示された(SMD 0.54、0.11~0.96)。思春期の小児・小児(5~18歳)を検討した試験で、定期的支援がある自己管理のみが有意な便益を示した(医療資源の利用:SMD -0.21、-0.40~-0.03、QOL:0.23、0.03~0.48)。集学的個別管理(SMD -0.32、 -0.50~-0.16)および定期的支援がある自己管理(-0.32、-0.53~-0.11)が、試験開始時に重度の喘息症状がある患者の医療資源利用削減効果が最も高かった。 【結論】このネットワークメタ解析から、定期的支援がある自己管理で、喘息の重症度に関係なく医療資源の利用率が低下し、QOLが改善することが示唆された。今後、医療に投資することで、計2時間以上の支援を提供し患者の自己管理能力を養い、複雑な疾患がある患者の集学的個別管理を可能にすべきである。 第一人者の医師による解説 支援濃度の目安やリモート支援も可能な点が示され 実地臨床に有益 松本 久子 京都大学大学院医学研究科呼吸器内科学准教授 MMJ. February 2021;17(1):18 喘息は世界で3.3億人以上が罹患し、年間25万人が喘息死する(1)など、社会経済上大きな負荷となる疾患である。吸入ステロイド薬の定期吸入により、喘息死は減少したものの、世界的にみると喘息の影響はいまだ大きい。喘息のより良いケアには、患者に喘息の知識を与えるだけでは不十分であり、患者の自己管理を促す介入が推奨されてきた。この介入の概要は「知識・手技の習得や精神的・社会的資源の支援、患者教育・指導により、患者自身が健康状態を自己管理できるようにすること」(2)である。しかし具体的にどの程度の支援が有用かなどのエビデンスはこれまでなかった。 本研究では、3種類の自己管理モデル(集学的個別管理[主に対面式]、定期的支援、最小支援)やセルフモニタリングモデル(症状やピークフロー値のモニタリングなど。悪化時の自己対処の指導は含まない)を通常ケアと比較し、どのモデルが最も医療資源の使用(入院または救急受診)を減らし、喘息患者の生活の質(QOL)を改善させるかを解析した。定期的支援とは、喘息の状態や治療内容の聞き取り・見直しのための医療者による定期的なコンサルト(計2時間以上)であり、最小支援とは2時間未満の支援である。Medlineなど9つのデータソースをもとに、2000年以降の自己管理モデルに関する無作為化対照試験について系統的レビューとベイジアンネットワークメタ解析を行った。1,178本の論文から105試験(27,767人、介入期間中央値8カ月)が解析された結果、医療資源使用については、集学的個別管理(標準化平均差-0.18;95 % CI,-0.32~-0.05)と定期的支援(-0.30;-0.46~-0.15)で通常ケアよりも有意に抑制されていた。QOLは定期的支援(0.54;0.11~0.96)のみが通常ケアよりも良好であった。小児・思春期例の検討では、医療資源使用、QOLとも定期的支援のみが有用であった。重症喘息例の医療資源使用抑制には、集学的個別管理と定期的支援が最も有用であった。 喘息自己管理についての最大規模のメタ解析である本研究から、医療者からの定期的支援により自己管理が促されれば、重症度を問わず喘息増悪による医療資源の使用を抑制でき、患者QOLの改善につながる可能性が示された。必要な支援濃度の目安が示された点、またリモートでも可能な支援であることが示され、実地臨床に有益な情報と考えられる。 1. Masoli M, et al. Allergy. 2004;59(5):469-478. 2. Wilson SR, et al. J Allergy Clin Immunol. 2012;129(3 Suppl):S88-123.
デンマーク人女性の4価ヒトパピローマウイルスワクチン接種と自律神経機能障害の関連 住民対象自己対照症例集積解析
デンマーク人女性の4価ヒトパピローマウイルスワクチン接種と自律神経機能障害の関連 住民対象自己対照症例集積解析
Association between quadrivalent human papillomavirus vaccination and selected syndromes with autonomic dysfunction in Danish females: population based, self-controlled, case series analysis BMJ. 2020 Sep 2;370:m2930. doi: 10.1136/bmj.m2930. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【目的】4価ヒトパピローマウイルスワクチンと慢性疲労症候群、複合性局所疼痛症候群および体位性頻脈症候群などの自律神経機能障害を伴う症候群の間の関連を評価すること。 【デザイン】住民対象自己対照症例集積。 【設定】デンマークの全国レジストリに記録されたICD-10診断コードを用いて特定したヒトパピローマウイルスワクチン接種および自律神経失調症症候群(慢性疲労症候群、複合性局所疼痛症候群および体位性頻脈症候群)に関する情報。 【参加者】2007年から2016年の間に参加した10~44歳の女性コホート137万5737例のうち自律神経失調症症候群がある女性869例。 【主要評価項目】4価ヒトパピローマウイルスワクチンを接種していない参加者と比較した同ワクチンを接種した女性参加者の慢性疲労症候群、複合性局所疼痛症候群および体位性頻脈症候群の複合転帰の自己対照症例集積率比(95%CI)で年齢および季節で調整した。このほか、二次解析で慢性疲労症候群、複合性局所疼痛症候群および体位性頻脈症候群を個別に検討した。 【結果】追跡期間1058万1902人年で、自律神経失調症症候群女性869例(慢性疲労症候群136例、複合性局所疼痛症候群535例および体位性頻脈症候群198例)を特定した。4価ヒトパピローマウイルスワクチンによって、ワクチン接種後365日のリスク期間中の自律神経機能障害を伴う各症候群の複合転帰発生率(率比0.99、95%CI 0.74~1.32)やリスク期間中の個々の症候群発生率(慢性疲労症候群[0.38、0.13~1.09]、複合性局所疼痛症候群[1.31、0.91~1.90]および体位性頻脈症候群[0.86、0.48~1.54])が有意に上昇することはなかった。 【結論】ワクチン接種導入後、全くの偶然でワクチン関連の有害事象が起こることがあると思われる。一連の結果からは、4価ヒトパピローマウイルスワクチンと慢性疲労症候群、複合性局所疼痛症候群および体位性頻脈症候群の間の因果関係は、個別にみても複合転帰としても支持されない。最大32%のリスク上昇を正式に除外することはできないが、試験の統計的検出力からは、ワクチン接種によって各症候群発生率が上昇する可能性は低いと考えられる。 第一人者の医師による解説 研究期間後期ほど接種後発症が増加 生物学的反応以外の要素を示唆か 上坂 義和 虎の門病院脳神経内科部長 MMJ. February 2021;17(1):27 子宮頸がん予防のためのヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンは大きな成果をあげてきたが、日本のほかにデンマーク、アイルランドなどで慢性疲労症候群、体位性起立性頻拍症候群、複合性局所疼痛症候群などの自律神経失調症候群が接種後有害事象として報告された。これらは散発的な報告で接種との因果関係を示す科学的根拠は乏しかったが、メディアがこぞって取り上げたことで予防接種プログラムは大きく後退した。その後英国、ノルウェー、フィンランド、オランダから上記関連を否定する報告がなされたが、ノルウェー以外は主に2価HPVワクチンでの検討であった。デンマークは国民識別番号制度を持ち医療費はすべて税金でまかなわれるため、詳細な受診情報が外来、入院とも国家レベルで登録されている。本研究ではその登録データを利用し、4価HPVワクチンに関する検討が行われた。 デンマークでは2009年から12歳の女性を対象に国レベルの4価HPVワクチン接種が開始、2012年からは20~27歳の女性に対する予防接種も開始された。本研究では2007~16年にデンマーク生まれの10~44歳の女性を対象とした。結果、137万人以上が対象となり1000万人年以上の検討がされた。52万9千人以上が4価HPVワクチン接種を1回以上受けていた。最終接種から12カ月(3回接種では計18カ月)までをリスク期間とし、自律神経失調症候群発症をその前後期間と比較する自己対照研究デザインによる検討もなされた。自律神経失調症候群は869例でみられた(発症率10万・人年あたり8.21)。このうち433例がHPVワクチン接種例であり、接種後の発症例(309例:12カ月未満72例、12カ月以降237例)は接種前の発症例(124例)よりも多かったが、研究期間の後期になるほどその傾向が顕著であった。また、慢性疲労症候群、体位性起立性頻拍症候群、複合性局所疼痛症候群の合計およびそのいずれか1つの症状をとってもリスク期間中の発症率は対照期間と比較し有意な上昇を認めなかった。最終接種から12カ月以降をリスク期間に含めて検討した場合でも非接種期間に比べ有意な発病率上昇を認めなかった。 本研究を含めてHPVワクチン接種と自律神経失調症候群の関連を検討した研究の結果は接種後の発症率上昇について否定的である。本研究で研究期間後期になるほど接種後発症(接種後50カ月以上、最大100カ月以上)が次第に増加していることは生物学的反応以外の要素が加わっていることを示唆しているように思える。
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