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ステロイド抵抗性急性GVHDに対するルキソリチニブ〜REACH2試験日本人サブグループ解析
ステロイド抵抗性急性GVHDに対するルキソリチニブ〜REACH2試験日本人サブグループ解析
公開日:2024年6月4日 Teshima T, et al. Int J Hematol. 2024 May 25. [Epub ahead of print]  急性移植片対宿主病(GVHD)は、日本および世界における同種造血幹細胞移植後の主な合併症である。標準的な全身ステロイド療法で効果不十分な患者は約3分の1といわれており、日本では第2選択治療が確立されていない。北海道大学の豊嶋 崇徳氏らは、ステロイド抵抗性急性GVHDの日本人患者を含む国際共同第III相REACH2試験の日本人サブグループ解析より、最良の治療(best available therapy:BAT)と比較したルキソリチニブの有効性および安全性を評価した。International Journal of Hematology誌オンライン版2024年5月25日号の報告。  REACH2試験の対象は、日本人30例を含む急性GVHD患者309例。日本人急性GVHD患者の内訳は、ルキソリチニブ群9例、BAT群21例であった。主要エンドポイントは、28日目の全奏効率(ORR)とした。 主な結果は以下のとおり。 ・ルキソリチニブ群でBAT群よりも、28日目(88.9% vs. 52.4%)および56日目(66.7% vs. 28.6%)のORRが高かった。 ・6ヵ月時点での治療反応喪失の推定累計発生率は、ルキソリチニブ群で12.5%、BAT群で18.2%であった。 ・ルキソリチニブ群は、BAT群と比較し、無増悪生存期間中央値が長かった(2.73ヵ月 vs. 1.25ヵ月)。 ・ルキソリチニブ群とBAT群で28日目までに最も多く認められた有害事象は、貧血(各々、55.6% vs. 19.0%)、血小板減少症(44.4% vs. 4.8%)であった。  著者らは「日本人サブグループ解析において、ルキソリチニブはBATと比較し、良好な有効性アウトカムを有し、安全性プロファイルも一貫しており、これらの結果は全体的な研究結果と一致していた」としている。 (エクスメディオ 鷹野 敦夫) 原著論文はこちら Teshima T, et al. Int J Hematol. 2024 May 25. [Epub ahead of print]▶https://hpcr.jp/app/article/abstract/pubmed/38796666 血液内科 Pro(血液内科医限定)へ ※「血液内科 Pro」は血液内科医専門のサービスとなっております。他診療科の先生は引き続き「知見共有」をご利用ください。新規会員登録はこちら
日本人再発・難治性MMに対するエルラナタマブの有効性・安全性〜MagnetisMM-2,3日本人サブグループ解析
日本人再発・難治性MMに対するエルラナタマブの有効性・安全性〜MagnetisMM-2,3日本人サブグループ解析
公開日:2024年6月3日 Iida S, et al. Jpn J Clin Oncol. 2024 May 24. [Epub ahead of print]  近年、多発性骨髄腫(MM)に対する治療成績は、大きく改善したものの、いまだ多くの患者は再発を経験し、複数の治療ラインを繰り返しており、再発・難治性MM患者のアンメットニーズが浮き彫りとなっている。新たに再発・難治性MMの治療薬として日本でも承認された二重特性性抗体に対する期待は高まっている。名古屋市立大学の飯田 真介氏らは、日本人再発・難治性MMに対する二重特性抗体エルラナタマブの有効性および安全性について、報告を行った。Japanese Journal of Clinical Oncology誌オンライン版2024年5月24日号の報告。  再発・難治性MMに対するエルラナタマブの国内第I相試験(MagnetisMM-2試験)および国際共同第II相試験(MagnetisMM-3試験)においてエルラナタマブ単剤療法を行った日本人患者を分析した。免疫調節薬、プロテアソーム阻害薬、抗CD38モノクローナル抗体製剤の3クラスの薬剤でそれぞれ少なくとも1剤ずつに抵抗性を示した患者または疾患が進行した患者を対象に、エルラナタマブのプライミング投与を行い、その後週1回皮下投与を行った。主要エンドポイントは、MagnetisMM-2試験では用量制限毒性(DLT)、MagnetisMM-3試験では確定奏効率(confirmed ORR)であった。いずれの試験においても、副次的エンドポイントには、安全性、忍容性、奏効期間、奏効までの期間、無増悪生存期間、全生存期間が含まれた。 主な結果は以下のとおり。 ・対象患者数は、MagnetisMM-2試験より4例(年齢中央値:68.5歳)、MagnetisMM-3試験より12例(年齢中央値:66.5歳)。 ・MagnetisMM-2試験では、DLTは観察されなかった。 ・ORRは、MagnetisMM-2試験で50.0%(95%CI:6.8〜93.2)、MagnetisMM-3試験で58.3%(95%CI:27.7〜84.8)であった。 ・すべての患者において有害事象が認められた。グレード3/4発生率は、MagnetisMM-2試験で75.0%、MagnetisMM-3試験で100.0%であり、サイトカイン放出症候群(CRS)の発生率は、MagnetisMM-2試験で100.0%(グレード3/4:25.0%)、MagnetisMM-3試験で58.3%(グレード3/4:0%)であった。 ・いずれの研究においても、免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群(ICANS)は認められなかった。  著者らは「本検討より、新たな安全性に対する懸念は認められず、ORRもMagnetisMM-3試験の結果と類似していたことから、日本人再発・難治性MMに対するエルラナタマブの有効性・安全性が確認された」としている。 (エクスメディオ 鷹野 敦夫) 原著論文はこちら Iida S, et al. Jpn J Clin Oncol. 2024 May 24. [Epub ahead of print]▶https://hpcr.jp/app/article/abstract/pubmed/38794892 血液内科 Pro(血液内科医限定)へ ※「血液内科 Pro」は血液内科医専門のサービスとなっております。他診療科の先生は引き続き「知見共有」をご利用ください。新規会員登録はこちら
未治療MCLに対するアカラブルチニブ+ベネトクラクス+リツキシマブの2年間の安全性および有効性
未治療MCLに対するアカラブルチニブ+ベネトクラクス+リツキシマブの2年間の安全性および有効性
公開日:2024年5月31日 Wang ML, et al. Blood Adv. 2024 May 23. [Epub ahead of print]  米国・テキサス大学のMichael L. Wang氏らは、未治療のマントル細胞リンパ腫(MCL)に対するアカラブルチニブ+ベネトクラクス+リツキシマブの安全性および有効性を評価するため、第Ib相試験を実施した。Blood Advances誌オンライン版2024年5月23日号の報告。  疾患の進行または毒性が発現するまで、アカラブルチニブ(1〜24サイクル)、リツキシマブ(1〜6サイクル+24サイクルまで隔サイクル)、ベネトクラクス(2〜24サイクル)を投与した。 主な結果は以下のとおり。 ・21例が登録された。6サイクルが完了した患者は95.2%、アカラブルチニブによる維持療法を継続した患者は47.6%であった。 ・グレード3、4の有害事象は61.9%(13例)に見られた。最も多い有害事象は好中球減少症(33.3%)であった。 ・COVID-19感染患者は7例(33.3%)であった(重篤な有害事象:6例、死亡:5例、すべてワクチン未接種)。 ・グレード3以上の心房細動、心室頻拍、出血、腫瘍崩壊症候群は見られなかった。 ・Lugano基準に基づく全奏効率(ORR)は100%(95%CI:83.9〜100.0)、完全奏功率(CR)は71.4%であった。 ・フォローアップ期間中央値は27.8ヵ月、無増悪生存期間(PFS)および全生存期間(OS)は、中央値に到達しなかった。 ・1年PFSは90.5%(95%CI:67.0〜97.5)、2年PFSは63.2%(95%CI:34.7〜82.0)であった。COVID-19による死亡を除外すると、いずれも95%であった。 ・1年OSは95.2%(95%CI:70.7〜99.3)、2年OSは75.2%(95%CI:50.3〜88.9)であった。COVID-19による死亡を除外すると、いずれも100%であった。 ・全体として、微小残存病変(MRD)を有する患者の87.5%が、治療中にMRD陰性(次世代シーケンス:10-6)を達成した。  著者らは「アカラブルチニブ+ベネトクラクス+リツキシマブは、未治療MCLに対するケモフリーレジメンであり、高いORRおよびMRD陰性率が期待できる治療である」としている。 (エクスメディオ 鷹野 敦夫) 原著論文はこちら Wang ML, et al. Blood Adv. 2024 May 23. [Epub ahead of print]▶https://hpcr.jp/app/article/abstract/pubmed/38781315 血液内科 Pro(血液内科医限定)へ ※「血液内科 Pro」は血液内科医専門のサービスとなっております。他診療科の先生は引き続き「知見共有」をご利用ください。新規会員登録はこちら
再生不良性貧血患者におけるallo-HSCT前の好中球絶対数の意義
再生不良性貧血患者におけるallo-HSCT前の好中球絶対数の意義
公開日:2024年5月30日 Nakamura Y, et al. Ann Hematol. 2024 May 16. [Epub ahead of print]  同種造血幹細胞移植(allo-HSCT)前の好中球絶対数(ANC)が再生不良性貧血(AA)患者のアウトカムに及ぼす影響は、依然として不明なままである。山口大学の中邑 幸伸氏らは、初回移植としてallo-HSCTを行った成人AA患者を対象に、移植前のANCと患者アウトカムとの関係をレトロスペクティブに評価した。Annals of Hematology誌オンライン版2024年5月16日号の報告。  対象は、2008〜20年に初回移植としてallo-HSCTを行った成人AA患者883例。移植前のANCと患者アウトカムとの関係をレトロスペクティブに評価した。ANCに基づき、0/μL(116例)、1〜199/μL(210例)、200/μL以上(557例)の3群に分類した。 主な結果は以下のとおり。 ・低ANC群(ANC 200/μL未満)では、患者がより高齢、抗胸腺細胞免疫グロブリン(ATG)治療歴が低頻度、診断から移植までが短期間、造血細胞移植特異的併存疾患指数(HCT-CI)が高かった。ATGベースのコンディショニングはあまり使用されず、血縁ドナーからの末梢血幹細胞および臍帯血の頻度が高かった。 ・多変量解析では、5年全生存(OS)率と有意な関連が認められた因子は、患者の年齢、ATG治療歴、HCT-CI、幹細胞ソース、移植前のANCであった。 【ANC 200/μL以上】OS:80.3% 【ANC 1〜199/μL】OS:71.7% 【ANC 0/μL】OS:64.4% ・細菌感染、深在性真菌症、生着前の早期死亡の累積発生率は、低ANC群で有意に高かった。 ・ANC 0/μL群において、OSの向上と有意な関連が認められた因子は、患者がより若年、診断から移植までが短期間、HCT-CIが0、幹細胞ソースが関連ドナーからの骨髄移植であった。  著者らは「allo-HSCT前のANCは、成人AA患者の重要な予後決定因子であることから、移植前にはANCに注意を払う必要がある」としている。 (エクスメディオ 鷹野 敦夫) 原著論文はこちら Nakamura Y, et al. Ann Hematol. 2024 May 16. [Epub ahead of print]▶https://hpcr.jp/app/article/abstract/pubmed/38750374 血液内科 Pro(血液内科医限定)へ ※「血液内科 Pro」は血液内科医専門のサービスとなっております。他診療科の先生は引き続き「知見共有」をご利用ください。新規会員登録はこちら
CAR-T細胞療法に移行したLBCL患者の治療成績
CAR-T細胞療法に移行したLBCL患者の治療成績
公開日:2024年5月29日 Iacoboni G, et al. Hemasphere. 2024; 8: e62.  CAR-T細胞療法を行なった再発・難治性大細胞型B細胞リンパ腫(LBCL)患者の60%は、その後の疾患進行を経験する。CAR-T細胞療法後の標準的な治療法はいまだ明らかではなく、情報不足や不均一性が見られる。スペイン・バルデブロン大学のGloria Iacoboni氏らは、スペインと英国でCAR-T細胞療法後に進行した再発・難治性LBCL患者を対象に分析を行った。HemaSphere誌2024年5月21日号の報告。  対象は、2018年7月〜2022年3月にスペインと英国でCAR-T細胞療法後に進行した再発・難治性LBCL患者387例。 主な結果は以下のとおり。 ・全生存期間(OS)中央値は5.3ヵ月、注入と進行の間隔に応じて有意な差が認められた(2ヵ月未満:1.9ヵ月、2〜6ヵ月:5.2ヵ月、6ヵ月以上:未到達)。 ・進行後、237例(61%)が次の治療へ移行し、全(完全)奏効率、12ヵ月無増悪生存率(PFS)およびOSは以下の通りであった。 ●Pola-BR療法:67%(奏功率:38%、PFS:36.2%、OS:51.0%) ●二重特異性抗体:51%(奏功率:36%、PFS:32.0%、OS:50.1%) ●放射線療法:33%(奏功率:26%、PFS:30.8%、OS:37.5%) ●免疫チェックポイント阻害薬:25%(奏功率:0%、PFS:29.9%、OS:27.8%) ●レナリドマイド:25%(奏功率:14%、PFS:7.3%、OS:20.8%) ●化学療法:25%(奏功率:14%、PFS:6.1%、OS:18.3%) ・同種造血幹細胞移植を行った患者は32例(14%)、フォローアップ期間中央値の15.1ヵ月後にOS中央値に達しなかった。  著者らは「CAR-T細胞療法後、最初の2ヵ月以内に進行した再発・難治性LBCL患者のアウトカムは不良であった。ポラツズマブや二重特異性抗体などの新規標的薬による治療は、CAR-T細胞療法後においても、長期生存率の改善が期待できる」としている。 (エクスメディオ 鷹野 敦夫) 原著論文はこちら Iacoboni G, et al. Hemasphere. 2024; 8: e62.▶https://hpcr.jp/app/article/abstract/pubmed/38774657 血液内科 Pro(血液内科医限定)へ ※「血液内科 Pro」は血液内科医専門のサービスとなっております。他診療科の先生は引き続き「知見共有」をご利用ください。新規会員登録はこちら
オメガ3摂取で筋合成が促されるか? 他4本≫ Journal Check Vol.101(2024年5月30日号)
オメガ3摂取で筋合成が促されるか? 他4本≫ Journal Check Vol.101(2024年5月30日号)
オメガ3摂取で筋合成が促されるか? オメガ3系多価不飽和脂肪酸(n-3 PUFA)摂取が高齢者の筋タンパク質合成(MPS)率に及ぼす影響を検討した文献が増加しているが、その結果はまちまちである。著者らは、健康な成人と臨床集団におけるMPSおよび全身タンパク質合成率に対するn-3 PUFA摂取の効果を調査するために、系統的レビューとメタ解析を行った。Nutrition Reviews誌オンライン版2024年5月23日号の報告。 ≫ヒポクラ論文検索で続きを読む 健康のためにより重視すべきは、時間か歩数か? 米国の現行の身体活動(PA)ガイドラインでは、健康のための中等度〜強度のPA(MVPA)時間を週150分以上と規定している。一方で、歩数に基づく推奨は、エビデンス不十分のため発表されていない。著者らは、1万4,399人の女性を対象に、MVPA時間および歩数と全死因死亡率および心血管疾患との関連を調査した。JAMA Internal Medicine誌オンライン版2024年5月20日号の報告。 ≫ヒポクラ論文検索で続きを読む 魚油サプリメントがマイナスに働いてしまう人は? オメガ3脂肪酸や魚油が心血管疾患リスクに与える影響については議論の余地がある。著者らは、健康な状態(一次段階)から心房細動(二次段階)、主要な心血管系有害事象(三次段階)、死亡(末期段階)までの心血管疾患のさまざまな進行段階における魚油サプリメントの影響を検証するために、前向きコホート研究を行った。BMJ Medicine誌オンライン版2024年5月21日号の報告。 ≫ヒポクラ論文検索で続きを読む 抹茶で歯周病予防!? Porphyromonas gingivalis(以下P.gingivalis)は、歯周組織の炎症や破壊を特徴とする歯周病の進行に関連している。著者らは、アズレン、麦茶と比較した抹茶のP.gingivalisの増殖や歯周ポケットに対する効果について検討した。Microbiology Spectrum誌オンライン版2024年5月21日号の報告。 ≫ヒポクラ論文検索で続きを読む 超加工食品 vs 地中海食/DASH食/MIND食 超加工食品(UPF)は、心代謝性疾患や、認知機能低下や脳卒中などの神経学的転帰と関連しているが、食事パターンと無関係に、UPFが神経学的リスクをもたらすかどうかは明らかではない。著者らは、①UPFと認知障害および脳卒中の発症との関連性 ②これらの関連性と健康的な食事パターン遵守との関係を調査した。Neurology誌オンライン版2024年5月22日号の報告。 ≫ヒポクラ論文検索で続きを読む 知見共有へ アンケート:ご意見箱 ※新規会員登録はこちら ヒポクラ Journal Check Vol.100(2024年5月23日号) アンチエイジングに有効な化粧品の成分は? 他4本 ヒポクラ Journal Check Vol.99(2024年5月16日号) 結局、卵は1日何個までか? 他4本 ヒポクラ Journal Check Vol.98(2024年5月9日号) 筋トレによる筋肥大は、鍛えない筋肉を犠牲にしている? 他4本 ヒポクラ Journal Check Vol.97(2024年5月2日号) 老い知らずの鍵は「アルカリ性」食品!? 他4本 ヒポクラ Journal Check Vol.96(2024年4月25日号) コーヒーが座りっぱなしの悪影響を打ち消す!? 他4本 ヒポクラ Journal Check Vol.95(2024年4月18日号) より効果的な筋トレはどちらか? スプリットルーティーン vs フルボディルーティーン 他4本 ヒポクラ Journal Check Vol.94(2024年4月11日号) 朝食抜きで起こる悪影響は? 他4本 ヒポクラ Journal Check Vol.93(2024年4月4日号) 老化しにくい最適な睡眠時間は? 他4本 ヒポクラ Journal Check Vol.92(2024年3月28日号) 時間がない人に、最も効率的な筋トレは? 他4本 ヒポクラ Journal Check Vol.91(2024年3月21日号) パンダが白黒である理由は? 他4本 ヒポクラ Journal Check Vol.90(2024年3月14日号) ”精製炭水化物”で顔の魅力が低下する!? 他4本 ヒポクラ Journal Check Vol.89(2024年3月7日号) 筋トレ+BCAAによる筋力増加は、食物繊維サプリで促進されるか? 他4本
日本人CML、Ph+ALLに対するポナチニブの市販後調査結果
日本人CML、Ph+ALLに対するポナチニブの市販後調査結果
公開日:2024年5月28日 Takahashi N, et al. Jpn J Clin Oncol. 2024 May 15. [Epub ahead of print]  前治療薬に抵抗性または不耐容の慢性骨髄性白血病(CML)、再発または難治性のフィラデルフィア染色体陽性(Ph+)急性リンパ性白血病(ALL)の治療薬として、2016年に日本で承認されたポナチニブ。秋田大学の高橋 直人氏らは、日本の実臨床におけるポナチニブの安全性および有効性を評価するため、市販後の全例調査の結果を分析した。Japanese journal of Clinical Oncology誌オンライン版2024年5月15日号の報告。  ポナチニブの国内市販後全例調査データを用いて、とくに動脈の血管閉塞性事象の焦点を当て、ポナチニブの安全性および有効性を評価した。 主な結果は以下のとおり。 ・対象は、2年間のポナチニブ投与を行なった患者724例。 ・血管閉塞性事象は、47例(6.49%)で報告され、曝露調整後の発生率は100人年当たり6.8であった。 ・血管閉塞性事象と関連するリスク因子は、年齢および高血圧や糖尿病などの併存疾患であった。 ・104週時点での慢性期CMLにおける分子遺伝学的大奏功(MMR)率は67.2%、Ph+ALLにおける細胞遺伝学的完全奏効(CCyR)率は80.0%であった。 ・1年推定全生存率は、慢性期CMLで98.5%、Ph+ALLで68.6%であった。  著者らは「ポナチニブは、日本人患者に対し良好な安全性および有効性プロファイルを有している」としたうえで「高齢者やアテローム性動脈硬化の因子を有する患者では、血管閉塞性事象をより注意深くモニタリングする必要性がある」とまとめている。 (エクスメディオ 鷹野 敦夫) 原著論文はこちら Takahashi N, et al. Jpn J Clin Oncol. 2024 May 15. [Epub ahead of print]▶https://hpcr.jp/app/article/abstract/pubmed/38747937 血液内科 Pro(血液内科医限定)へ ※「血液内科 Pro」は血液内科医専門のサービスとなっております。他診療科の先生は引き続き「知見共有」をご利用ください。新規会員登録はこちら
DLBCL|某病院の難治性症例の治療選択をケースバイケースで見る/血液内科 Pro
DLBCL|某病院の難治性症例の治療選択をケースバイケースで見る/血液内科 Pro
DLBCLの治療選択に関する症例を紹介します。難治性症例で全身状態が良好な場合、どのように治療を進めていくのが良いでしょうか。症例へのコメントも届いているのでそちらも合わせて紹介します。 DLBCLの治療に向けた治療方法の選択について DLBCLの治療選択について実際の症例を交えて紹介します。 難治性DLBCLの治療選択について 【病型・進行ステージ】 診断名:High Grade B cell lymphoma with MYC and BCL2 translocations 診断時CS:IV(全身のリンパ節腫脹+全身骨) 初診時血液所見:LDH 3313 AST 78 ALT 64 ALP 388 T-Bil 0.7 Cre 1.08 CRP 14.75 WBC 4300 Hb 11.5 Plt 17.7 IL2R 3196【身体所見・治療歴】 R-CHOP×1⇒CTでSD判定 化療中に上記の通りDouble Hit Lymphomaの診断となったためR-DA-EPOCHレジメンを変更した。 R-DA-EPOCH①Lv.1⇒CTでPR判定 R-DA-EPOCH②Lv.1 R-DA-EPOCH③Lv.2(MTX髄注併用) R-DA-EPOCH④Lv.2(MTX髄注併用)⇒CTで新規の腫瘤増大あり、PD判定【相談内容】 R-DA-EPOCHでPDとなったため、化療レジメンの変更を予定しています(R-ESHAPを検討しています)。臨床経過から化療のみでの根治は難しいと思われたため、奏功を深めたタイミングで地固め治療として自家移植あるいはCART療法(2レジメン抵抗性ということで、適応ありと考えております)を検討していますが、いずれの治療を目指していくことがより望ましいでしょうか。ご本人のPSは0で臓器障害なく、全身状態は良好です。PD判定ではあるもののCTからは腫瘍量自体は多くないと思われ、LDH、IL2Rともに正常です。造血も問題ありません。 先生方のご意見を伺いたく投稿させていただきます。 どうぞよろしくお願いします。 DLBCLの症例に集まった他の血液内科医からのコメント コメント者1 経過から化学療法(auto-も含めて)での治癒は困難と推測します。私の施設はCAR-T実施できないのですが、同種も含めて免疫療法にかけるしかないのではないでしょうか。今の時点でCAR-T実施施設に相談することをお勧めします。 »コメント者1への質問者からの返信早々にご意見をいただきありがとうございます。私も経験上、このような経過の症例を自家移植して早々に再発しておりましたのでこの時点でCARTを目指した方が良いのではと考えておりました。 コメント者2 現段階で、R-CHOP、R-EPOCH-Rが類似ではありますが、2回以上の化学療法歴であり、化学療法により完全奏効が得られず(PD)、その点で、自家移植の適応でないとの判断で、CAR-Tの適応との考え方は、妥当な範疇と考えます。しかし、最終的には、CAR-Tの適応は、ライン数の解釈や全身状態などを含めた施設判断にはなります。 DHLに対する初期治療、また、再発後の自家移植、同種移植のほとんどのD A TAは、後方視的解析のみでエビデンスも乏しい一方で、CAR-T3製剤(Axi-cel、Tisa-cel、Liso-cel)ともに、臨床試験の際にDHLが含まれており、non-DHLと比べても遜色無い結果が得られておりました。その点でもCAR-T療法に進むのは、適応という意味でも、エビデンスという意味でも、良い判断と考えます。現段階では、保険適応外ですが、難治性、12ヶ月以内の早期再発DHを含むDLBCLに対しての2nd line後の (auto vs CAR-T) 試験でも、Axi-cel、Liso-celは、自家移植を上回る成績であり、本症例のような早期再発し、難治性ある症例に対するCAR-T治療に進む補助的なエビデンスでしょうか。 救援療法に関しましても、治療強度と中枢神経ハイリスクという点で、HDACを含む、R-ESHAPは、良い判断と感じます。DHLは、急激に増悪することも度々経験されるため、近隣のC AR-T施設に適応も含め、早めにご相談され、早めのリンパ球採取が良いかと感じます。 »コメント者2への質問者からの返信大変詳しくご丁寧に回答いただきまして誠にありがとうございます。 おっしゃる通りCHOPとEPOCHが類似レジメンではあるものの、3週ごとのintensive chemotherapy最中のPDであり、化療抵抗性と判断してCART療法を目指す方向を検討しておりました。やはり、直近の論文のデータからもこのような症例に対してはより早いlineでのCART療法が望ましいでしょうか。 当院の関連病院でCART療法を実施している施設がありますので、RESHAP療法を導入しつつ、最短でのアフェレーシスのスケジュールを計画していこうと思います。 このようなご意見をいただげまして心強く思います。お忙しい中お返事をいただき心より感謝申し上げます。 そのほかのDLBCL症例を血液内科 Proで見る 上記で紹介した以外にも「血液内科 Pro」にはDLBCLの様々な症例が集まっています。どれも実際に医療施設で発生した事例です。 血液内科 Proに会員登録をしていただくと、症例とコメントの全文をご確認いただけます。 会員登録はこちらから ①再発・形質転換DLBCL早期再発の症例https://hpcr.jp/app/pro/hematology/post/To8dhHsVVB ②DLBCL自家移植後の再発またはIgG4関連疾患の70歳代前半男性の方針相談https://hpcr.jp/app/pro/hematology/post/ysVAnxkVQx ③皮膚原発大細胞型B細胞リンパ腫 第3再発期 CAR-Tの適応についてhttps://hpcr.jp/app/pro/hematology/post/Hfk1fDEMG4 ④COVID-19を罹患した再発悪性リンパ腫https://hpcr.jp/app/pro/hematology/post/0zYuSqLesD ⑤肝硬変合併のDLBCLhttps://hpcr.jp/app/pro/hematology/post/1LIXDYwaQg ⑥FL→DLBCL transformの治療についてご相談です。https://hpcr.jp/app/pro/hematology/post/zk6ESSTlJz ⑦意識障害あり全身状態不良のCD5陽性DLBCL症例のレジメン相談https://hpcr.jp/app/pro/hematology/post/BOdNFHW8Tm ⑧80歳以上のDLBCLの治療は?https://hpcr.jp/app/pro/hematology/post/hNjgBHrnIa ⑨先生のご施設ではR-CHOP療法の投与量どうしてますか? 76歳女性DLBCLhttps://hpcr.jp/app/pro/hematology/post/FVeeaDHHCq ⑩DLBCL患者における繰り返すCDIに対するベズロトクスマブhttps://hpcr.jp/app/pro/hematology/post/XNhhAKoZOu 血液内科 Proに登録すると無料で症例閲覧、相談などができるようになる DLBCLの治療選択の症例について紹介しました。難治性のDLBCLや再発などでお困りでしたら、血液内科 Proで相談してみませんか? 血液内科 Proは全国の血液内科医約1200名が集まり、臨床相談や素朴な疑問、論文の共有などを行なう場です。血液内科医であれば無料で利用できます。 また、血液内科以外の相談もできる「ヒポクラ」もご利用いただけます。ぜひ、ご登録ください! 会員登録すると上記のサービスのほか、「時短日本語論文検索」「専門医に1対1で相談できるコンサルト(一部診療科のみ)」等のサービスを全て無料で利用できるようになります。 会員登録はこちらから ※登録時、診療科は「血液内科」をお選びください ※医師専用サービスです ※本サービスは予告なく変更または終了する場合がございますので、あらかじめご了承ください。
既存治療で効果不十分なPNH患者に対するペグセタコプランの有用性
既存治療で効果不十分なPNH患者に対するペグセタコプランの有用性
公開日:2024年5月27日 Mulherin BP, et al. Drugs R D. 2024 May 10. [Epub ahead of print]  米国・Hematology Oncology of IndianaのBrian P. Mulherin氏らは、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)に対するペグセタコプランの有効性および安全性を評価した2つの第III相臨床試験(PEGASUS試験、PRINCE試験)におけるヘモグロビン値、乳酸脱水素酵素(LDH)、疲労の正常化の測定を行った。Drugs in R&D誌オンライン版2024年5月10日号の報告。  対象は、PEGASUS試験よりエクリズマブ治療を3ヵ月以上実施したにもかかわらずPNHおよびヘモグロビン値が10.5g/dL未満の患者、PRINCE試験より補体(C5)阻害薬未使用で支持療法のみを行っているがヘモグロビン値が正常下限未満であった患者。血液学的および疲労正常化に関するエンドポイントは、輸血なしのヘモグロビン値の正常下限値(女性:12g/dL、男性:13.6g/dL)以上、LDH226U/L以下、慢性疾患患者の疲労評価(FACIT-Fatigue)スコア43.6以上(一般集団基準)とした。安全性は、重篤度および重症度の標準化された用語、定義を用いて、研究者により評価した。 主な結果は以下のとおり。 ・ペグセタコプラン治療によりヘモグロビン値が正常化した患者の割合は、PEGASUS試験の16週目(ランダム化コントロール期間)で34.1%(41例中14例)であり(エクリズマブ治療患者:0%[39例中0例])、PRINCE試験の26週目で45.7%(35例中16例)であった(支持療法患者:0%[18例中0例])。 ・PEGASUS試験の48週目(非盲検期間)にヘモグロビン値が正常化した患者の割合は、ペグセタコプラン治療患者で24.4%、16週目以降にエクリズマブからペグセタコプランへ切り替えた患者で30.8%であった。 ・PEGASUS試験におけるLDH正常化率は、16週目でペグセタコプラン治療患者70.7%、エクリズマブ治療患者15.4%、48週目でペグセタコプラン治療患者56.1%、エクリズマブからペグセタコプラン切り替え患者51.3%であった。 ・PRINCE試験におけるLDH正常化率は、26週目でペグセタコプラン治療患者67.5%であった。 ・PEGASUS試験におけるFACIT-Fatigueスコア正常化率は、16週目でペグセタコプラン治療患者48.8%、エクリズマブ治療患者10.3%、48週目でペグセタコプラン治療患者34.1%、エクリズマブからペグセタコプラン切り替え患者51.3%であった。 ・PRINCE試験におけるFACIT-Fatigueスコア正常化率は、26週目でペグセタコプラン治療患者68.6%、支持療法患者11.1%であった。 ・ペグセタコプランは、安全性・忍容性が良好であった。 ・ペグセタコプランの最も一般的な有害事象である注射部位反応は、ほとんどが軽度であり、発生率はPEGASUS試験(ランダム化コントロール期間)で36.6%、PRINCE試験で30.4%であった。  著者らは「エクリズマブ治療を3ヵ月以上行っているにもかかわらずPNHおよび貧血が持続する患者やC5阻害薬未使用で支持療法のみを行っている患者では、ペグセタコプラン治療によりヘモグロビン、LDH、疲労スコアの正常化が期待できるであろう」としている。 (エクスメディオ 鷹野 敦夫) 原著論文はこちら Mulherin BP, et al. Drugs R D. 2024 May 10. [Epub ahead of print]▶https://hpcr.jp/app/article/abstract/pubmed/38727860 血液内科 Pro(血液内科医限定)へ ※「血液内科 Pro」は血液内科医専門のサービスとなっております。他診療科の先生は引き続き「知見共有」をご利用ください。新規会員登録はこちら
日本人血液悪性腫瘍患者に対する局所管理ハイドロゲル創傷被覆・保護材の有効性
日本人血液悪性腫瘍患者に対する局所管理ハイドロゲル創傷被覆・保護材の有効性
公開日:2024年5月24日 Fukutani T, et al. BMC Oral Health. 2024; 24: 522.  エピシル®︎は口腔内病変の被覆および保護を目的とする非吸収性の液状機器である。いくつかの研究において、頭頸部がん患者に対する有効性が報告されているが、血液悪性腫瘍患者への使用に関する報告はほとんどない。広島大学の福谷 多恵子氏らは、急性骨髄性白血病(AML)、悪性リンパ腫、急性リンパ性白血病(ALL)、多発性骨髄腫(MM)、骨髄異形成症候群(MDS)患者における口腔粘膜の治療に対するエピシル®︎の有効性を評価するため、本研究を実施した。BMC Oral Health誌2024年5月3日号の報告。  対象は、2018年5月〜2019年3月に広島赤十字・原爆病院で口腔粘膜の治療のためにエピシル®︎を使用したAML、悪性リンパ腫、ALL、MM、MDS患者37例。口腔粘膜炎の重症度を評価するため、37例中22例にインタビューを実施した。有害事象の客観的な評価には、有害事象共通用語規準(CTCAE)v3.0を用いた。口腔粘膜炎の影響を主観的に評価するため、独自の評価プロトコルを用いた。 主な結果は以下のとおり。 ・37例中31例(84%)は、エピシル®︎の使用が「非常に良い」または「良い」と回答した。 ・さらに、22例中7例(19%)では、エピシル®︎使用後に粘膜炎の重症度の軽減が認められた。とくに複数の部位に粘膜炎を有する患者で顕著であった。 ・患者評価では、疼痛の軽減、言語機能の改善、摂食機能の改善が報告された。 ・粘膜炎がグレード3以上の患者は、グレード2の患者と比較し、疼痛、言語機能、摂食機能のより大きな改善が報告された。  著者らは「血液悪性腫瘍患者、とくに複数の部位に口内粘膜炎を有する患者に対する口腔粘膜炎の治療におけるエピシル®︎の有効性が示唆された。エピシル®︎は、疼痛の軽減に加え、言語機能や摂食機能も改善する可能性がある」としている。 (エクスメディオ 鷹野 敦夫) 原著論文はこちら Fukutani T, et al. BMC Oral Health. 2024; 24: 522.▶https://hpcr.jp/app/article/abstract/pubmed/38698387 血液内科 Pro(血液内科医限定)へ ※「血液内科 Pro」は血液内科医専門のサービスとなっております。他診療科の先生は引き続き「知見共有」をご利用ください。新規会員登録はこちら
「国民からの脳神経内科への期待」と「医師からの多様な働き方への希望」の双方に応える良医育成の取り組み【北里大学医学部脳神経内科学】
「国民からの脳神経内科への期待」と「医師からの多様な働き方への希望」の双方に応える良医育成の取り組み【北里大学医学部脳神経内科学】
【北里大学医学部脳神経内科学の先生方】左から、永井俊行 助教、中村幹昭 助教、西山和利 主任教授、北村英二 准教授、井島大輔 助教。 北里大学病院外観(同院提供)開 設:1971 年所在地:神奈川県相模原市南区北里 1-15-1病院長:髙相晶士 北里大学病院は、主に慢性期の医療を専門とする「東病院」と急性期を専門とする「本院」の 2 院体制だったところ、2020 年に「東病院」の機能が「本院」に移転・統合され、1,135床(2023 年 4 月 1 日現在)の病床数で慢性期から急性期までを扱う地域医療の拠点となっている。 このように幅広い疾患の患者さんに対応する北里大学の環境は「時代に即した脳神経内科医の育成において 1 つのモデルケースを提示しうる」と、北里大学医学部脳神経内科学主任教授であり、2022 年から日本神経学会代表理事を務める西山和利先生は語る。 本記事では西山先生と同教室の先生方に、国民の健康福祉に貢献するこれからの脳神経内科医像や、その充足に向けた北里大学のお取り組みについてお話しいただいた。取材日・場所/ 2023 年 11 月 16 日・北里大学病院 脳神経疾患の医療ニーズが高まっている 西山本日は脳神経内科の現状やこれからの専門医育成について、当教室の取り組みも交え、頭痛が専門の北村先生、脳卒中が専門の井島先生、神経免疫疾患が専門の中村先生、てんかんが専門の永井先生と一緒にお話ししていきたいと思います。北里大学医学部脳神経内科学 主任教授西山和利 北村 近年、大学病院でもクリニックでも、社会の超高齢化に伴い認知症・神経変性疾患などが増えている 1)ことを肌身で感じます。患者さんから「パーキンソン病と診断されてから誰にも診てもらえず、ようやく先生にたどりつきました」と言われるようなケースもしばしば。医療ニーズに対して、脳神経内科医の供給が追いついていないようです。 井島 脳卒中も、血管内治療や t-PA 療法のような内科的治療が登場してきている一方で、その技術をもった脳神経内科医は限られるのが現状です。まだまだ救える患者さんがいるはずなのです。 中村 神経免疫疾患も、専門の脳神経内科医がもっといれば…という気持ちです。症状が「倦怠感」や「愁訴」と扱われ診断がつかない患者さんもまだ多くおられますし、多発性硬化症や視神経脊髄炎等、この数年で治療選択肢の増えた疾患もあるなかで、専門医の役割が大きくなっています。 永井 てんかんも、従来は主に小児科・精神科・脳神経外科で診られていたところ、最近では成人で神経変性疾患に起因するもの等、脳神経内科への紹介が必要なケースが増えているようです。 北村 頭痛のような若年領域の疾患にも、大きなアンメットニーズが存在しますね。片頭痛だけで日本に 800〜 1,000 万人の患者さんがいるとされるなか、専門家による医療を受けられるケースは半数にも達しません 2)。 中村 若年女性の患者さんが多い神経免疫疾患では、妊娠・出産を考慮した治療を行える専門医の育成も急務になってきています。 西山 いまのお話からも、老若男女問わず、脳神経内科に対する国民の医療ニーズはこれからも高まると予想できますね。ところが、いま日本神経学会に所属しているいわゆる脳神経内科医は約 9,800 名 3)で、日本脳神経外科学会の約 10,500 名 4)や日本精神神経学会の約 20,000名5)と較べても少ないのが現状です。参考として、米国では脳神経内科医が脳神経外科医の約 2.5 倍6)います。日本神経学会としては、国民の皆さまに適切な医療を提供するため、日本においても少なくともいまの 2 倍の脳神経内科医が必要だと考えています。 多様なキャリアパスの魅力を発信し、脳神経内科医の充足を実現したい 西山 では、どうすれば脳神経内科医を充足できるか。 日本神経学会代表理事としては、まず脳神経内科医像のアップデートが必要だと考えています。  従来の脳神経内科医のイメージは「難しい診断学に熟達し、難病を中心にいかなる患者さんにも対応する医師」という、若い先生方にとって敷居の高いものではなかったでしょうか。たしかに、神経内科専門医(日本神経学会認定)を取得するうえで、脳神経疾患全般をある程度診られるだけの知識は求められます。ですが昨今、難病だけでなく、脳卒中・てんかん・頭痛・認知症といったコモンディジーズの診療、あるいは在宅医療など、専門医の取得後は個々人の興味にフォーカスを絞りながらキャリアアップしていく、新しい働き方が広がってきていますよね。 永井 選択肢が多く、一人ひとりの生き方・働き方にあった居場所をみつけやすいのは、本当に脳神経内科の魅力だと思います。私の場合、急性期に強い内科医への憧れが、脳波やてんかんを中心にキャリアを積むことで実現できつつあります。北里大学医学部脳神経内科学 助教永井俊行 西山 急性期に興味がある方なら、米国で「ニューロ・インテンシビスト」とよばれるような集中治療専門の脳神経内科医も日本では人材不足であり、将来性のある選択肢だと思われます。 北村 西山先生のお話にあった頭痛 1 つとっても、都市部であれば専門クリニックで開業が可能と言われます。専門を軸に自分のペースで働きたい方にも、脳神経内科は向いているはずです。 井島 脳卒中の血管内治療の専門医も、循環器内科と違いまだ成り手が多くないため、都市部・地方を問わず求められている人材です。デバイスが進歩し、手先の器用さがあまり問題にならなくなってきたことも相まって、将来性のある選択肢だと思います。 北村 在宅医療も、難病で寝たきりの患者さんの全身管理を得意とする脳神経内科医が、強みを発揮できる領域ですね。 西山 いま若い先生方に総合診療も人気ですが、脳神経内科のバックグラウンドをもつ総合診療医は、全身も脳も診られるため現場で大変に重宝されるようです。 中村 脳神経内科は新しい治療が続々と登場する変革期にありますので、研究に興味がある方にとっても、自身がその変化に携われるかもしれない、魅力ある領域ではないでしょうか。 私の親の世代では、脳神経内科は「わからない・治らない・諦めないの 3 ない(第三内科)だ」と言われていたそうですが、もはや過去の話だと感じます。北里大学医学部脳神経内科学 助教中村幹昭 西山 先人たちの何十年にもわたる「諦めない」努力が、いま結実しつつありますね。今後、米国で進められている希少疾患に対する核酸医薬を用いた個別化治療7)のような取り組みが日本で行われるようになると、そこでの脳神経内科の役割も大きいと考えられています。こうした新しい働き方を学会をあげて周知・サポートすることで、より多様な人材が活躍する脳神経内科へと飛躍していきたいと考えています。 Column脳神経内科医向きの人材西山 「脳神経内科は難しい、だから成績優秀な人しかなれない」と言われることもありますが、いま実際に活躍している先生方に共通なのは「興味」と「情熱」だけですよね。成績はまったく関係ない。 井島 野球でもピッチャーとキャッチャーでまったく適性が違うように、脳神経内科もそれくらい多様なポジションがある領域ですからね。「野球したい」という気持ちさえあれば野球ができるのと一緒です。 西山 脳に興味があると脳神経外科や精神科も選択肢に入ると思いますが、「労働時間にある程度融通をきかせたい」「分子レベルで病態を理解したい」「自分で患者さんを診て、論理的に診断をつけるのが好き」といった方には、脳神経内科をおすすめできそうです。 永井 血液検査で一発診断というのではなくて、患者さんをじっくり診ながら病巣診断していくプロセスは、間違いなく脳神経内科の魅力ですね。 中村 そして、脳神経内科には「諦めない」人が多いですよね。難渋例ほど何かできないか、常に考えている。そういう意識を仲間と共有しながら仕事したい人には、よい環境だと思います。 あらゆる専門家が互いを尊重し成長できる環境づくり〜「北里モデル」の実践① 西山 難病の患者さんに優しい心で寄り添い、治療を開発するというキャリアは、脳神経内科の王道であり続けると思います。一方で前述のように、これからはコモンディジーズの得意な脳神経内科医も求められています。 では、コモンディジーズに興味をもってくださった若い先生方のキャリアパスを整えるには、どうすればよいでしょうか。第一に、教育・研修に携わる側の医師が、慢性期から急性期まで、またレアな疾患からコモンな疾患まで、幅広い疾患に興味をもつ環境が重要だと思われます。日本神経学会としても、あらゆるキャリアが尊重され、互いの専門性を活かし合うコミュニティを目指しているところです。まずは当教室で実践し、その成果を「北里モデル」として全国に発信していくことで、脳神経内科の認知度の向上やリクルートにすこしでもお役に立てればと願っています。実際に当教室での研修を選び、学んできた先生方は、どのようにお感じでしょうか? 井島 私はもともと急性期医療、特に脳卒中に携わりたかったのですが、研修中に脳神経疾患の診断学全般にも興味をもったことが、脳神経内科に入局する決め手になりました。 西山 一般に、脳卒中を専門にすると時間的な拘束が厳しくなりがちで、他の疾患はまったく診る機会のない先生もいると聞き及びますが、井島先生はいかがですか。 井島 当教室では、外来でそれ以外の患者さんを担当する機会の方が多いくらいです。脳卒中から難病まで、幅広い知識と経験を得られる環境にやりがいを感じています。 永井 私は内科志望だったのですが、診断のつかない患者さんの話を聞き、診察し、病巣を考えて…という脳神経内科のプロセスが、「自分のなりたかった医者らしい医者だな」と感じ、入局を決めました。その後、前述のようにてんかんと出会い、国内留学もさせていただいて、専門医の道が拓けてきています。たくさんの症例を診られ、わからないことは専門の先生に聞けて、自分が専門のことは他の先生に情報提供することでまた学びを得られる、切磋琢磨できる職場です。 北村 私は内科研修でふれた難病の全人的医療に感銘を受け、当教室を選びました。「わからないことだらけ」という印象もあったのですが、裏を返せば「一生学び続けられるだろう」という魅力を感じたのも一因です。 入局後、当時の教授だった坂井文彦先生と、出向先で出会った今井昇先生の薫陶を受け、頭痛を専門とするようになりました。頭痛という、一般に興味の対象とされにくい機能性疾患について、世界的な臨床・研究が行われてきた当教室ならではのキャリアだと思います。北里大学医学部脳神経内科学 准教授北村英二 中村 私は臨床実習で教えていただいた症候学が本当におもしろく、当教室 1 択に心が決まりました。その後、新しい治療法が登場し「治らなかった患者さんが治るようになる」という実感を得られる喜びから、神経免疫疾患を専門とするに至りました。はじめて難病のインフォームド・コンセントに同席した時の「どうにかこの疾患を治したい」という気持ちをモチベーションに、研究にも従事しています。 西山 やはり選択肢の豊富な教育・診療環境は、「脳神経内科医になる」という選択やキャリアにポジティブに働きそうですね。 ワーク・ファミリー・バランスと臨床経験を両立させる環境づくり〜「北里モデル」の実践② 西山 「北里モデル」のもう 1 つの側面として、多様な働き方の実現の観点から、ワーク・ライフ・バランス /ワーク・ファミリー・バランスを重視した組織づくりを行っています。 井島 医師の働き方改革が進むいま、卒後 7 年目の神経内科専門医取得までの限られた時間で、必要な知識をいかに効率よく身につけるかは切実な問題です。専攻医研修プログラムでは、3 年間のうち 1 年間は外部施設への出向が必要なため、当教室で研修可能な 2 年間でいかに多くの症例を診られるかが鍵になってきます。そこで有効なのが、当教室の特徴であるチーム制です。チームは3 つあり、外来・病棟すべての患者さんの情報を共有しながら、屋根瓦方式で診療と教育を行っていきます。北里大学医学部脳神経内科学 助教井島大輔 西山 主治医制だと専攻医が担当できる症例数は限られるわけですが、チーム制であれば、8:30 〜 17:00 の業務時間でもたくさんの症例を経験できるわけですね。 中村 大学院で基礎研究メインの生活を送ってからまた臨床に戻った際も、効率よく技術を取り戻すことができました。 井島 チーム制は、当学では脳神経内科が最初に導入したシステムで、病棟医も各チーム 2 〜 3 人いるため、当直明けは基本的に帰宅できる、休暇も当番制で取得できるといったメリットもあります。 西山 当教室では産休・育休も、性別を問わず希望どおり取得できていますね。 井島 チーム制の他に、効率的な成長を促すシステムとして、チーフレジデント制があります。専攻医研修プログラムの修了後には必ず、チーフレジデントとしてすべての入院患者さんのマネジメントを担当する制度です。 西山 責任ある立場は人を育てます。皆さん卒後 6 年目にして、どのような症例にも物怖じしないだけの臨床力を身につけていただいています。 永井 それぞれのチームに各疾患の専門医がバランスよく割り振られていて、興味ある領域については、早い段階で専門医から直接修練を受けられるようになっているのも、嬉しいシステムだと感じていました。 井島 実際、脳卒中に興味があれば 3 年目の先生でも血管内治療に参加していただけるような、臨機応変なプログラムになっていますね。まさに多様なキャリアの希望に応える体制です。 西山 特に、開業したり市中病院で働いたりする計画の先生には、できるだけキャリアの助けになる専門医資格も取得していただきたいと考えています。 北村 神経内科専門医は必須として、脳卒中専門医(日本脳卒中学会認定)、頭痛専門医(日本頭痛学会認定)、認知症専門医(日本認知症学会認定)をもっていれば脳神経内科医として困らないと言われます。当教室でも、これらを取得する先生は多いです。 中村 「◯◯専門医をとりたいなら△△病院での研修が必要」といったケースも全国的にはあると聞きますが、当学は自施設だけで受験要件を満たす環境が整っているのは、若手にとってありがたいことです。 西山 話に出た脳卒中、頭痛、認知症にてんかん専門医(日本てんかん学会認定)を加えた 4 大コモンディジーズ、他にも臨床遺伝専門医(人類遺伝学会認定)、臨床神経生理専門医(日本臨床神経生理学会認定)、脳神経血管内治療専門医(日本脳神経血管内治療学会認定)、リハビリテーション科専門医(日本リハビリテーション医学会認定)等も当学だけで受験資格を満たせます。「良医」であるためには、まず生活の基盤がしっかりしていなければなりません。若い先生方の生活やキャリアを第一に医局を運営すること。それが、当学の目標である「良医」の育成につながると信じています。そして、当学で培った経験をもとに、日本神経学会の代表理事として、本邦の脳神経内科領域全体の発展に注力していきたいと考えています。(了) 参考文献 1)厚生労働省:令和 2 年 患者調査 傷病分類編(傷病別年次推移表) https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kanja/10syoubyo/dl/r02syobyo.pdf (2024 年 1 月 26 日閲覧) 2)Sakai F & Igarashi H:Prevalence of migraine in Japan : a nationwidesurvey. Cephalalgia, 17:15-22, 1997 3)日本医学会:日本医学会分科会一覧 No.53 日本神経学会 https://jams.med.or.jp/members-s/53.html (2023 年 12 月 1 日閲覧) 4)日本医学会:日本医学会分科会一覧 No.47 日本脳神経外科学会 https://jams.med.or.jp/members-s/47.html (2023 年 12 月 1 日閲覧) 5)日本医学会:日本医学会分科会一覧 No.23 日本精神神経学会 https://jams.med.or.jp/members-s/23.html (2023 年 12 月 1 日閲覧) 6)AAMC:Physician Specialty Data Report: Active Physicians in the LargestSpecialties by Major Professional Activity, 2021 https://www.aamc.org/data-reports/workforce/data/active-physicians-largest-specialties-majorprofessional-activity-2021 (2023 年 12 月 1 日閲覧) 7)FDA:FDA In Brief: FDA Takes New Steps Aimed at Advancing Development of Individualized Medicines to Treat Genetic Diseases  https://www.fda.gov/news-events/press-announcements/fda-brief-fdatakes-new-steps-aimed-advancing-development-individualized-medicinestreat-genetic (2023 年 12 月 1 日閲覧) MEMO 脳神経内科医育成の「北里モデル」 ◎脳神経内科は多様なキャリアパスが特長であり魅力であるため、あらゆる働き方が尊重され成長できる環境の整備が、人材の充実につながる。 ◎幅広い疾患を効率的に経験できる診療体制の構築が、結果として良医の育成と、国民の健康福祉への貢献につながる。 写真撮影/日向正樹(tsukada.inc) 版権・著作:中外製薬株式会社 medical forum CHUGAI Vol.28-No.1より引用
再発・難治性FL、DLBCLに対するポラツズマブ+ベネトクラクス+坑CD20モノクローナル抗体の有効性・安全性
再発・難治性FL、DLBCLに対するポラツズマブ+ベネトクラクス+坑CD20モノクローナル抗体の有効性・安全性
公開日:2024年5月23日 Yuen S, et al. Am J Hematol. 2024 May 3. [Epub ahead of print]  再発・難治性濾胞性リンパ腫(FL)に対するポラツズマブ ベドチン+ベネトクラクス+オビヌツズマブおよび再発・難治性びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)に対するポラツズマブ ベドチン+ベネトクラクス+リツキシマブの有効性・安全性を評価した非盲検国際多施設共同非ランダム化第Ib/II相試験が行われた。その結果について、オーストラリア・Calvary Mater Newcastle HospitalのSam Yuen氏らが、報告を行った。American Journal of Hematology誌オンライン版2024年5月3日号の報告。  再発・難治性FLには、ポラツズマブ ベドチン(1.8mg/kg)+ベネトクラクス(800mg)+オビヌツズマブ(1,000mg)、再発・難治性DLBCLには、ポラツズマブ ベドチン(1.8mg/kg)+ベネトクラクス(800mg)+リツキシマブ(375mg/m2)の導入療法後(21日サイクル6回)、完全奏効(CR)または部分奏効(PR)を達成した患者に対し、ベネトクラクス+オビヌツズマブまたはリツキシマブによる治療を継続した。主要エンドポイントは、導入療法後のCR率とした。 主な結果は以下のとおり。 ・安全性評価対象患者はFLで74例(年齢中央値:64歳、1次治療24ヵ月以内の疾患進行率:25.7%、FLIPIスコア 3〜5:54.1%、過去の治療歴が2以上:74.3%)、DLBCLで57例(年齢中央値:65歳、IPIスコア 3〜5:54.4%、過去の治療歴が2以上:77.2%)であった。 ・最も一般的な非血液学的有害事象(主にグレード1〜2)は、下痢(FL:55.4%、DLBCL:47.4%)、悪心(FL:47.3%、DLBCL:36.8%)であり、最も一般的な血液毒性(グレード3〜4)は、好中球減少症(FL:39.2%、DLBCL:52.6%)であった。 ・有効性評価対象患者には、推奨される第II相試験の用量で治療を行なった患者を含めた(FL:49例、DLBCL:48例)。 ・導入療法後のCR率は、FLで59.2%、DLBCLで31.3%であった。 ・無増悪生存期間の中央値は、FLで22.8ヵ月(95%信頼区間[CI]:14.5〜評価不能)、DLBCLで4.6ヵ月(95%CI:3.6〜8.1)であった。  著者らは「再発・難治性のFLまたはDLBCLに対するポラツズマブ ベドチン+ベネトクラクス+オビヌツズマブ/リツキシマブは、許容可能な安全性を有しており、とくに高リスク患者を含む再発・難治性FLにおいては、有望な奏効率が認められた」としている。 (エクスメディオ 鷹野 敦夫) 原著論文はこちら Yuen S, et al. Am J Hematol. 2024 May 3. [Epub ahead of print]▶https://hpcr.jp/app/article/abstract/pubmed/38700035 血液内科 Pro(血液内科医限定)へ ※「血液内科 Pro」は血液内科医専門のサービスとなっております。他診療科の先生は引き続き「知見共有」をご利用ください。新規会員登録はこちら
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